ジェフ・ベゾス、その元妻マッケンジー・スコット、マイケル・ブルームバーグ、ビル&メリンダ・ゲイツーーこの人たちの共通点はなにかご存じだろうか。お金持ちと答える人もあるかもしれない。たしかにそうだが、正解は2020年の米国富裕層による寄付額ランキングトップ50の上位者なのだ。

慈善活動についての専門家によれば、2020年は例年とかなり違った傾向が見られたという。寄付先が実に多様化し、なおかつ今までになかった団体が資金を得たという。

トップはAmazon.comのジェフ・ベゾス氏

毎年、米国富裕層が行う慈善活動を調査・分析し、寄付総額によって50位までのランキングを決定・発表しているのが、クロニクル・オブ・フィランソロピー社だ。同社は慈善団体関連の話題やニュースを集めた雑誌を発行している。

2020年、トップを飾ったのはジェフ・ベゾス氏だ。Amazon.comの共同創設者であり、取締役会長として知らない人はいないだろう。同社の最高経営責任者(CEO)を今年の第3四半期で退き、取締役会長に就任することを2月に発表している。慈善活動により時間を割きたいというのが理由のようだ。年間合計寄付額は100億米ドル(約1兆円)を超えている。

米国富裕層寄付額ランキングのトップ、ジェフ・ベゾス氏
© Seattle City Council (CC BY 2.0)

「地球にとって、最も危険なのは気候変動だ」と自ら語るように、昨年、気候変動抑制を進めるために私財を投じ、ベゾス・アース・ファンドを設立した。同ファンドを通し、環境問題に取り組む科学者やNGOなどに助成金を提供するという。

すでにザ・ネイチャー・コンサーバンシー、天然資源保護協議会(NRDC)、環境防衛基金、世界資源研究所、世界自然保護基金(WWF)が、各々1億ドル(約100億円)を受け取っている。

ゲイツ夫妻の今までの寄付額合計は6兆円

シアトルにあるビル&メリンダ・ゲイツ・ファウンデーション・ビジターセンター内にある「どんな状況下で生き、どこに住み、どんな生活を送っていようとも、あなたや私と同じ希望、同じ夢を持っている」というメッセージ © Jacklee (CC BY-SA 4.0)

べゾス氏の次、第2位とランクされたのは、氏の元妻であるマッケンジー・スコットさんだ。寄付額は約57万ドル(約6200億円)で、寄付先はフードバンク、複数の福祉団体、人種間の平等を実現するために活動する組織など、500以上に上った。

第3位はマイケル・ブルームバーグ氏。言わずとしれた、米国屈指の実業家兼政治家だ。大手情報サービス会社、ブルームバーグの創立者であり、ニューヨーク市長やWHO親善大使を務めたこともある。

寄付額は16億米ドル(約1700億円)だ。寄付先はやはり多様で、ブルームバーグ・フィランソロピーズを通して行う。歴史的黒人大学医学部や、新型コロナウイルスの影響で困窮生活を送る人など、また公衆衛生プログラムへの支援を行った。

また継続的に慈善活動を続けていることで、日本でも知られるビル&メリンダ・ゲイツ夫妻は第13位に入っている。2020年には、推定合計1億6000万米ドル(約170億円)の寄付をゲイツ・ファウンデーションを通じて行った。

1994年から現在に至るまでの寄付金の総計は548億米ドル(約6兆円)にも上るという。寄付先は多岐にわたるが、2020年は特にコロナの予防接種や治療法の開発をサポートしている。

コロナ・BLM関連など支援先は多様化

BLM運動が起こり、有色人種がリーダーを務める慈善団体や歴史的黒人大学が寄付先に挙がった
© Elvert Barnes (CC BY-SA 2.0)

クロニクル・オブ・フィランソロピー社によれば、2020年の寄付額ランキングトップ50人の支援先は今までにない多様性を見せたという。

中でも、社会情勢を反映した寄付先は興味深い。例えば、2020年といえば見逃すことができないのがコロナのパンデミック。トップ50のうちの複数の人たちがコロナ感染拡大抑制に貢献する団体に寄付をしている。

コロナは私たちの生活にも大きな影響を及ぼしている。最も顕著なのは、失業だろう。失職したことで食べるものにも、寝るところにも困る人が出ている。フードバンクや、ホームレス支援団体も寄付先として多くに選ばれた。

「ブラック・ライヴズ・マター(BLM)」運動も、コロナを背景に世界各地で盛り上がった。それを受け、歴史的黒人大学や、有色人種が経験している窮状を救う組織への支援が目立った。コロナの影響を受けた人のためとされるフードバンクやホームレス支援団体だが、これらは貧困率が高い有色人種も頼りにする組織だ。

