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欧州の名門大学といえば、オックスフォード、ケンブリッジあたりを思い浮かべるだろうか。
大学をランク付けする機関は複数あり、タイムズ・ハイヤー・エデュケーション(THE)やQSなどが発表しているものが有名だ。上記2校もランク上位の常連であり、2018年のTHE世界大学ランキングでは、それぞれ1位(オックスフォード大学)、2位(ケンブリッジ大学)を独占している。
しかし、ロイター通信が独自の手法で作成した「イノベーティブ(革新的)な大学ランキング」では、ベルギーのルーヴェン・カトリック大学がトップ、しかも3年連続首位だという。ほかのトップ10には、聞きなれない大学が多数ランクインしており、そのユニークな選出方法が注目を集めている。
大学の評価方法に多様性が出てきている
ロイター通信の大学ランキングはどのような評価軸で作成されているのだろうか。その内訳に迫りたい。
「名の知れぬ大学」が並ぶ、ロイターのランキング
それでは、他にはどのような大学がランクインしているのか。以下がロイターによる「欧州で最もイノベーディブな大学100」(2018年)のトップ10である。
ロイター通信の大学ランキング
ルーヴェン・カトリック大学(ベルギー)
インペリアル・カレッジ・ロンドン(英国)
ケンブリッジ大学(英国)
スイス連邦工科大学ローザンヌ校(スイス)
エアランゲン・ニュルンベルク大学(ドイツ)
ミュンヘン工科大学(ドイツ)
マンチェスター大学(英国)
ミュンヘン大学(ドイツ)
デンマーク工科大学(デンマーク)
チューリッヒ工科大学(スイス)
ケンブリッジ大学以外はいずれも日本人には馴染みのない大学ばかりだ。国別では英国(3校)、ドイツ(3校)、スイス(2校)が多い。なお、英国のオックスフォード大学は14位であった。
名門大学としての地位を保ったケンブリッジ大学
「革新性」「特許」に注目した評価軸
ロイターのランキングには「イノベーティブ」と冠がつくだけに、革新性、つまり新しい開発や発見を最も重要視している。そのため、「特許」に関する評価のポーションが非常に高いことが特徴だ。
たとえば、特許申請と授与の数、グローバル特許の割合、他の特許に引用された回数、その特許がどれだけの影響を与えたか…など。また、発表した論文の数、論文の業界影響力など、論文にもポイントを置いている。
具体的な算出には、学術情報を扱う情報サービス会社、クラリベイト・アナリティクスや、複数の研究機関のデータを活用している。
2011年より2016年までに学術雑誌に論文を発表した、600以上の組織・企業・団体をピックアップ。その中から少なくとも50件以上の特許を提出した機関をさらに選出。
そして学術論文と特許出願などの内容を整理し、大学のみのリストを作成。独自の得点法で点数をはじきだし、ランク付けをする。なお、クラリベイト・アナリティクスは「グローバル・イノベーター・アワード」という革新的企業・機関の選出も行っている。
では、従来の選出機関はどのような評価体系をしているのだろうか?
たとえばタイムズ・ハイヤー・デュケーションでは、5つの領域(教育、研究、引用、グローバル化、産業収入)の総合評価で算出している。「教育」ではスタッフと学生の数の比率や、就職率、法人所得も入り、比較的スタンダードな指標と言える。
Brexitで英国から名門校が消える?
