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新しいテクノロジーには、えてして加熱した報道が行われ、過剰な期待が寄せられがちだ。最近で言えば、ジェネレーティブAI(生成AI)が非常に大きな注目を浴びており、ビジネスへの活用に対しての期待値も過熱気味と言えるほどに高まっている。
そんな中、新しいテクノロジーを、過大な広告や大袈裟な報道を意味する「ハイプ」と実用的な価値の観点からフェーズ分けして分析する「ハイプ・サイクル(Hype Cycles)」において、ジェネレーティブAIが現在、第2のフェーズである「過度な期待のピーク」に位置しているとの最新の分析が報じられた。
テクノロジーの成熟度と将来の可能性を追跡「ハイプ・サイクル」
この「ハイプ・サイクル」は、ITリサーチ&アドバイザリの世界的企業である米国ガートナー社によって、「スマートシティ」や「データセキュリティ」など、毎年90を超える様々な新しいテクノロジーに対して作成されている分析であり、企業の意思決定者が、イノベーションの成熟度と今後の可能性を追跡する支援ツールとして活用することを目的としている。
あるテクノロジーとそのアプリケーションの成熟度、また、それが実際のビジネス・社会における問題解決につながるかの経時的な変化をグラフ上で表現することで、新しいテクノロジーの可能性に関する知見を同社のアナリストの客観的な分析に基づいて提供しているハイプ・サイクルは、テクノロジーへの投資に関する意思決定に幅広く活用されている。
ハイプ・サイクル理論における5つのフェーズ
ハイプ・サイクルは5つのフェーズからなり、そのうちどのフェーズに分析対象のテクノロジーが位置するかが議論される。
5つのフェーズは、新しいテクノロジーが出現し、報道を通じて大きな注目が集まるが、多くの場合、まだ使用可能な製品は存在せず、商業的な可能性は証明されていない「黎明期:技術のトリガー」から始まる。
続いて、新技術に対する世間の注目が大きくなり、過度の興奮と非現実的な期待が生じ、成功事例が生み出されるが、多くの失敗も伴う「流行期:期待の高まりのピーク」へと移行する。
その後には「幻滅期:幻滅の谷」と呼ばれる、実験や実装が過度の期待に応えられず、メディアの関心も薄れていくフェーズが位置する。
次に、より多くの成功事例が具体化しはじめて、安定した技術への理解が広まり、第2世代と第3世代の製品が登場、より保守的な企業だけが慎重な姿勢をとる「回復期:啓蒙の坂」を経る。
そして、社会にその技術が幅広く導入されメインストリームとなり、プロバイダを評価する基準も明確に定義されていく「安定期:生産性のプラトー」で終わる。
ジェネレーティブAIは「流行期:期待の高まりのピーク」に
このハイプ・サイクルの最新のレポートによると、既存のコンテンツから学習し、画像やテキスト、プログラミングのコードなどを新しく作成できる人工知能「ジェネレーティブAI」は、過度の興奮と非現実的な期待が生じている「流行期:期待の高まりのピーク」にある。
「ChatGPT」が話題になったこともあり、一気にバズワードとなったジェネレーティブAIは、問い合わせ対応やコンテンツ作成、記録の要約、データ整理、プログラミングコード作成や修正、翻訳といった業務の標準化、自動化に活用できることから、ビジネスソリューションとしての活用にも期待が高まっている。
しかし、ジェネレーティブAIが語られる時、そこには「混乱や混同」が存在し、「ジェネレーティブAIは(実情とは異なっているにもかかわらず)ほぼ人間レベルの知能として位置づけられており、多くの人がそれを人間のあらゆる知的作業を理解・学習・実行できる『汎用人工知能(AGI)』と同一視している」とガートナー社のアナリストはコメントしている。
数多くのジェネレーティブAI搭載製品は「過剰な」アピール
このような過剰な世間からの注目を背景に、多くのテック企業が自社製品にジェネレーティブAIが組み込まれていることをアピールし、セールスにはげむようになっている。その有用性は玉石混合ではあるが、労働生産性を現場で実際に向上させている事例も数多く存在しており、仕事の在り方や人的資源の価値に影響を与える状況にもなっている。
しかし、ガートナー社のアナリストArun Chandrasekaran氏は、VentureBeat紙のインタビューで、AIが「流行期:期待の高まりのピーク」に達した主な理由として、ジェネレーティブAIが組み込まれていると主張する製品の数が膨大であること、また、そのような製品は「多くのユーザーが何らかのメリットを感じているとしても、それは現時点でベンダーが主張しているものには程遠いものである」として、開発企業が行う生産性向上効果の「過剰な」アピールによって、マーケットに多くの混乱が生じていると述べている。
関心が落ち込む「幻滅期」を経て主流まで5〜10年か
ハイプ・サイクルにおいて「流行期:期待の高まりのピーク」に達したと報告されたジェネレーティブAIだが、この技術は今後どこへ向かうのだろうか。
ハイプサイクルでは、新しいテクノロジーは「流行期:期待の高まりのピーク」の次には、期待に応えられず、関心が落ち込むフェーズである「幻滅期:幻滅の谷」を迎える可能性が高まることが示されている。
これは、イノベーションがメインストリームに持ち込まれ、普及に至るまでのサイクルの通常の一部であり、たとえばNFTは「流行期」を経て、この「幻滅期」に移行しつつある技術だ。
同社のアナリストは、ジェネレーティブAIが、企業にとって、さらには社会全体にとって長期的な価値をもたらすテクノロジーなのかについては、非常に議論の余地があるとしながらも、この「幻滅期」を経て、ジェネレーティブAIが主流に達するまで5〜10年と評価している。
日本版ハイプサイクルでは主流まで2〜5年との予想
この「ハイプ・サイクル」だが、ガートナージャパンによって、日本に特化して分析された「日本における未来志向型インフラ・テクノロジのハイプ・サイクル」も作成されており、こちらでは日本のマーケットの状況を反映して評価がなされている。
たとえば「メタバース」は、2022年のグローバル版では「黎明期」に位置づけられていたが、日本版では「流行期」と、一歩進んだ位置付けになっていた。
この日本版の最新バージョンも、この夏発表されており、そちらでは、ジェネレーティブAIはグローバル版と同様に「流行期」に位置しているが、主流までの期間は「2~5年」と、グローバル版より短い予測となっている。
誇大とも言える広告や報道と同時に、着実に活用事例の蓄積や技術の進歩も進んでいるジェネレーティブAI。混乱の時期にあるものの、今後の展開から目が離せない技術だと言えるだろう。
文:大津陽子
編集:岡徳之(Livit)