また寄付者にもある傾向が見られた。1つはランキング50人中の約3分の1に当たる16人がテクノロジー産業で財をなしている。そしてもう1つは、50人中20人がカリフォルニア州に居住している点だ。

世界で最も寛大な国、米国

戦争基金や軍事公債の購入を市民に勧める、第二次世界大戦中の米国のポスター
© Boston Public Library (CC BY 2.0)

クロニクル・オブ・フィランソロピー社の寄付額ランキングトップ50は富裕層を対象にした調査。では一般人は寄付しているのかどうなのか。それを教えてくれるのが、英国の慈善団体、チャリティーズ・エイド・ファウンデーション(CAF)による「世界寄付指数」(2019年)だ。

「助けを求めている見知らぬ人を助けたか」「お金を寄付したか」「慈善団体などのために自分の時間を割いてボランティアを行ったか」の3点を調査のうえ、総合的に判断し、ランキングを決めている。

「世界寄付指数」によると、米国は過去10年間、世界で最も寛大な国と評価されてきた。ちなみに「お金の寄付をしたか」という問いに、「した」という回答を寄せたのは、61%に上った。

慈善活動は、英国植民地時代から米国社会にとって重要な位置にあった。当時、米国を旅し、国として形成されるのを観察していた、フランスの思想家・政治家・法律家のアレクシス・ド・トクヴィルは著書の中で「新しい国家(米国)の成功は、慈善団体と寄付に大きく依存している」と結論づけている。

初期には慈善事業は、主に宗教団体がリードし、同じ教徒の中の貧困層が抱える問題を解決したり、支援したりするものだった。中でもニューイングランドのピューリタンとペンシルバニアのクエーカーは、18世紀以前に慈善団体、慈善事業、独自の学校を設立した先駆者といわれる。

19世紀末から20世紀初頭にかけて慈善事業は近代化をみる。鉄鋼、石油、鉄道、電信、自動車産業で富を築いた多くの個人や家族からの大口の寄付によって成り立つようになった。ニューヨーク・カーネギー財団、ロックフェラー財団はこのころに、フォード財団も後を追って創設されている。慈善寄付をした場合に税金の控除が受けられるという法が整備されたのは、1917年のことだ。

第二次世界大戦時には、富裕層だけでなく一般人も赤十字社に寄付を行った。これが草の根の募金活動の始まりだそうだ。20世紀半ばになると、コミュニティ・ファウンデーション運動が展開。ある程度の資産を持つ人が共同で資金を出し合い、慈善活動を行った。全国規模の財団に代わるものであり、中規模から大規模の都市に暮らす人びとの生活改善に貢献した。寄付活動は大恐慌下でも続けられ、第1次世界大戦時には、兵士たちを支援するために行われた。

戦後、テレビの普及と共に寄付事業も変化を見せた。1949年に初のテレソンが放映され、長時間番組の中で資金を集め、寄付を募る理由を視聴者に知ってもらう機会とした。慈善団体によっては、テレビCMを利用して寄付金を集めることに成功した。しかし、ゴールデンタイムのCMは高額で、中小の規模の慈善団体には手が出せず、朝早くや夜遅くにCMは放送された。

2000年代に入ると、インターネットの普及が進んだ。2003年には米国の全世帯の半分以上が、インターネットが通じたコンピュータを保有するようになった。慈善団体もその流れに乗り、ウェブサイトで組織の説明や資金が必要な理由などの静的情報を発信。Eメールやパンフレットも併用し、ニュースレターやキャンペーンなどを告知した。

さらにソーシャルメディアが浸透し、1つのプロジェクトをソーシャルネットワークで多くの人びとが共有できるようになると、慈善団体はそれを活用。資金調達に特化したプラットフォーム、「クラウドファンディング」もこのころになると認知度が上がり、利用する団体が出てきた。インターネットバンキングも日常化し、募金活動も寄付もネット上で行われるようになった。

またスマートフォンが広まると、自宅などのコンピュータからだけでなく、場所を問わず寄付をできるようになった。

2020年のクロニクル・オブ・フィランソロピーによる寄付額ランキングで見られたトレンドである、寄付先の多様化や、寄付先として今まで見られなかった新しい慈善団体の登場など、富裕層の寄付の仕方はより良い方向に向かっているといえるだろう。

しかし、フォーブス社が発行する長者番付、「フォーブス400」に掲載されている富豪のうち、ランキングに顔を見せたのはたった23人とのこと。富豪に、社会における慈善活動や寄付の意味をまず知ってもらうところから始めなくてはならないのだろうか。

文:クローディアー真理
編集:岡徳之(Livit