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国内外での食品ロスの現状
日本でも政府機関による情報発信も手伝い「食品ロス」問題への関心が高まっている。
消費者庁によると、国内における年間食品ロスは570万トンと、世界中の食料援助量(420万トン)の1.4倍に相当。国民1人あたりでは1日にお茶碗約1杯分(約124グラム)の食料が捨てられていると注意喚起している。
世界的に見ると食品ロス問題は、2020年にはロックダウンによる自炊が増えたことで、若干の改善が見られたが、2021年に入り再び廃棄量が増えているといわれている。
ワシントン・ポストが2021年2月に伝えたReFedのデータによると、米国では、消費されるために生産された食料の3分の1が消費されずに廃棄されているという。金額では4080億ドル(約47兆円)に相当する。
食品ロスは、もったいないというだけでなく、無駄な温室効果ガスの排出や水の過剰利用など環境問題につながることが指摘されており、カーボンニュートラルへの関心の高まりともに環境問題として取り扱われるようになっている。
国連食糧農業機関(FAO)の推計によると、食料生産で利用される水の量は、地球上で利用できる水全体の70%に及ぶ。りんご1つを生産するために約125リットルの水が利用されているという。また、食肉生産では、1キログラムを生産するのに1万5400リットルの水が使われている。
また、食料生産では機械を動かすのに多くのガソリンやディーゼルが使われており、排出される二酸化炭素量は、年間33億トンに上る。これは、旅客機・貨物機など飛行機から排出される二酸化炭素量10億4000万トンの3倍以上となる量だ。
食品ロス削減、スタートアップによる様々なアプローチ
深刻化する食品ロス問題に対しては、国際機関や各国政府だけでなく、スタートアップも様々な取り組みを行っている。
そのアプローチは、大きく「マッチング」「鮮度マネジメント」「廃棄物活用」の3つに分けられる。
まず「マッチング」について。このアプローチは、レストランなどにおける余剰食材・食品と消費者を結びつけ、無駄をなくすというもの。
デンマークのスタートアップ「Too Good To Go」などがこのアプローチで、食品ロス問題に取り組んでいる。
Too Good To Goは、レストラン、ベーカリー、カフェなどの外食店舗と消費者を結び、外食店舗で発生した余剰食材・食品を通常より安い価格で、消費者に融通するプラットフォームを提供している。
デンマーク発ながら、海外でも広く展開。米国ではすでに、ニューヨークやサンフランシスコなど13都市に展開し、6000社のパートナー、150万人の利用者を獲得している。同社によると、米国ではこの取り組みによって、97万5000食分の廃棄を減らすことができたという。
米国のほかにも、パリ、ロンドン、マドリード、トロント、アムステルダムなど世界的な大都市で利用されており、2016年以来17カ国で累計1億食分以上の廃棄削減に寄与したとのこと。
APIによる鮮度管理で食品ロスを防ぐアプローチ
一方、英国のBlakBearは、センサーとAPIを使ったリアルタイムの鮮度管理システムで、食品ロスを減らすことを目指している。
食品・食材の鮮度を可視化できれば、それらの利用スケジュールを最適化し、廃棄量を減らすことが可能となる。英インペリアル・カレッジ・ロンドンの研究者らがそれを可能にするシステムを開発し、スピンオフしたスタートアップだ。
これまでの食品管理では、主にコードが使われてきた。コードには生産日や消費期限などの情報が含まれており、その情報から食品の鮮度を予想することができた。しかし、温度・湿度などの外部環境に大きく影響を受ける鮮度をリアルタイムかつ精確に把握することは困難であった。
BlakBearのセンサーは、リアルタイムにアンモニア濃度などの化学物質濃度を検知し、そこからダイナミックに変化する消費期限を計算することが可能という。センサーは非常に安価なもので、広く普及する可能性を秘めている。
廃棄物を価値あるプロダクトに変化させるアプローチ
廃棄される食品の部位を他の産業で利用できる価値あるプロダクトに変えることで、廃棄・環境問題解決に貢献しようというスタートアップも存在する。
オランダのPeelPioneersは、本来なら廃棄される柑橘類の皮を使い、オイルや繊維を生産する技術を持つスタートアップだ。
近年、フレッシュジュースの需要が高まる中、その生産過程で排出される廃棄皮も増加傾向にあり、廃棄問題に拍車をかけているといわれている。
PeelPioneersが柑橘類の皮から生産するオイルや繊維は、たとえばファンクショナルフードの材料などに活用されている。また、近年人気が高まる植物ベースの肉の材料としても利用されているという。
2017年に事業を開始した同社、2018年にはオランダ国内に皮工場を開設したが、需要の増加が顕著で、2021年にも国内で新たな工場を開設している。
欧州では、食品ロス問題に取り組むスタートアップに対するベンチャーキャピタルの関心が高まりつつあるといわれており、投資熱を背景に今後短期間で急成長する企業が出てくる可能性もある。食品ロス問題に歯止めがかかるのか、スタートアップの取り組みの動向に注目していきたい。
文:細谷元(Livit)