日本で議論を呼んだレジ袋の有料化だが、カナダでは、この先数年でプラスチック製のレジ袋を見ること自体がほとんどなくなるかもしれない。

同国議会はこのほど、使い捨てプラスチック禁止案の最終案をまとめ、使い捨てプラスチック利用禁止ロードマップを公開。

プラスチック製レジ袋、カトラリー、ストロー、マドラー、リングキャリア(缶入り飲料を束ねるプラスチック製品)、テイクアウト容器といった、リサイクルが困難な6種類のプラスチック製品を2022年12月から、製造・輸入禁止とすることを決定した。

続いて2023年には、これらの製品の販売が禁止され、2025年までには輸出も禁止される予定だ。

「国際的に見ても、同規模の国・地域の中で初めて」とまで言われる、このカナダの使い捨てプラスチック禁止案。カナダ国民は、プラスチックによる環境汚染と、その対策をどう受け止めているのだろうか。

カナダも対応に苦慮。使い捨てプラスチック製品による環境汚染

その利便性から日用品に幅広く使われてきた使い捨てプラスチック製品。それがこのところ世界中で、ここまで問題視されている理由として大きいのは、廃棄された後、海や河川、湖を広く汚染することが懸念されるからだ。

廃棄されたプラスチックの破片を、水生生物や水辺に生息する鳥類が食べてしまい死に至るだけでなく、人間も、直径5mm以下にまで細かくなったマイクロプラスチックを、魚介類を食べることで摂取していると言われており、その健康被害の可能性は未知数とされている。

使い捨てプラスチックの処理は世界各国で大きな問題に Photo by Jasmin Sessler on Unsplash

カナダでは、使い捨てプラスチック製品の消費量は、レジ袋で年間150億枚、ストローは1日あたり1600万本に上るが、リサイクル率は8%ほどにとどまっており、年間43000トンの使い捨てプラスチックが海や湖を汚染していることが問題になっている。

カナダが使い捨てプラスチック禁止ロードマップの作成に至る歩み

このように深刻化する使い捨てプラスチックによる汚染問題に対し、2022年、カナダは使い捨てプラスチック製品の幅広い使用禁止に至ったわけだが、その背景には、数年前からの段階的な政府の取り組みがあった。

適切に処理されなかった使い捨てプラスチックが海などを汚染している Photo by Naja Bertolt Jensen on Unsplash

2018年、カナダ政府はプラスチックの使用量を削減し、産業界と協力してプラスチックのリサイクル率を向上させるための国際的な「海洋プラスチック憲章」の作成を主導。フランス、ドイツ、コスタリカを含む28カ国の署名へとつなげ、国内向けには「プラスチック廃棄物ゼロ戦略」による新たな行動指針を発表した。

翌年2019年には、トルドー首相が、今後10年間で130万トン以上のプラスチック廃棄物をなくすとして段階的なプラスチック廃止を誓っている。

今回の製造・輸入禁止措置は今年12月に施行されるが、国内企業が在庫処分などに対応するのに十分な時間を与えるため、国内販売の禁止までには1年、輸出の禁止は2025年までとしている。

環境団体からは不満の声も

主な使い捨てプラスチック製品を、数年以内に、製造、輸入禁止から、販売禁止、輸入禁止まで取り締まる今回のカナダの取り組みは、かなり思い切った措置のように見える。

しかし、国内の環境団体や専門家からは、いくつか例外規定が設けられていることに対し、これでは不十分だとの不満の声もあがっているようだ。

たとえば、使い捨てのプラスチック製ストローは、「飲料容器と一緒に包装されている」「20本以上のパッケージが顧客の目に触れない形となっている」などの条件を満たせば販売できる、といった例外規定が、今回の規制措置には設けられている。

また、カナダは2030年までにすべてのプラスチック包装にリサイクル素材を50%以上使用することを約束しているが、プラスチック廃棄物の多くを占めているプラスチック包装の禁止は規制対象には含まれていない。

カナダ国民の使い捨てプラスチック問題に対する意識

一般のカナダ国民からは、今回のような使い捨てプラスチック製品の規制措置に対して、どのような反応が予測されるだろうか。

カナダで「プラスチック廃棄物ゼロ戦略」が策定された2018年には、いくつかの意識調査が行われたが、その結果に基づくと、規制の受け入れは比較的スムーズなことが予想されている。

プラスチックによる環境汚染に比較的関心が高く、規制が受け入れられやすいカナダ Photo by Bukola Oduntan on Unsplash

カナダの環境保護団体とモントリオール大学、ニューブランズウィック大学の研究者による非営利の研究イニシアチブである「EcoAnalytics」によって行われた、カナダ人のプラスチック汚染を含む環境問題への関心についての調査では、65%の回答者が、近隣の国や地域が対応していなくても、政府はレジ袋やストロー、ペットボトルなどの使い捨てプラスチックの使用を禁止するために迅速に行動すべきだという意見に賛成していた(31%は「強く賛成」)。

また、カナダ人の75%が、海洋へのプラスチックの蓄積を懸念しており、「最も心配な環境問題のトップ3」を問う質問においても、最も多く選ばれた回答となっていた。

使い捨てプラスチック規制に対して前向きなカナダ国民

2018年にはカナダの世論調査会社アバカスデータ社も全国調査を行っているが、こちらの調査でも、およそ3人に1人(36%)が、プラスチックによる水源の汚染を今日最も重要な環境問題の一つであると答え、さらに52%が自分にとって関心のある問題の一つであると答えていた。

そして、300万人以上(カナダ人成人の14%)が、自分自身が海洋のプラスチックゴミの問題に関与していることに疑問の余地はないと答え、さらに600万人(25%)が、おそらく関与していると回答しており、少なからぬ数の市民がこの問題に当事者性をもっていることを伺わせる。

小売業者やメーカー、レストランチェーンに対し、ゴミになるプラスチックの量を減らすように働きかける政府の規制についても、9割を超える人が支持を示しており、公教育においてキャンペーンを行うことや地域清掃の実施も9割以上の人が支持していた。

身近で急激に進む、脱・使い捨てプラスチックの流れ

現在、カナダのみならず、先進国を中心に、世界各地で脱・使い捨てプラスチックの動きが急激に進められている。

筆者の暮らす欧州においても、この数年でテイクアウト容器からプラスチックはほぼ消え去り、再生紙や、回収して再利用できるリユーザブル容器へと変わった。

テイクアウト容器も再生紙や再利用できる容器への移行が進む Photo by Andrea Davis on Unsplash

元々有料だった使い捨てプラスチック製の買い物袋も、取り扱い自体をなくし、有料の再生紙紙袋のみとするスーパーマーケットが増えている。

製造過程やリサイクル過程でより大きな環境負荷がかかる、他のタイプのゴミが増えるなど、批判的な意見も少なくない使い捨てプラスチックの使用減の取り組みだが、試行錯誤を繰り返し、他国の失敗に学びながらも、海、川、湖にプラスチック汚染が広がる現状を変えていくことが求められている。

文:大津陽子
編集:岡徳之(Livit