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知られざるウェブサイトやEメールの環境インパクト
Eメールの受信ボックスにたまり続ける未読の広告販促メール。
Cleanfoxの調査によると、2020年は世界中でこのような無駄メールが1秒間に350万件送信されていたという。
この無駄なメールが与える影響は、受信ボックスの汚染にとどまらない。Eメール1件あたりにかかるカーボンフットプリントは、10グラムといわれている。これは、7ワットの電球を3時間利用するのに相当するもの。
Cleanfoxの推計では、無駄なメールを含めたインターネット全体のカーボンフットプリントは、世界全体の3.7%を占めるというのだ。航空産業やロシアと同じ規模のカーボンフットプリントとなる。
英国では、2020年の1年間で受信した平均メール数は、Z世代で2598件、X世代で6653件だったが、開封率はそれぞれ16%と23%にとどまった。
カーボンフットプリントが発生するのは、メールの送受信だけではなく、ためるという行為からも発生する。データセンターのストレージに影響を与え、電力消費を増やすことになるからだ。
Cleanfoxによると、英国全体で無駄なメールをすべて削除するだけで、年間200万トンの二酸化炭素を削減できるという。自動車に換算すると、年間130万台分のカーボンフットプリントを抑制できることになる。
ブランド企業も無視できないデジタル汚染
海外では大手メディアによる、このようなメールやウェブ利用にかかるカーボンフットプリント関連の報道が増えており、消費者意識にも影響を及ぼし始めている。
この消費者意識の変化は、消費者と直接やりとりするブランド企業のデジタルの取り組みにも影響を与え始めている。
たとえば、フォルクスワーゲン・カナダは2021年2月、同社のEVプロモーションの一環として、またウェブブラウジングにかかるカーボンフットプリント問題を周知させる目的で、持続可能なウェブサイトデザインを導入した。
一般的な企業ウェブサイトは、訪問者の関心を高めるため写真・イラスト・動画などが散りばめられた華やかなものとなっている。しかし、こうしたウェブサイトでは、ページビューあたり平均1.76グラムの二酸化炭素が発生するといわれている。月間ビュー数が10万件の場合、このウェブサイトだけで、年間2112キログラムの二酸化炭素が発生する計算になる。
フォルクスワーゲン・カナダが導入した持続可能なウェブサイトは、写真や動画を一切使用せず、白と黒のみによるシンプルなデザイン。
2021年2月時点の同社発表によると、同ウェブサイトのページビューあたりのカーボンフットプリントは、0.022グラムと一般的なウェブサイトの1.76グラムを大幅に下回るものだったという。ウェブサイトのページビューあたりのカーボンフットプリント計算は、二酸化炭素計算サイト「Website Carbon」にて実施された。
GAFAM、カーボンフリーやカーボンネガティブが標準に
デジタル関連のカーボンフットプリント認知が広がると、巨大なデータセンターを運営するテック大手企業への風当たりが強くなることが想定できるが、GAFAM企業などはそれらを想定し、すでに様々な対策に乗り出している。
グーグルは2020年9月、すべてのデータセンターの運営にかかる電力を2030年までにカーボンフリーにするという目標を発表。
これに関連し、2021年6月には、世界各地で運営するデータセンターのカーボンフリー率を算出したレポート(2020年版)を発表し、目的に向けた進捗を報告している。
このレポートによると、2020年データセンター全体の平均カーボンフリー率は67%と前年の61%から6ポイント上昇したという。
データセンター別にみると、最も高いカーボンフリー率を達成しているのが、フィンランド・ハミナのデータセンターだ。実に94%のカーボンフリー率を達成している。このほか、米オクラホマ州メイズで92%、デンマーク・フレゼリシアで90%、米オレゴン州ザ・ダレスで90%など高いカーボンフリー率を達成。
一方、シンガポールで4%、台湾で18%、アイルランド・ダブリンで42%などとバラツキもみられる。
マイクロソフトも2030年までに「カーボンネガティブ」、そして2050年までに創業以来利用してきた電力すべてを相殺するという大胆な目標をかかげ、取り組みを行っている。
2030年までのカーボンネガティブ達成は、大きく既存サプライチェーンにおける温室効果ガス削減とカーボン除去取り組みの加速によって実現させようとしている。
温室効果ガス削減に関しては、2025年までにサプライチェーンで利用する電力をすべてグリーンエネルギーによって発電されたものにシフトする見込み。カーボン除去は、植林や森林再生のほか、二酸化炭素貯蔵技術への投資によって実現する構えだ。
国際電気通信連合(ITU)による推計では、2021年時点の世界のインターネット利用者は約49億人。世界人口の63%が利用していることになるが、依然30億人がインターネットにアクセスできていない。この伸びしろに加え、既存利用者の間でもビデオコールや高画質動画の利用が増えており、デジタル利用によるカーボンフットプリントの増加は避けられない状況といえる。
今後、GAFAMを筆頭にデジタル産業のカーボンニュートラルやカーボンネガティブの動きがさらに加速していくことになるはずだ。
文:細谷元(Livit)