人口の世界トップといえば断トツの中国とインド。第3位のアメリカが3億人台なのと比べても、両国の14億人という数字は際立って多いことが分かる。

これまでの常識であった1位中国・2位インドは、様々な予測研究で2027年から2030年にかけて逆転し、1位インド・2位中国になると見られていたが、早くも来年にはこの逆転が起こるとする国連の人口予測が発表され、議論を生んでいる。

インドが予測よりも早く1位となる要因はなにか、また人口が世界最大になることによってどのような世界経済への影響があるのだろうか。

40年のうちに4億人増加した中国

常に世界最大級の人口を擁してきた中国。筆者が子どもだった40年前、「中国の人口は10億人」と学校で教わっていたが、気がつくともはや14億人を軽く超えている。世界銀行の統計によると2021年時点の中国の人口は14億1200万人強、日本の人口約1億2570万人の実に10倍以上だ。

1979年に1人っ子政策が施行され出生率が低下したため、2016年に政府は2人目の出産を容認、さらに2021年には3人までOKと迷走中だが、出生率は政府が期待しているほどには増加していない。市民1000人あたりの出生数は2017年に12.4人、2019年には10.5人、2021年になると7.52人へと落ち込んだ。

一方で、人口増加率は2000年から2010年の平均が0.57%、2011年から2021年には0.53%へと落ち込みつつも増加を継続している。

中国を追い抜くインド

同じ14億人でも少子高齢化が進む中国と比較して、若い年齢の人口が多いのがインドの特徴だ。人口の50%以上が25歳未満、65%が34歳未満という人口構成で1000人あたりの出生数は2009年の推計で22.22人、1人の女性あたりの出生率は2.72人。

そしてインドの人口急増の背景には、貧困や非識字率の高さ、死亡率の急減、それに近隣のバングラデシュやネパールからの移民があるとされている。貧困層ほど、労働力としての子どもを産む傾向があるのも事実だ。

今回国連が世界人口デーに発表した報告書によると、2022年時点で中国の人口は14億2600万人、次いでインドが14億1200万人。インドでは政府による国勢調査が直近で実施された2011年の時点で12億人を超えていたが、来年までにインドは中国を追い抜き世界最多になり、2050年にはインドの人口が16億6千万人まで増加し単独トップになると報告書は予測した。

世界の人口は今年11月までに80億人に到達すると発表。1950年の25億人から3倍以上になる計算で、さらに今後も増え続け2030年には85億人。2100年には104億人に到達する予測だ。

なお中国とインドの両国では、1位・2位の順位が入れ替わるにあたって、「数字に信ぴょう性がない」「人数で負けても生活が豊かなのは中国」など、議論も生まれている。

外資が参入しにくい、見えにくい市場

国民の平均年齢が28.7歳という若年層を中心に人口世界ナンバーワンの座が近いインド。その市場規模の大きさから、進出を企てる産業、企業も少なくないが現実はなかなか厳しい。

まず、インドの公式失業率は新型コロナウイルスの感染拡大による影響を受けた2020年を除いて、おおむね5%台で推移していると報道されている。しかしながら、仕事を求めて移住している近隣の中東諸国への出稼ぎ労働者とその家族や、失業したと自ら判定していない清掃業や物売り、事務所のお茶くみといった人たちの取り扱いなど、西欧諸国や我々の思う「失業率」の概念とは乖離があるのも事実。実際のパーセンテージはもう少し高いとみる専門家も多い。

失業率と重なるのが貧困だ。2000年代にインドは貧困を大幅に改善できたとしており、2011年から2015年までの5年間に極貧状態から脱却したのは約8000万人。経済成長率も7~8%で推移し、パンデミックの影響からも急速に回復し、世界銀行のデータによると2021年には8.9%の伸びを示している。

インドの若者が支えるIT産業と政府が促進する産業

若い労働人口の多いインドはIT大国としても知られている。

インドの全国ソフトウェア・サービス企業協会の発表によると、2021-22年の産業収益は2270億ドル(約31兆円)の見込み、15.5%の伸びを見せ、同年のGDP伸び率8〜9%の約2倍近くになるとしている。また、IT産業の収益は2026年に3500億ドル(約48兆円)に達する見込みだ。この産業は今年だけでも45万人の新規雇用を創出し、そのうち20万人が女性、現在合計で約500万人が従事している。

