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タイで暗号通貨発行の企業の法人税免除
web3産業の拡大を見越し、web3企業を誘致する動きが世界各地で活発化しつつある。これまではアラブ首長国連邦、ドバイの動きに注目が集まっていたが、東南アジアでもタイやシンガポールにおけるweb3企業の優遇取り組みが活発化している。
直近動向としては、2023年3月7日、タイでクリプトトークンを発行するweb3企業に対し法人税と付加価値税を免除する閣議決定が下されたところ。クリプトトークン発行による資金調達を目指す企業が対象になる。
ロイター通信はタイ政府広報者の話として、この新ルールにより今後2年でタイ国内で1280億バーツ(約37億1000万ドル)相当のトークン発行が見込まれ、影響を受ける税収額は約350億バーツになると伝えている。
タイではこの数年、クリプト産業の育成に向け、関連法規制が整備されており、今回の閣議決定もその一環の動きと見られている。2022年3月には、暗号通貨投資にかかる課税ルールが発表された。これによりトレーダーは、課税利益を損失分で相殺できるようになっただけでなく、国内で認可されている取引所での取引では付加価値税7%が免除される。免税期間は2022年4〜2023年12月。
さらにタイ内閣は、スタートアップへの直接・間接投資への優遇税制を明らかにしている。この税制では、スタートアップに2年以上投資を行った場合、2032年までの10年間、優遇税制の恩恵を受けられるという。
このほか、タイでは中央銀行デジタル通貨(CBDC)や「投資トークン」ライセンスに関する動きが水面下で進められているとの報道もある。
Cointelegraph2023年1月17日の記事によると、ダボス会議に出席していたタイ主要暗号通貨取引所Bitkubのジラユット・スルプスリソパCEOは、タイ中央銀行が現在中央銀行デジタル通貨(CBDC)の発行に向け試験を行っており、シンガポール金融通貨庁と2国間の送金実験を実施していると発言した。
また同CEOは、タイ政府が現在、クリプトライセンスとは別の投資トークンライセンスの発行に向け動いていることにも言及。この投資トークンライセンスは、債権やカーボンクレジット取引などが持つ価値をトークン化することを認可するもので、実現すればデジタル経済の起爆剤になるという。
シンガポール、web3企業が集まる理由
東南アジアではタイだけでなく、シンガポールでもこの数年web3/ブロックチェーン分野で活発な取り組みが実施されている。
2020年12月には政府主導のリサーチイニシアチブ「Singapore Blockchain Innovation Programme(SBIP)」が開始されることが発表された。これは、1200万シンガポールドルを投じ、民間企業におけるブロックチェーンの開発、商業化、導入を促すもの。同プログラムでは、2021〜2024年までの3年間で75社との連携が見込まれている。
このようなリサーチイニシアチブに加え、シンガポールはドバイと同様にブロックチェーン分野におけるグローバルハブになることを公言しており、企業や投資を世界各地から誘致するためのインフラ構築にも余念がない。
技術的な面では、インターネットの通信速度などが分かりやすい指標となる。
国別の通信速度を比較できるSpeedtest.netの2023年3月13日時点のデータによると、シンガポールのブロードバンド通信速度は、234Mbpsと世界1位だ。同じくブロックチェーンハブを目指すアラブ首長国連邦は207Mbpsで4位に位置している。
税制面ではもとより法人税率が低く、また高度人材が世界各地から集まりやすい環境になっていることも企業と投資が注目する点となっている。
2022年10月には、地元紙ストレーツ・タイムズが日本のweb3関連企業がシンガポールやドバイに集まっている状況を伝えているが、この中で日本における法人税の高さが企業流出の背景にあると指摘されている。
日本だけでなく世界各地からweb3関連企業が集まるシンガポールでは、web3コミュニティも着実に育っている。2022年11月には、web3企業の集積とコミュニティのネットワーキングを目的としたコワーキングオフィス「Metacamp」が開設されたばかり。オフィスへのアクセスには、NFTが必要となる。このオフィスを中心に、web3分野の投資家、スタートアップ、人材の交流が進み、web3関連の動きがさらに活発化することが見込まれる。
プッシュ要因で企業流出が懸念される国々
世界的に見ると、web3企業/投資の誘致で顕著な動きを見せているのがドバイ、シンガポール、タイといえる。これらの国・都市は、企業/投資が集まるいわゆるプル要因が強く働いている状況だ。
一方、プッシュ要因が強まる国もあり、こうした国々からは、企業/投資が流出している。法人税の高さから、web3企業が流出している日本もその1つとなる。
また、最近では米国におけるプッシュ要因の強まりを指摘する声も高まっているところ。
Rippleのブラッド・ガーリングハウスCEOは2023年3月3日、ブルームバーグの取材で、米国証券取引委員会(SEC)の暗号通貨業界に対する強権的な規制アプローチに懸念を表明。現状を鑑みると、SECのアプローチを鑑みると、米国の魅力が低下する可能性があり、実際すでにクリプト企業のオフショア化が始まっていると警鐘を鳴らしている。
米国での締め付けが厳しくなれば、ドバイ、シンガポール、タイへのweb3企業の流入は今後さらに加速することが予想される。
文:細谷元(Livit)