国外で活躍するプロフェッショナルにバンキングソリューションを提供するHSBCエキスパットは毎年、海外に居住し働く人々の意見が反映された「住みやすい国ランキング」を発表している。

2,2000人からの声を集めた最新ランキングでは、1位シンガポール、2位ニュージーランド、3位ドイツ、4位カナダ、5位バーレーン、6位オーストラリア、7位スウェーデン、8位スイス、9位台湾、10位アラブ首長国連邦、日本は30位という結果となった。
このランキングで特筆すべき点は、家族と共に海外に移り住む人の声が大きく反映されており、収入やキャリアアップといった側面だけでなく、家族で住みやすいか、また子供の教育環境などが考慮されているところだ。

各国の評価は、「エクスペリエンス」(生活の満足度、治安、医療、現地コミュニティの受け入れなど)、「エコノミー」(給与・キャリアアップの可能性、個人の経済状況、その国の経済状況など)、「ファミリー」(子育てのコスト、教育の質、パートナーとの関係性など)の3つの側面から行われ、他多くのビジネスの観点からのみ集計されたランキングとは違った切り口で各国での生活を伺い知ることができる。


子供の教育環境(Pixabayより)

このランキングの評価項目を参考に、ランキングで上位に入った国々が高評価を得た理由を、生活の質や家族との暮らしにおける魅力という観点から探ってみた。

4年連続総合首位、キャリアの追求を目指す国シンガポール

シンガポールは4年連続で総合1位となっており、母国よりも収入・キャリアの向上が見込めるとして、多くのハイスキル外国人人材を惹きつけている。


ランキング上位国(HSBCエキスパットより)

しかし、この国の魅力はキャリアアップのチャンスだけではない。この調査に参加したシンガポール在住外国人のうち、雇用主によって派遣されている、いわゆる駐在員は27%にすぎず、多くの回答者はシンガポールにおける生活のクオリティに惹かれて移り住んだと回答していた。

物価や教育費の高さとそれに伴う貯蓄の困難さ、またワークライフバランスの実現が困難など、ネガティブな側面もあるシンガポールの生活。それでもこの国が人気を集めているのは、家族と快適に暮らすのに欠かせない治安の良さと充実した医療、そしてなにより非常に高い教育水準だ。


ハイレベルの教育で知られるシンガポール(Pixabayより)

シンガポールの学生はハイレベルな英語力や国際学習到達度調査で高い学力を示すことで知られているが、特に近年の高等教育機関の躍進は目覚ましい。QS世界大学ランキングの最新版では、シンガポール国立大学が11位、南洋理工大が12位と、アジア1位・2位をシンガポールの大学が独占し、東大の23位に差をつけた。

生活の質で高評価のニュージーランド

総合2位のニュージーランドは、「エクスペリエンス」で1位、「ファミリー」で2位にランクインしており、自分と家族の生活の質を追求するために移り住んだ人が多かった。

絵はがきのような美しい自然と世界7大電子政府に選ばれた先進的でイノベーティブな側面をあわせ持つニュージーランドは、仕事と生活のバランスをとれる国、家族との時間を大切にできる国としてたびたびメディアに取り上げられる。

今年は、週休3日の導入を成功させた企業Perpetual Guardian社が話題となった他、現首相のアーダーン氏が、世界で初の「産休を取った在任中の首相」となり、産休からの復帰後には、国連の会合に生後3カ月の娘と出席する首相、また子育てのキーパーソンとなったテレビ司会者のパートナーの姿が日本でも広く報道された。

ニュージーランド政府が作成している移住者に向けたページ「NEW ZEALAND NOW」では、“Get a career. And a life.”との見出しが掲げられ、この国における働き方を端的にアピールしている。


生活の質を追求できる国 ニュージーランド(Pixabayより)

家族視点で首位のスウェーデン

総合7位のスウェーデンは「ファミリー」項目で1位にランクインし、子育て・教育先進国として知られる北欧諸国のイメージを裏切らない結果となった。

先進国ではトップクラスの出生率を誇るスウェーデン。共働きがほとんどのこの国で、安心して子供を産み育てられる理由のひとつは、両親ともに取得率が8割前後に達する育休の充実度だ。取得のしやすさに加え、最初の 390 日間は働いていた時の給与の8 割、残りの90日間は一日約900円の定額給付、あわせて最長480日間と育休期間の収入も保障されている。

また、スウェーデンは就学前教育や、学童保育の質にも定評がある。小学校低学年では8割以上が参加する学童保育は、余暇教育士(Fritidspedagog)等、専門的な教育を受けた者が指導にあたり、子供たちが放課後の時間を意義深くすごせるように尽力している。

一位のシンガポールと比較すると、どちらも教育のレベルが高い点は共通しているのだが、スウェーデンは質の高い教育や医療のコスト負担感が低いことも評価されていた。


家族とすごす時間の充実(Pixabayより)

ランキング上位各国の個性豊かな魅力

ファイナンス面とワークカルチャーのバランスの良さで上位となったスイスとドイツ、外国人に対する寛容さと起業文化が評価されたカナダに加え、他のランキング上位の国々もそれぞれ家族や生活という観点で多様な魅力をもっている。

オーストラリアは、母国より「健康」になったと感じられる点が高評価だった。アウトドアを楽しむには事欠かないダイナミックな自然環境に恵まれているだけでなく、スポーツ好きとして知られるこの国は、放課後にコーチのついたスポーツに無料で参加できるプログラムが政府の支援で実施されており、子供たちに運動を習慣づけ、健康増進をはかることができる。

「人」の観点から高い評価を得ていたのは台湾だ。海外に移り住むにあたって、現地の人々とのかかわりはその国の印象を大きく左右する。現地の友人が作りやすいとの回答が多かったこの国は、エキスパットのためのSNS 「Internations」のランキングで世界一フレンドリーな国に選ばれたこともあり、外国人に現地社会に暖かく迎え入れられている印象を与えるようだ。


寛容な中東の島国バーレーン(Pixabayより)

外国人が人口の半数以上を占めるバーレーン、アラブ首長国連邦は、給与面や治安の良さが評価された。特にアラビア半島の真珠とも言われる島国バーレーンは、美しい海とフレンドリーな人々、イスラム国家ではあるが外国人に寛容であり飲酒や女性の服装も比較的自由である点から人気が高かった。

「住みやすい国ランキング」で上位に入った各国は、より良いキャリア、給与、教育環境、生活環境、ワークライフバランスを求めて、国境を越えて高度人材が移動する今、それぞれの魅力で外国人人材を惹きつけている。日本も総合30位ではあるものの、安全面ではトップの評価を受けており、文化の独自性を魅力だと感じる外国人も少なくない。

グローバルな高度人材の獲得が国の成長に重要との認識が高まり、世界的に人材獲得競争が激化する中、各国は自国の強みを生かしアピールすると同時に、低い評価を受ける点の改善を目指している。比較的新しい国であるシンガポールが連続首位を獲得しているこのランキング、これからどのような国がランクインし、人気を集めるのか楽しみだ。

文:大津陽子
編集:岡徳之(Livit