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メタ、ソーシャルメディアのNFT機能廃止を発表
大手企業によるNFT関連の取り組みが広がりを見せる中、メタがNFTの取り組みを終了することを発表した。この動きに対し、クリエイターコミュニティからは厳しい声があがっており、多くのメディアがその状況を伝えている。
メタのコマース&フィンテック部門責任者ステファン・カスリエル氏は3月14日、自身のツイッターアカウントにて、メタが運営するソーシャルメディア、フェイスブックとインスタグラムでのNFTの取り組みを縮小(wind down)することを明らかにした。
これにより、数カ月前に開始したインスタグラムでのNFTミントと販売のテストを終了、また今後数週間でインスタグラムとフェイスブックにおけるNFT共有機能を終了することになるという。The Vergeがメタの広報担当者ジョシュア・カウンター氏にメールで確認した。
カスリエル氏はツイッターで、「全社的に、どのようなことを優先するかを緊密に検討して、焦点を絞る」とした上で、「現在、デジタルコレクティブル(NFT)事業を縮小し、クリエイターや企業を支援する他の方法に焦点を当てている」と発表。また「スケール可能かつインパクトを与えられる分野、たとえばReelsでのメッセージングや収益化」、また「メタペイの改善」に焦点を当てていると述べている。
廃止されるNFT機能とは
今回、メタが終了を発表したNFTの取り組みとはどのようなものだったのか。
この取り組みが発表されたのは、2022年11月2日。
インスタグラムでNFTのミントと販売を可能にする機能で、米国の一部のクリエイターを対象にテストが開始された。
それまで、NFTクリエイターらは、OpenSeaなどの外部マーケットプレイスでNFTのミントと販売を行い、インスタグラムは作品を披露する場にとどまっていた。この新しい機能により、外部のマーケットプレイスを介さず、インスタグラム上でミントと販売が可能となり、クリエイターの生産性と収益性を改善するものとして期待を集めていた。
インスタグラムでのNFT生成は、Polygonブロックチェーンを活用。一方、他のプラットフォームで購入したNFTに関しては、Polygonのほか、Ethereum、Flow、Solanaなど複数のブロックチェーンをベースとするNFTもインスタグラム上で表示することができるようになっていた。
メタがこの取り組みを開始した背景には、TikTokとの競争がある。メタは、インスタグラムの収益化手段を多様化することで、クリエイターを引きつけようと考えていたのだ。
クリエイターからの批判
インスタグラムとフェイスブックにおけるNFT機能終了の発表を受け、テスト参加していたクリエイターらから厳しい声があがっている。
メタによるNFTの取り組みの参加者の1人、デイブ・クルーグマン氏は、インスタグラムで32万人近いフォロワーを持つクリエイターだ。クルーグマン氏は、カスリエル氏のツイートに対し、「短絡的な動き」で多くのクリエイターらの信頼を失墜させるものだと批判を展開。この批判ツイートを、The BlockやCointelegraphなど複数のメディアが報じる状況となっている。
クルーグマン氏は、インスタグラムでのNFT機能を介し、ファンと直接交流し、NFTを販売できるようになったことで、OpenSeaのような外部のマーケットプレイスに誘導する必要がなくなったと述べている。一度インスタグラム上で、100個のNFTを50ドルで販売したが1分以内に売り切れたという。
OpenSeaなどマーケットプレイスは、普段から暗号通貨やNFTを扱わない人にとっては、利用のハードルが高い。インスタグラム上で良い作品を見つけても、外部マーケットプレイスを利用する必要がある場合、作品の購入コンバージョン率は大幅に下がることが想定される。インスタグラム上で、一連の購入プロセスが完了する仕組みは、クリエイター、購入者ともに大きな利点があったと思われる。
Cointelegraphは、クルーグマン氏だけでなく、ポッドキャスター、マーク・コルサー氏やウェブ3企業Eearth Labsの共同創業者アレン・ヘナ氏の厳しい批判の声も伝えている。
コルサー氏は、今回メタがNFTの取り組みを終了するにあたり、なぜこのような意思決定に至ったのか、明確な説明が好ましいとツイート。また。長期的な視野で進めるべき取り組みのはずだが、今回の決定は近視眼的に見え、非常に残念だとの批判を展開した。また。フェイスブックはすでに時代遅れになっているが、インスタグラムもそのようになるかもしれないと辛辣なコメントを付け加えている。
一方アレン・ヘナ氏は、パブリックネットワークを利用するため、これまでのように収益を上げることができないと気付いたために、NFTの取り組みを終了したのではないかとの疑念の声をあげている。
メタの今後
メタがどのような理由でNFT取り組みを終了する決定に至ったのか定かではないが、収益性が見込めないことが理由の1つになったことは間違いない。
現在メタは、2023年を「効率の年(year of efficiency)」と定め、昨年実施した1万1000人のレイオフに続き、2023年3月14日にさらに1万人をレイオフする計画を発表。このレイオフ計画は、上記NFTの取り組み終了と同じタイミングで発表されている。
この状況下、メタは収益性の不確実性が低い領域にリソースを集中投下することが予想される。1つは、フェイスブックとインスタグラムですでに導入され、収益軸の1つとなっているClick-to-Messege(CTM)広告の横展開だ。アナリストらは、メタがCTM広告をメッセンジャーとWhatsAppに展開できれば、収益を大きく改善できると見込んでいる。
アマゾンやソニーをはじめとした他のテック大手は、NFT市場への参入を模索しており、水面下で取り組みを活発化していると言われている。メタの撤退にもかかわらず、NFT市場の動向は今後も注目を集めることが予想される。
文:細谷元(Livit)