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コロナウイルスの蔓延から約1年が経過し、長期間の自粛生活から「コロナ疲れ」に陥っている人も少なくないだろう。個人も組織も疲弊している今、「レジリエンス(Resilience)」に注目が集まっている。レジリエンスとは「回復力」や「再起力」とも言い換えられる、困難を跳ね返して生き抜く力だ。
グーグルは昨年秋、スタッフ向けのレジリエンストレーニングプログラムを開始した。かねてより、マインドフルネスなどのメンタルヘルスケアを取り入れてきた同社だが、今回のパンデミックには「それだけでは不十分」と判断。個人のレジリエンスを高める動画を制作し、世界中の従業員に配信している。
レジリエンスを高める動画「ミート・ザ・モーメント」
グーグルのウェルネスマネージャーであるローレン・ウィットは「パンデミックはまったく予期していなかった危機で、それに対する準備はできていなかった」とCNBCのインタビューで語っている。そして従業員が直面している精神的な危機を対処する方法として、「レジリエンストレーニング」を考案したという。
ウィットのグループは「ミート・ザ・モーメント(Meet the Moment)」という、レジリエンスを高める動画シリーズの制作を開始。各動画は1本数分で、睡眠、呼吸、育児、不安の回避などのトピックがある。
動画制作にはプロのアスリートを指導するパフォーマンスコーチやオリンピック選手などにも協力を要請し、レジリエンスを鍛えるための効果的なコンテンツを開発した。
レジリエンスはだれもが高めることができる
各動画には、大きな試合や戦闘など、高いストレスに直面した人物が登場するという。
ミート・ザ・モーメントは、長時間画面の前に座ることを余儀なくされているスタッフたちに、仕事の合間に楽しみながらレジリエンスを高めてもらう内容になっている。切れ間のない仕事からいっとき離れることで、適切な休憩をとってもらうことも狙いのひとつだ。
配信開始から1カ月で、約3万人のスタッフが動画を視聴したという。動画のインストラクションでは視聴者にこのように投げかけている。「レジリエンスは“スキル”であり、練習次第でだれもが高めることができます」。
コンテンツは随時アップデートされ、「介護」も新たに加えられた。中には「キッチンに生産的なワークスペースを作る方法」など、お役立ちTIPS的なものもあるという。
グーグルはその他に、スタッフにメンタルヘルス意識を高めてもらうため、150以上のバーチャルイベントも予定している。
グーグルのメンタルヘルス対策
グーグルはレジリエンストレーニングの前にもさまざまな対策を講じてきた。
昨年7月にいち早く2021年までの在宅勤務を発表した同社は、社員を定期的に休ませる「リセット日」を設定し。また、コロナ直前に作成した「TEAチェックイン」は、スタッフの思考(Thought)、エネルギー(Energy)、関心(Attention)がどこに向いているかを確認し、燃え尽き症候群を防ぐプログラムとして今も活用されている。
グーグルの親会社・アルファベットのルス・ポラット最高財務責任者は、「最大の懸念はスタッフの健康管理」とニューヨークタイムズ主催の会議で述べている。ポラットによると、同社では一時的にスタッフの生産性が低下したが、対策を講じた後、回復に至ったという。
リモートワークによる孤独感や厳しい社会情勢、そして育児や介護など個人的な理由により、私たちはさまざまなストレスにさらされている。欧米を中心に、CMO(チーフメディカルオフィサー)などメンタルヘルスを含む健康医療の専門家を経営幹部に迎える企業が増えているのは、それだけ危機感が高まっているからに他ならない。
レジリエンスと企業間格差
レジリエンスが注目される理由の一つは、個人のレジリエンスとチーム・組織全体のレジリエンスが緊密な相関関係にあるからだろう。
2020年第4四半期の業績が市場の予測をはるかに上回ったアップル。ティム・クックCEO は同社がパンデミック下でも伸長した理由に「チームのレジリエンスが高いレベルで機能している」ことを挙げた。
リモートワークによって物理的に離れていながらも、チームやスタッフ同士は互いに信頼し、頼りあえていたから困難を切り抜けられたと述べている。
この1年で私たちは多くの変化を余儀なくされた。働き方、それに伴う時間の使い方やコミュニケーション、デジタル化、人事評価……。あらゆる側面で急速な変革を求められる中、これに対応できた企業とそうでない企業には大きな格差が生まれている。
コンサル大手のマッキンゼー・アンド・カンパニーは、欧州企業の上級管理職300名にアンケートを実施。その結果、回答の平均42%が「(コロナ危機により)会社の弱点が露呈された」とする一方、「会社の競争力を高めた」は平均28%だった。そして全体の約3/4が「ビジネスモデルの革新は、危機に対処する上で最も重要な戦略的手段」と答えている。
変化に強く折れにくい組織体制は、先の見えない時代に不可欠である。組織のレジリエンスを高めるためには、スタッフ個々のレジリエンスが欠かせない。今後そこにどれだけ対策を講じられるかは、企業の生命線になってくるだろう。
より良い働き方のためのアイデアを公開「Google re:Work」
とはいえ、「人的資源も資金も潤沢にある、アップルやグーグルのような巨大企業だからできることだ」という意見もあるだろう。たしかに一理あるが、そのエッセンスを拝借することは可能である。
グーグルは同社の長年に渡るメンタルヘルスや組織の働き方に関する研究、アイデアや事例を「Google re:Work」で公開している。イノベーション、チーム、ピープルアナリティクス、マネージャー、学習と能力開発など8つのテーマに分類し、さらに個別の課題や目標に分けて、それらを達成するためのガイドや具体的なステップを解説している。
「マネージャー」の項では、グーグルが2002年に試験的に行った「マネージャー職の廃止」の失敗例を挙げ、マネージャーという役割の重要性、優れたマネージャーの育て方などを体系的に説いている。「チーム」では心理的安全性にふれ、チームのパフォーマンスと創造性を高める方法を紹介している。興味のある方は覗いてみるといいだろう。
つい先日発表されたグーグルの2021年第1四半期の決算では、最終利益に179億3000万米ドル(前年の2.6倍)を叩き出し、過去最高額をマークした。
グーグルはレジリエンストレーニングの特設ページで、「レジリエンスを学ぶことはあらゆる組織にとって重要」とした上で、「ストレスの多い状況で生き残ることができる個人は、成功する組織を作る要因のひとつである」と述べている。
レジリエンスは、コロナ収束後もあらゆる組織・ビジネスパーソンの必須スキルとなるだろう。ポストコロナを見据えて、今からレジリエンスを鍛えてみてはいかがだろうか。
企画・文:矢羽野晶子
編集:岡徳之(Livit)
<参考>
Google tells employees to take Friday off as a ‘collective wellbeing’ holiday during pandemic
Strategic resilience during the COVID-19 crisis