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11月14日は、インスリンを発見したカナダのフレデリック・バンティング博士の誕生日にちなんで、世界保健機関(WHO)によって制定された「世界糖尿病デー」だ。2006年12月20日の国連で公式に認定されて以来、毎年、世界160カ国から10億人以上が参加する、まさに、世界規模の疾患啓発日となっている。カナダのバンティング博士の邸宅・医院をはじめ、世界中の建造物等がブルーライトアップされるので記憶に残っている人も多いだろう。
糖尿病は、「世界の成人の10人に1人(10.5%)が抱える病気」で、「世界のどこかで、5秒に1人」が関連疾患で亡くなっている。しかも、「世界糖尿病デー」が制定された2006年は「10秒に1人」だったため、ここ16年間でなんと倍速で貴い命が奪われていることになる。残念ながら、糖尿病の患者数が増えているという点では、日本も世界的な動向と変わらない(世界糖尿病デー実行委員会-日本糖尿病学会、日本糖尿病協会-による)。
糖尿病の特徴は、就業世代で診断されることも多い疾患であるものの、慢性疾患であるため通院を続けなければならない。こうした中、持続的にグルコース値※を測定できるCGM(Continuous Glucose Monitoring:持続グルコース測定)技術を有するアボットジャパン(以下、アボット)と、オンライン診療のプラットフォーム・curon(クロン)を提供するMICINが、2022年10月に日本の糖尿病の新たな治療環境の構築へ向けて協業を開始した。両社のデジタル技術を掛け合わせることで、特に忙しい就労世代でも簡単に受けられる糖尿病の新たな治療環境の構築が期待される。
※細胞と細胞の間に存在する液体(間質液)中のグルコース(ブドウ糖)の濃度
糖尿病治療の現状 ~大きな課題は、“放置と治療の中断”~
糖尿病は、血糖値を抑えるインスリンの分泌やその効き目が低下し、高血糖状態が続く病気だ。やっかいなのは、血糖値が多少上がった初期段階では自覚症状をほとんど感じないために放置されがちな点だ。
高血糖状態が長い年月に及び続くことで、特有の合併症である、網膜症による視力低下や失明、腎症による人工透析、神経障害による脚の切断などのリスクが高まる。さらに糖尿病に加えて、高血圧や脂質異常症があると、動脈硬化を促進させ、脳梗塞や脳出血、心筋梗塞のリスクを高めるのだ。しかも、糖尿病の診断がついた時には、既に合併症が進んでいるケースも多く、後々のQOL(クオリティ・オブ・ライフ)を大きく低下させる要因にもなるのである。
糖尿病の早期発見、早期治療は、こうした合併症や関連疾患予防のために、極めて重要だ。しかしながら、「糖尿病を指摘されたことがある者」において「治療をしていない人」が全体の34%、20~59歳に限ると52%にも上るという直近の調査結果が出ており、働き盛りの年代において糖尿病が放置されがちなことを物語っている(厚生労働省「令和元年国民健康・栄養調査」より)。
しかも、毎年、8%程度が糖尿病の治療を中断し、その理由は、「仕事(学業)のため、忙しいから」(23.7%)、「体調がよいから」(15.1%)、「医療費が経済的に負担であるから」(13.4%)などが上位を占めている。理由は何であれ、治療を先送りにすることで合併症のリスクは確実に高まっていくことをいま一度、思い出してほしい。
忙しくても診療を受けられる環境を。アボット×MICINが挑む治療継続への取り組み
糖尿病では、小まめな血糖値の把握とその管理、そして定期的な診察が必要となるが、就業世代では忙しさと相まって、治療の放置や中断につながっていることが先の調査で浮き彫りになってきた。
さらに最近では、新型コロナウイルス感染症の流行により受診を控えている人が多くみられるなど、社会的な問題にもなっている。こうした糖尿病ならではの課題に対し、互いに異なるソリューションを有するアボットとMICINが協業して、特に、最も罹患(りかん)者が多い2型糖尿病における治療継続の重要性と、それをサポートし得る新たなツールの認知向上のための疾患啓発活動を共同で展開することになった。
その第1弾として、オンライン診療による「血糖変動モニタリング」という新たな取り組みがスタートした。これは患者さんが、自分に適した血糖管理方法に関するアドバイスを得ること、さらにオンライン診療に対応した医療機関を容易に探し出すことを可能にした、画期的な取り組みだ。希望すれば、そのままオンラインで医師の診療を受けることもでき、必要に応じてCGMデータ受信器、血糖自己測定器やスマートフォンアプリなどを活用した血糖変動モニタリングを行うこともできる。
従来、糖尿病の患者さんは、指先に針を刺して得た血液をもとに血糖値を測定していたが、この方法だと、測定時以外の血糖の変動を把握することはできなかった。しかし、アボットの製品をはじめ、現在、使用可能な持続グルコース測定器(以下、CGM)は、1日のうちで血糖がどのように変動しているかを測定、医師と遠隔でも共有できるようになった。インスリン療法を行っている全ての糖尿病患者さんが保険適用の範囲で使用可能となったCGMも既にあり、患者さんにとって負担となっていた血糖値の測定を取り巻く状況が、改善されつつあるのだ。
一方、curonは、患者さんはスマートフォン、パソコン、タブレットから、予約、問診、診察、決済、処方箋や医薬品の配送手続きまでをオンラインで完結することができるオンライン診療サービスだ。2016年4月に提供を始めて以来、2022年9月時点には全国で6,000を超える医療機関での導入実績がある。今回の開始に際して、糖尿病を患う方々や血糖管理を必要とする方々、そして「血糖変動モニタリング」に興味を持った方々が、遠隔での血糖管理について理解することができる特設ページもcuron上に公開した。
オンライン診療と親和性が高い糖尿病における治療に貢献
新型コロナウイルス感染症が拡大する中で、医療へのアクセスの利便性を高めるため、音声や動画通信を利用したオンライン診療が事実上解禁された。このような状況を背景に導入された「血糖変動モニタリング」は、糖尿病の新たな治療環境を構築するものとして期待されている。
特に糖尿病は、オンライン診療による通院回数の抑制や遠隔診療が受けられるというメリットを受けやすい。こうした点を踏まえ、MICINの代表取締役CEOの原聖吾氏は、「糖尿病等の慢性疾患は、継続的なケア、定期的な診察が必要なため、デジタル技術の介入や、オンライン診療による負担軽減が期待される。CGMで世界をリードするアボットと協業することで、一人でも多くの糖尿病患者さんにより良い治療サポートを提供したい」と語る。
一方、アボットのダイアベティスケア事業部ゼネラルマネージャーのキャロライン・ジョンソン氏は、「アボットはさまざまなパートナーと協業し、糖尿病治療に革新的なソリューションを提供すべく取り組んでいる。今回、CGMとcuronを組み合わせることで、日常生活において煩わしさを感じることなく、それぞれの患者さんに適した治療環境を可能にするデジタルソリューションが提供できると考えている」と述べる。
折しも厚生労働省では、2022年9月22日に、「医療DX令和ビジョン2030」厚生労働省推進チームを設置し、電子カルテ情報の標準化や医療情報の基盤プラットフォームの実現に向けた取り組みが始まった。今回の「血糖変動モニタリング」は、このような国が進める医療DXともゆくゆくは共存・連携し、より豊かな医療環境の構築に欠かせない存在になりそうだ。