アフリカのサハラ以南地域では、今日も推定3億1,900万人ほどの人々が、最も汚染された水源へのアクセスのみで生活することを強いられており、毎年約200万人の子供が5歳を迎える前に亡くなっている。こうした汚染水源は、コレラ、下痢、赤痢、A型肝炎、腸チフス、ポリオなどの病気感染を引き起こす。
この問題を解決するため、各地で様々な政府団体、NGO、NPO、民間企業が、浄化剤や浄化装置、井戸などの貯水装置の提供を行っているが、こうした活動に充てられる資金は、平たく言えば、いかなる場合も誰かの善意、つまり「彼らを助けたい」という気持ちから集められる。そのため、問題解決の必要性がより多くの人々に認識され、支援の輪が広がることは非常に重要である。
そんな中、世界の飢えと渇きの問題に取り組むNGO、Action Against Hungerが現在も行っている「Water of Africa(アフリカの水)」キャンペーンは、まったく新しいやり方で人々の支援を多く募った成功事例といえる。
同キャンペーンでは、実際に病気感染を引き起こしている現地の汚染水をそのままペットポトルに入れ、ラベルを貼って値段をつけ、世界のあらゆる場所で活動に賛同した小売り店、オンラインショッピングサイト、レストラン、美術館、フードデリバリーアプリなどで販売した。浄水を支援が必要な地域に”輸入”するのではなく、わざわざ汚染水を他国へ”輸出”したのだ。
「Water of Africa」のブランド名が印刷されたラベルには、その水が引き起こす病名が通常の品質表示のような形で記載され、商品の隣には問題の背景を記した文章が添えられる。実際の水の汚れ具合は一目瞭然であり、手に取った人々は自分の生活からかけ離れた問題を直視せざるを得ない。実物の汚染水は、サハラ以南地域での現状を知るための参考資料として最も優れていたのだ。
市場に出回るとすぐに、この商品は各種ニュースメディアやインフルエンサーによって話題にされ、他にもスポーツイベントとのタイアップ、イタリアのミネラルウォーターの販売者による宣伝などを通して幅広い認知を獲得し、欧州議会が本商品を用いて支援の必要性をアピールする事態にまで発展した。
同キャンペーンは、過去にIDEAS FOR GOODが紹介した「ツバル外相のスピーチ」や、森林火災について啓発する「燃えない新聞」と通ずるところがある。問題の核心を視覚的に伝えるシンボルを作り、SNSでそれを大きく話題にしてもらうことで、支援者の数を効果的に増やした。キャンペーン開始前と比べると、Action Against Hungerのウェブサイトには6.26倍の人々が訪れ、キャンペーンへの寄付金は4.55倍にまで増加し、約1,800万㎥の浄化水を新たに対象地域に届けることが可能になったという。
突飛なアイデアにも思えるが、清潔な水がなく困っている人々を現場で真剣に支援してきた同団体だからこそ「問題を目の当たりにすること」の意義を全面に押し出した同キャンペーンが生まれたのかもしれない。
同キャンペーンを通した支援の盛り上がりは、時間が経てば少し落ち着くだろう。しかし、今回この問題の支援に加わった人々が感じた「彼らを助けたい」という気持ちは、必ずその人の中に残る。支援のバトンがこれからも回され続け、該当地域での生活改善が進んでいくことを期待したい。
【参照サイト】Action Against Hunger
【参照サイト】WHO Africa – Water
【参照サイト】どんなに汚くてもこの水を飲むしかない…。
(元記事はこちら)IDEAS FOR GOOD:「3億人以上に飲まれている商品です」アフリカの汚染水が、世界中で販売された理由