今後の成長はクラウドサービスやアナリティクスを中心に進むと予想しつつも、メインはカスタマーサービス。大手IT会社に電話をかけると、インドのコールセンターにつながる、という定説の背景はここにある。協会会長はまた、昨年11月に実施された米国FRBの量的緩和縮小決定は、インドにとって追い風になると強気の発言をしている。

IT産業だけではなく、インドでは注目の産業を政府がバックアップし、世界から注目を集めている。例えばグリーン水素産業構築宇宙産業関連への政府予算急増などだ。

モディ政権は2014年に、国内製造業の振興と海外からの投資促進、雇用の機会を増大させる「Make in India」キャンペーンを実施。2020年には「Self-reliant India(自立したインド)」をキーフレーズに、経済開発計画を発表するなど、世界経済でのインドの役割を拡大したい構え。パンデミック後の復帰への意欲や、国内で経済を活性化させようとする政府の勢いはある。

また、インドは自称「世界で2番目に英語を話す人口の多い国」であり、人口の約10%、1億4000万人が英語を話すと主張している。クセの強いアクセントがあり、ロンドンやニューヨークでは通用しないなどと揶揄されながらも、海外在住のインド人は日本をはじめ世界中どこでも見かける。

例えばアラブ首長国連邦では、実に350万人が外国人労働者やその家族として暮らしており、全首長国の人口の30%を占めているほど。国内でのサービス産業、また海外での労働力としてもこの英語力が武器となっているのだ。

インドの懸念

一方で懸念点が多いのもインドの現状だ。

悪名高い格差社会がなくならないインドは、上位10%の人たちの収入が国民総所得の57%を占め、下位50%の人たちの収入総額はわずか13%に過ぎない(2021年の統計)。

男女給与の格差も依然として解消されておらず、前述のソフトウェア・サービス企業協会が女性の新規雇用が約半数を占めると強調するのはこのせいでもある。

国連児童基金(ユニセフ)によると、インドでは男児に自由がある一方で、女児には移動や教育、就職などに極端な制限があり、就職する女子はわずか4人に1人だ。世界的に有力なインド人女性は存在するものの、大多数は不平等な人生を送っており、インドの発展には男女の格差解消なくしてはありえないと強調している。

また、インドでは毎日6万7000人以上の子どもが生まれている。これは世界中の新生児の6人に1人がインド人という計算で、毎年約2450万人。オーストラリアの人口が約2500万人であるから、毎年オーストラリアが丸ごと増加していると思うと、その多さも想像がつくだろう。

先の見えないインドの将来

人口の多さに貧困やインフラ整備が整っていないことがたたり、インドの環境インパクトは最悪のレベルだ。国内では、首都デリーで異常気象による大雨や洪水、有毒なスモッグが発生し、汚染された河川が流れる。

急速な経済発展に伴い、置き去りにされたのが環境への配慮だ。石炭使用量は中国に次いで世界2位、化石燃料からの脱却も、かなり遠い道のりに見える。COP26では石炭火力を廃止ではなく「削減」とする声明文言にこだわり、排出ゼロ目標は2070年に設定するなど、世界からのプレッシャーに抵抗を続けているようにも見える。

インドは働き盛りの若年層と深刻な貧困、極端な格差、そして間もなく世界一となる人口を抱えながら、国内の発展と世界での存在を高めようと苦戦している。外国資本を呼び込みたいとしながらも、複雑な税制や手続きで進出を諦める外資も少なくない。また、国境を有し、人口の世界1位を争う中国とは、互いに警戒と対抗心で緊張状態が続く。

国際機関が警鐘を鳴らす、多岐に渡る問題をどのように解決していくのか。また、中国での現象と同様にインドの中間層が急速に増加した際、世界は10億もの消費者に対応できる準備はあるのか、そしてそれはいつになるのか。

期待と不安が入り混じるインドの将来は、14億人の人たちの向こう側でなかなか見えてこないのが現実といえそうだ。

文:伊勢本ゆかり
編集:岡徳之(Livit