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今やコーヒー文化は多くの国々で根付き、その消費量はワールドワイドで年々増加傾向にある。
それに伴い世界中で廃棄されるコーヒーを淹れたあとに出る「残りかす」は毎年230億トンにも上ることが今問題視されており、解決につながるテクノロジーの開発にさまざまな企業・組織が力を入れている。
本稿では海外で取り組まれている、コーヒーの残りかすをインテリアやエネルギーとして再生させるプロジェクトの最新事例をお伝えする。
残りかすがコーヒーブレイクにぴったりのインテリアに
今年(2018年)10月10日から14日にかけてメキシコで開催されたデザインウィークで注目を集めたのは、メキシコシティを拠点に活動するデザイナーXavier Loránd氏による「the Neroシリーズ」。
一見するとスタイリッシュでモダンなスツールとテーブルだが、実は原材料にコーヒーの残りかすが使用されている。
「the Neroシリーズ」(dezeenより転載)
作者であるLoránd氏はメキシコ国内でコーヒー消費量第2位の都市、ベラクルスの出身。本プロジェクトはもともと、コーヒー好きな彼の個人的なプロジェクトとして始まった。
自らスタジオ近辺のコーヒー屋を廻ってかすを集め、余分なごみを取り除き洗ったあと、自然乾燥させ、再度細かく粉砕する。それを植物ベースのレジンなどの原材料と混ぜ合わせ成形した。また同国のコンクリートメーカーである「Muro Blanco」とも協業し、何回も試作を重ねてようやく理想の質感を実現できたとdezeenに対して語った。
同シリーズは、材質と強度はコルクとMDF(木材を粉末にして圧縮して固めた素材)に似ているが、ほのかにコーヒーの香りがするという。
またthe Neroシリーズとあわせてデザインされた、「Provinciaシリーズ」という鮮やかな青色のコーヒーピッチャーやカップと一緒に使用し、コーヒーブレイクを楽しむこともできる。
「Provinciaシリーズ」(dezeenより転載)
ニューヨーク&Airbnbで話題、コーヒーのかすで動く家
コーヒーの残りかすの活用については、多くのアメリカ国民が愛するジャイアントコーヒーチェーン「ダンキンドーナツ」が手掛けたキャンペーンも話題を呼んだ。
今年10月、ニューヨークに突如として小さな家(キャビン)が現れた。このキャビンは屋内の明かりや空調などを動かすために必要な燃料の全てが、同社が排出したコーヒーかすを原料としたバイオ燃料によってまかなわれている。ダンキンドーナツのエコでグリーンな姿勢をアピールするプロジェクトとして実施された。
コーヒーを想起させるダークな外観(ダンキンドーナツのAirbnbページより)
約7.5坪のこのキャビンは、小スペースのデザインを専門とする「New Frontier Tiny Homes」のCEO、David Latimer氏によってデザインされ、小さいながらもバスルーム、リビングルームにダイニングスペースなど、生活に必要な最低限のスペースはもちろん、収納場所も完備している。
就寝場所はロフト部を有効に活用することでキングサイズのベッドを配置することに成功。キッチンに至っては食洗器付きで、一般的なマンハッタンのアパートと同じような設備だ。開閉式のパティオを開けることでさらにスペースを確保することができ、最大で大人10人を収容できるのだという。
インテリアデザインは、俳優で映画監督のOlivia Wilde氏が手がけた。シックな外観とは打って変わって、ダンキンドーナツのコーポレートカラーであるピンクとオレンジを随所に使い、ポップな印象に。このキャビンがAirbnbで一晩10ドルで掲載され、予約が殺到したことも話題の的となった。
オレンジとピンクのポップなインテリア。ダンキンドーナツのコーヒー豆も完備されている(ダンキンドーナツのAirbnbページより)
このキャビンはダンキンドーナツとアメリカのエネルギー会社「Blue Marble Biomaterials」が協業して生み出すエネルギーで動いている。燃焼効率を上げるため、20%はアルコールが混ざっているものの、80%は同社が排出したコーヒーの残りかすから生成。約77キログラムの残りかすから約4リットルの燃料が得られるという。
現在このキャビンはマサチューセッツ州に移動し、そこでもAirbnbの物件としてリストアップされている(記事執筆時点の2018年11月10日時点では予約の空きなし)。すでに宿泊したユーザーからも「すばらしい体験だった」「聞いていたとおりクールだった」と好評だ。
ダンキンドーナツの掲げるスローガン「America Runs On Dunkin’」は「ダンキンのドーナツやコーヒーがアメリカ人に活力を与え、それにより国全体が動いている」というものだが、今回は文字通りダンキンドーナツが家全体にエネルギーを与え動かしたことになる。
コーヒー由来の燃料が新代替エネルギーとして期待
ダンキンドーナツのキャンペーンは、近年需要が高まるミニマルでスタイリッシュな生活とサステナビリティは両立できることを示した好例として認知されたが、実はすでにコーヒーの残りかすをエネルギーに変換し、実績を挙げているスタートアップも存在する。
ロンドンベースの「Bio-Bean」は年間5万トンもの残りかすをエネルギーとして再生させており、これはイギリス人が年間に消費するコーヒーの10分の1に相当するという。
同社の「コーヒーログ」はその名の通りコーヒーの残りかすがリサイクルされた丸太状の燃料で、これらは一般家庭のストーブや暖炉用として量販店などでイギリス国内で広く流通している。同社によると、一つの丸太を作るのにコーヒーカップ25杯分の残りかすが再利用されているという。
Bio-Beanの「コーヒーログ」。イギリスの一般家庭で広く使われている(同社の公式Facebookアカウントより)
また、同社が大手エネルギー会社「Shell」「Argent Enargy」と協業して生み出したバイオ燃料「B20」は、世界初のコーヒーの残りかす由来の燃料で、実際にロンドン市内を運行するバスの動力として使われ、次世代のクリーンエネルギーとして世界中から賞賛を得ている。
「Your Coffee Can Now Help Power Buses(コーヒーはバスも動かせる)」、昨年(2017年)同社のメッセージ入りのバスがロンドン市内を運行した
コーヒーの残りかすは畑の肥料や消臭剤として使われるなど、家庭レベルでのリサイクル・リユースであればこれまでも広く行われてきた。しかし、昨今はサステナビリティを重視する風潮がますます高まっていることから、本稿で紹介したようなより大きな規模での再生技術が必要とされている。
この先、身近なものが実はコーヒー由来のエネルギーで動いている…。あるいはコーヒーのかすのように身近で意外なものがエネルギーに変換される未来が、近く訪れるかもしれない。
文:橋本沙織
編集:岡徳之(Livit)