「ハラール・コスメ」市場は、年々拡大の一途をたどっている。フォーチュン・ビジネス・インサイツによると、2020年に2120億米ドル(約28兆円)だった市場は、2028年までに7734億米ドル(約104兆円)に達すると予想されている。年平均成長率12.75%だ。ハラール製品の中で、化粧品が最も成長率が高いという。

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ハラール製品とは、簡単にいえば、イスラム法に則って製造され、使用が許されたもののこと。ハラール・コスメの成長を支えるのは、購買力がある、若いムスリム(イスラム教徒)。そしてノン・ムスリム(イスラム教徒ではない人)なのだという。

原材料はもちろん、生産過程にも注意が必要なハラール・コスメ

ハラール・コスメは、イスラム教の原則の下、許される成分で製造された化粧品のことだ。血液、豚、人体の一部、肉食動物、爬虫類、昆虫といった、動物性のものや、アルコールを原材料として用いてはならない。そのため、必然的に素材は植物性のものに限られてくる。

加えて原料の調達、製造工程や保管・流通・物流に至るまで、全過程においてハラールに準拠していなくてはならない。労働者の待遇に配慮し、製品の包装などでの環境汚染があってはいけない。動物実験も禁止だ。つまり倫理にかなった生産工程をとらなくてはならない。

ノン・ムスリムのサステナブルな嗜好とハラール・コスメは合致

昨年、ムスリムの化粧品購入費は前年比で6.8%アップし、700億米ドル(約9兆円)に達したことを、新興イスラム市場に特化した調査・アドバイザリー会社、ディナールスタンダードが、報告書「ステート・オブ・ザ・グローバル・イスラミック・エコノミー・レポート2022」で明らかにした。

2025年には930億米ドル(約12兆円)に達することが予想されるハラール・コスメを好むのは、ミレニアル世代前の若い世代と、「M世代」と呼ばれる、ミレニアム世代のムスリム消費者。M世代は、ファッションやエンターテインメントへの関心が高く、SNSも活用する一方で、イスラム教の教えを遵守し、自分たちが買うものに対し、厳格な倫理基準を設けているといわれる。

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そして、ハラール・コスメを好む、もう1つのグループがノン・ムスリムだ。

金融機関に特化したリサーチなどを行うベンチマーク・カンパニーが今年に入り、化粧品を購入する米国の女性消費者2000人以上に、化粧品の成分や包装についての考え方や習慣について調査した。すると、購入する美容・パーソナルケア製品がサステナブルであることは非常に重要だとした人は64%に上った。3年前には58%だった。

「サステナブル・ビューティ・ブランド」をサステナブルと呼ぶのには、どんな要素が必要かとの質問に、挙げられたのは、「動物を虐待していないこと。ヴィーガン」が86%でトップ。続いて、「倫理的に、環境や人に害を与えない方法で製造された」が75%、そして「自然環境に有害な物質を使っていない」が74%で、3年前とほぼ同じだった。

包装についても、「包装にリサイクルや再利用が可能な素材を採用している、美容・パーソナルケア製品を意図的に使用する」とした人は70%。追って生分解が可能な素材で包装を行っているものを使っているという人が48%、リフィルができるよう配慮したパッケージを取り入れたものを使っている人が36%だった。

この調査結果は、一般的なノン・ムスリム女性がどのような化粧品を好み、実際に購入しているかを示している。サステナブル・コスメと、ハラール・コスメとの間の線引きが難しくなっているのに気づかされる。

イタリアのハラール認証機関、ワールド・ハラール・オーソリティのCEO、モハメド・エルカフラウィ氏は、サステナブル・コスメなどの天然由来の原材料ででき、倫理面にも配慮したコスメは、ハラールの原則と一致していると説明する。ノン・ムスリム女性が、ハラール・コスメに興味を持ち、購入しても、何の不思議もないわけだ。

ハラール認証はトレーサビリティに優れた企業の証

ムスリム、ノン・ムスリムを問わず、製品の環境や倫理への影響を気遣う消費者が化粧品を購入する際、困るのは原材料の確認。パッケージ上のリストを見ても、それらが何なのか、わかりにくいからだ。

そんな時に役立つのが、ハラール認証だ。ハラール認証は、製品やサービスがイスラム法の要件を満たし、消費に適していることを保証するもの。各国にあるイスラム評議会によって定められた規定に沿って、厳格な審査が行われ、合格すると「ハラール・マーク」を該当製品に使うことが許される。

英国のハラール認証マークが付いた食品

ハラール認証を得るのに、重要なことの1つに、トレーサビリティを筆頭とした製品の生産過程上の透明性が挙げられる。2021年、英国の美容業界の発展と広報を行う業界団体、ブリティッシュ・ビューティ・カウンシルが紹介した世論調査によれば、化粧品類を購入する2万3000人のうち、半数近くがブランドの価値観や環境への取り組みについて、より多くの情報、明確さ、透明性を求めていることがわかった。

また、食品市場調査会社、イノーバ・マーケット・インサイツの「イノーバ・コンシューマー・サーベイ2020」によれば、世界の消費者の5人に3人が製品に対しての「透明性」を求めていることが明らかになった。

