テスラ猛追のスタートアップ、テスラキラーとの呼び声も

電気自動車(EV)市場を席巻してきた米テスラ。その人気は今も健在だ。

2021年10月4日、ロイターが伝えたノルウェー道路交通情報評議会(OFV)の最新データによると、同国9月の新車販売はバッテリー電気自動車が全体の77.5%を占め、前年同月の61.5%から15ポイント以上増えたことが明らかとなった。

注目は車種別の販売割合だ。テスラの「モデルY」が19.8%を占めトップとなったほか、2位もテスラの「モデル3」(12.3%)となり、新車販売の30%以上がテスラのEVが占める結果となったのだ。

3位は、チェコのシュコダ・オートのEV「エンヤック」がランクインしたが、その割合は4.4%にとどまるものだった。

テスラ一強とも呼べる状況だが、今後大きく変わってくる可能性がある。米国内では、テスラ以外のEVスタートアップが本格始動しており、競争が激化しつつあるからだ。

いくつかあるEVスタートアップの中でも「テスラキラー」との呼び声高いのがカリフォルニア・アーバインを拠点とするRivian(リビアン)だ。

2009年、当時26歳(1983年1月生まれ)のRJスカーリンジ氏によって創業。2017年に住友商事、2019年にアマゾンやフォードなどから資金を調達し研究開発を進めてきた。直近の発表で、2021年末に電動SUV「RS1」をローンチする計画が明らかにされたところだ。

電動SUVは、EV市場の中でもテスラを含め様々な企業がしのぎを削るカテゴリ。テスラは電動SUV「サイバートラック」を2019年11月に披露したが、パンデミックの影響で生産は2022年にずれ込む見込みとなっている。

そんな中、電動SUVに特化するリビアンは、すでに販売可能モデルの生産に成功しており、あとは生産拡大にシフトする段階にある。米メディアも、電動SUVの生産では、リビアンがテスラやゼネラル・モーターズに先行しているとの認識を示している。

リビアン、IPO申請公開へ

そんなリビアンだが、10月1日にナスダック上場申請を公開し、注目度はさらに高まっている。

公開された情報によると、2021年9月時点までで、同社の電動SUV2モデル「R1T」と「R1S」のプレオーダー数は、米国とカナダで4万8390台に達していることが判明。

財務的には、現在生産能力強化に向けた投資が増えており、損失は拡大している。2019年通年の純損失は4億2600万ドル(約473億円)だったが、2021年は上半期だけで9億9400万ドル(約1100億円)に拡大した。

これまで投資資金は主に研究開発費に充てられていた模様。2020年通年の研究開発費は7億6600万ドル(約851億円)、2021年上半期は6億8300万ドル(約759億円)だった。

現在、研究開発・生産拠点を含めた同社の施設はカリフォルニア、アリゾナ、ミシガン、イリノイのほか、カナダ、英国にも拡大し、従業員は8000人以上になっているという。

販売計画では、まず米・カナダの北米市場をターゲットとし、次に欧州市場、そしてアジア市場を狙う構えだ。

テスラVSリビアンは「マスクVSベゾス」の代理競争?

リビアンが市場リーダーであるテスラにどこまで肉薄できるのか、多くの市場関係者が注目するところ。

このリビアンとテスラの競合関係は、アマゾンの創業者ジェフ・ベゾス氏とテスラの創業者マスク氏の競合関係を反映するものでもある。今後のリビアンとテスラの競争を見る上では、欠かせない視点となるはずだ。

ベゾス氏が今最も注力するビジネス、それは宇宙事業ブルー・オリジン。同氏がアマゾンのCEOを退任したのはブルー・オリオンに注力するためだったといわれている。

そんな肝いりの事業でベゾス氏が狙っていたのが、NASAが推進する「アルテミス計画」で、ブルー・オリジンが開発した月面有人着陸システムを売り込むことだった。しかし、最終的にはマスク氏のスペースX社が開発したシステムが採用されることになった。この決定を不服として、ブルー・オリジンはNASAを相手取り訴訟を起こす措置をとったのだ。

この件に関して、ベゾス氏とマスク氏は現在もメディア上で論争を続けている

アマゾンは過去数回に渡りリビアンに多大な投資を行っている。また、アマゾンの宅配トラックの大部分をリビアン製にする契約も締結。さらに2021年7月、ベゾス氏自身が参加したブルー・オリジンの飛行実験でも、ロケット発射場の移動で大々的にリビアンの電動SUVをアピールしており、テスラを猛追する姿勢を明確に示している。

EV市場ではこのほか、米スタートアップLordstown Motors、GMC、フォードなども電動SUVのローンチを計画。また、米Canooや英Arrivalなどの電動バンを開発スタートアップも登場している。テスラの牙城を崩すことができるのか、激化するEV市場動向に注目していきたい。

文:細谷元(Livit