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ナイキがメタバース事業へ準備着々
フェイスブックのメタへの社名変更やマイクロソフトのメタバース参入表明など、ここにきてテクノロジー企業のメタバース関連の動きが慌ただしくなってきている。一方、この分野に注目しているのはテック企業だけではない。
米CNBCによると、アパレルブランドであるナイキが水面下でメタバース事業開始に向けた準備を着々と進めているという。
報道では、ナイキはこのほど、同社のロゴや「エアジョーダン」のロゴなどのオンライン利用に関する商標出願を米当局に申請したと伝えられている。これは、オンラインの仮想共有空間「メタバース」におけるバーチャルグッズ販売を念頭においた動きとのこと。
商標弁理士ジョッシュ・ゲルベン氏はCNBCの取材に対し、ナイキの商標出願は新時代の商標保護のあり方を示す動きであると指摘。現時点でこの件に関するナイキからの公式コメントは得られていないが、CNBCは関係筋の話として、ナイキがメタバースを重要視しており、今後関連する動きや発表が増えてくるだろうと伝えている。
このナイキの動きを皮切りに非テックブランド企業による、メタバースを意識した商標出願は増えてくるかもしれない。
既存の商標ルールは、現実世界での課題を前提に導入されたもので、バーチャル世界における適用は一部「グレーゾーン」となっているからだ。
たとえば、10年以上前の話ではあるが、NCSoftというゲーム会社が開発したオンラインゲーム「City of Heros」の中で、マーベルヒーローのデザインが無断で用いられたことを受け、マーベルが同社を商標権侵害で訴えたが、裁判所がマーベルの訴えを退けたというケースがある。
このケースでは、プレイヤーがゲーム内でマーベルヒーローのデザインを商業目的で使用した訳ではなく、またプレイヤーがゲーム内でマーベルヒーローの名称を利用すること自体も商標権侵害にはあたらないと判断されたのだ。
ナイキのオンライン向けの商標出願は、メタバースにおいて将来的にこのような状況を避けるためのものと思われる。
メタバースエコノミーで創出される新たな雇用
CNBCのナイキ報道では、もう1つ興味深い情報が示されている。
ナイキがメタバース事業の本格化に向け、メタバース人材の求人を掲載し始めたというものだ。
情報源は、メタバース人材専門ウェブサイトTheMetaverseJobs.com。
それによると、ナイキは2021年10月23日、同ウェブサイトに「バーチャル・マテリアル・デザイナー」のポジションを2件掲載している。
その求人内容によると、同ポジションはナイキの「デジタル・プロダクト・クリエーション」グループに配属され、Adobeの「サブスタンスデザイナー」などの3Dソフトウェアを使い、洗練された革新的なバーチャルマテリアルのコンセプトを開発するというもの。同社のメタバース取り組みを前進させる上で重要な役職であると明確に記述されている。
この情報が興味深いといえるのは、メタバースの拡大に伴い、将来的にこのような新しい職種が一般的になり、労働市場の様相を大きく変える可能性を秘めているからだ。
2010年頃は、非常に小さな市場であったモバイルインターネット産業だが、2021年現在はアンドロイドとiOSともに、多くのアプリエンジニアの雇用を創出する重要産業に拡大した。
メタのマーク・ザッカーバーグ氏によると、メタバースとはモバイルインターネットの次にやってくるデジタル時代のこと。モバイルインターネットと同様のことが起こっても不思議ではない。
ちなみにインドでは2019年時点で、モバイルアプリ関連の雇用は167万人に達している。これは2016年比で、39%増の成長だ。
不足気味のメタバース人材。給与高騰、求められるスキル
メタバース人材市場に関しては、ナイキだけなくメタが欧州で1万人を雇用する計画を発表するなど、すでに活況の様相を呈している。しかし、人材不足のリスクも指摘されており、計画どおり雇用が進むのかは分からない。人材不足なら給与高騰もあると予想される。
次の時代を見越したスキルアップを考えるのなら、メタバース関連のスキルを身につけるのは、かなり費用対効果の高い投資となるはずだ。
すでにナイキの「バーチャル・マテリアル・デザイナー」の求人情報が公開されており、どのようなスキルが求められているのかを分析することは可能だ。
まず、学歴に関しては、デザイン/アートや3Dアート、ゲームデザイン関連の学士号、職歴ではバーチャルマテリアル開発で5年以上の経験が求められている。
一方、ソフトスキルとして、コンセプトやスケッチをバーチャルマテリアルとして具現化する能力、ハードスキルとしてサブスタンスデザイナー、AutodeskのMayaやBlenderなどの3Dソフトウェアのスキルが求められている。また、UnityやUnreal、Vray、Octaneなどのリアルタイムレンダリングに関するスキルも必須となっている。
これらのスキルを持つ人材は現在、ゲーム業界や映画業界に就職しているが、メタバースの拡大に伴い、ナイキなどのブランド企業への就職も選択肢の1つになっていくと思われる。
ナスダックが11月2日に公開した記事では、メタバース関連の注目企業が紹介されているが、その中に上記のUnityとAutodeskが入っている。メタバースの拡大とともにUnityやAutodeskのソフトウェア利用が増えると予想されるためだ。メタバースの拡大で、スキル需要がどのように変わっていくのか、注視していきたい。
文:細谷元(Livit)