トップ10に3校ランクインした英国だが、今後それをキープできるかは未知数だ。というのも、総得点の内訳を見ると、100位までに入った英国の大学(21校)は、前年比で累計35ポイント減少し、逆にドイツ(23校)は23ポイント増加。名実ともに世界のインテリジェンスであった英国が、今、危機に立たされている。
その理由は、英国のEU離脱(Brexit)が大きく関係している。2016年6月に実施されたEU離脱を問う国民投票の結果、僅差で離脱派が勝利。英国は2019年3月にEUを離脱することが決まった。Brexitを目前にし、欧州のアカデミック界では“英国離脱”という現象が起こっているという。
英国のコンサルティング会社School of International Futureの調査(2017年11月)によると、EU離脱によりEUからの資金支援がなくなり、これまでのような研究ができなくなる危険性があるという。
実際、世界高等教育センター(Centre for Global Higher Education)は、すでに多くの研究者が英国を脱し、欧州大陸や米国に流れていると報告している。この状況はEU離脱が迫るほどに悪化する可能性がある。
これをチャンスとし、手招いているのはドイツだ。
ドイツ政府は研究のための国家予算を増やし、外国人科学者の誘致を始めている。ドイツの主要資金機関であるドイツ研究財団(Deutsche Forschungsgemeinschaft、DFG)は、29億ユーロを助成金として割り当てた。これは、英国のそれよりも高い額である。
ベルギー、スイス、デンマーク。「小国」が健闘
ロイターのランキングでは、比較的小規模の国が存在感を示している。たとえば、ベルギーはトップ100に7校がランクインしているが、国の総人口(1,100万人)に対する割合は欧州で最も高い。
1人当たりをベースに見てみると、次点はスイス。そしてデンマーク、オランダ、アイルランドと続く。逆に欧州で最も人口が多く、5番目の経済力を誇るロシアは、100校中1校も入らなかった。
それでは、トップ10に入った大学から、ランダムに3校を紹介する。
ノーベル賞受賞者の宝庫―― 1位:ルーヴェン・カトリック大学(ベルギー)
ルーヴェン・カトリック大学
1425年にオランダ語圏のルーヴェンに創立された、ベルギー最高峰の大学。欧州でも指折りの名門総合大学であり、ノーベル生理学賞を受賞したクリスチャン・ド・デューブやアルベルト・クラウデ、また同国首相を務めたヘルマン・ファン・ロンパウなど多くの偉人を輩出している。
2016年度の総研究費は4億600万ユーロを超えた。同校の研究機関KU Leuven Research&Development(LRD)によって産み出された技術や新発見は、多くの企業の開発事業に役立っている。
同校は2011年から2016年の間に、化学、薬学、農業など多彩な分野で300の特許が申請・授与された。たとえば、新しい歯科用インプラントの開発。歯の歯冠の下にある内蔵の貯留層から薬剤を少しずつ放出し、感染症の予防と撲滅に一役買っている。
国際的評価の高い工科大学―― 4位:スイス連邦工科大学ローザンヌ校(スイス)
スイス連邦工科大学ローザンヌ校
国内2校ある連邦工科大学の1つで、スイスのローザンヌにある伝統名門校。工学技術部門に高い評価があり、大学のキャンパスには300を超える民間の研究所やグループがあり、ネスレ、ロジテック、クレディスイスといった大企業も名を連ねる。
大学と日産との共同開発チームは、スマートカーが脳信号を読み取り、スムーズに運転操作させる技術を開発。ドライバーが車線を加速、ブレーキ、変更しようとするときに発する脳信号を読み取ることに成功した。
大学の研究者は、2000年から2017年の間に245のスタートアップ企業を設立し(平均して1ヶ月に1社以上)、2017年には140件の発明特許と95件の優先特許を出願した。
多様な学部を誇る国際大学 ―― 5位:エアランゲン・ニュルンベルク大学(ドイツ)
エアランゲン・ニュルンベルク大学
バイエルン州で2番目の規模の大学で、エアランゲンとニュルンベルクの2都市にキャンパスを持つ。1743年に創設され、11の学部と265の学科がある。
大学の最近の研究では、ニューロフィードバック(望ましい脳波帯が現れた時に音と映像でフィードバックをし、脳を自律的に学習するトレーニング)が注意欠陥・多動性障害の子どもに効果があることを発見した。また、マインツ大学などとの共同プロジェクトでは、世界最小のエンジンを開発した。
大学は国際面にも力を入れており、留学生が多いのも特徴。コンピュータ技術などは英語で授業が行われている。日本語学科には日本人教師も在籍している。
文:矢羽野晶子、編集:岡徳之(Livit)