化粧品業界自体も、原材料の出どころや生産工程など、トレーサビリティをはじめとする企業運営上の透明性が、今後ますます問われることになると認めている。ハラール認証は、トレーサビリティも認証の対象とし、目を光らせる。

インドネシアとマレーシアがハラール・コスメ市場をリード

(インドネシアのBLP BeautyのFacebookから)

ムスリムが多いエリアというと、中近東を思い出しがちだが、実際は東南アジアのムスリム人口の方が圧倒的に多いそうだ。その中でも、人口の約87%がムスリムというインドネシアと、60%以上を占めるマレーシアが、ハラール・コスメ市場をけん引する。

インドネシアは、2020年世界第2位の国内ハラール経済市場だ。ディナールスタンダードの「グローバル・イスラミック・エコノミー・インディケーター」において、2018年の第10位から2020年には第4位に上昇した。ハラールフード指標のランキングでは、引き続き上昇を見せ、2020年には第2位。その他のハラール経済分野でも上位にランクインしている。

インドネシアでハラール認証を行うのは、政府系の認証機関、ハラール製品保証実施機関(BPJPH)だ。「インドネシア・ハラール・マーケッツ・レポート 2021-2022」によれば、2017年には64社しかなかった国内のハラール・コスメ企業は、2020年には214社にもなった。

2019年から製品へのハラール・非ハラール明示の義務化が開始され、製品の種類ごとに段階的に進められている。化粧品は昨年10月から始まり、2026年に完了する予定だ。

一方のマレーシアは、人口がそう多くないものの、経済規模は東南アジアで第4位、国際的なムスリム消費市場トップ5の1つに入っている。マレーシア・イスラム開発庁(JAKIM)は政府系ハラール認証機関であり、ハラール認証制度のパイオニアの1つとしてイスラム世界ではよく知られている。

政府は、複数の企業で構築された、ハラール製品やサービスを取り巻く共通の収益環境を拡大・促進するためにさまざまな取り組みを行ってきた。ハラールのOEM/ODM製造の主要国でもある。

昨年9月、同国の経済計画ユニットが発表したところによると、2020年にハラール産業は国のGDPに8.1%貢献したものの、輸出収入は306億リンギット(約9200億円)だったが、2025年には560億リンギット(約1兆7000億円)を生み出すと予想されている。ハラール・コスメの主な輸出先はシンガポールが断トツで、次いでトルコ、UAE、フィリピン、日本と続く。

インドネシアでもマレーシアでも、新しいブランドが市場をけん引

(マレーシアのSO.LEK CosmeticsのFacebookから)

インドネシアでもマレーシアでも、ハラール・コスメ市場をけん引するのは新しいブランドだ。ハラールではない化粧品と比べても何の遜色もなく、ファッショナブルで女性の心をつかんでいる。

インドネシア

・BLP Beauty

有名ビューティ・ブロガーのリジー・パラ氏が立ち上げ、現在では国内最大のハラール・コスメ・ブランドといわれる。女性のためのスキンケアとメイクアップの両方をそろえる。スキンケアは男性用もある。

・Luxcrime

インドネシア女性の美しさにインスパイアされて生まれたブランドで、クオリティの高いスキンケアとメイクアップを提供している。Z世代を意識した品ぞろえだ。

・Base

カラフルなパッケージが目を引くスキンケア・ブランド。ウェブサイト上にある質問に答えると、自分に合った製品を選んでくれた上、送ってくれる。パーソナライズ化したサービスが特徴だ。


マレーシア

・So.Lek

マレーシア文化や伝統を愛し、それを前面に押し出したメイクアップが特徴のブランド。商品名やその色の名前はマレーシア語で付けられている。値段は手ごろだが、サービスやクオリティに妥協はしない。

・dUCK Cosmetics

ヒジャーブ・ブランドのdUCKの姉妹ブラントとして誕生した。ディズニーやバスキン・ロビンズなどとのコラボ商品が楽しい。地元の化粧ブランドとして初めて、クアラルンプールの一流ショッピングモール、パビリオンに出店した。

・Nurish organiq

国内で一番のハラール・スキンケア・ブランドといわれる。100%天然の植物エキスとオーガニック成分を配合しており、人口着色料や鉱油を一切使用していない。サステナブル・コスメ愛用者にもファンがいる。

アジア・太平洋エリアのハラール・コスメ市場の前途は明るい。マレーシアン・コスメティックス&トイレタリーズ・インダストリー・グループのアルヴィン・イム氏は、2027年までにアジア・太平洋エリアのハラール・コスメ市場は1040億米ドル(約14兆円)にまで成長すると予想する。

ノン・ムスリムも安全で清潔、動物福祉に目を行き届かせた製品を求め、ハラール認証を持つ化粧品に注目している。カンター・ワールドパネルのプリタ・アニンジャ・ラクスミタ氏は、ハラールは製品の品質保証として、ムスリム、ノン・ムスリム両方に広く浸透しつつあると述べている。

文:クローディアー真理
編集:岡徳之(Livit