マイクロソフトが“バーチャル通勤”の実装を発表

コロナウイルスの影響を受け、多くの労働者がリモートワークへのシフトを余儀なくされる昨今。通勤がなくなったことは、多くの人々にライフスタイルの変化をもたらした。

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そんななかマイクロソフトは、リモートワークのためのコラボレーションツール「Microsoft Teams」にて、バーチャル通勤モードを実装中と発表した。カレンダー上で毎日一定の時間をおさえ、その日のゴールやタスクの整理、振り返り、次の日の目標など質問に答えるサービスだという。

背景にあるのは、通勤時間を設けることで1日の始まりと終わりを定義し、意識を切り替えて集中できる、という考えだ。プライベートと仕事の境界が曖昧になり、結果として常に働き続けるという在宅勤務にありがちな状態を避けられるという。

ガーディアンの調査によると、コロナウイルスの影響による在宅勤務で仕事量が増え、ストレスが溜まって健康被害に繋がるケースが、主に若手の労働者層(平均年齢32歳)で増えているという。

マイクロソフトは、この問題をウェルビーイングに関わる深刻な課題として捉え、そのソリューションとして今回のバーチャル通勤を提案している。

浮いた通勤時間の大部分は、そのまま労働時間へ

2016年に実施された総務省統計局の社会生活基本調査によると、日本の通勤時間の平均は、平日の通勤時間は男性で1時間26分(片道43分)、女性で1時間7分(片道33.5分)であった。首都圏ではこの数値をさらに上回り、片道1時間以上かけて通勤している人は40%近くにのぼる。日本よりも通勤時間が短いとされているアメリカでも、2017年の国勢調査局のデータで、平均54分(片道26.9分)という数字が出ている。

通勤ストレスは、仕事やプライベートに対する日々の満足度に影響する。通勤による疲れやストレスを減らすことで、仕事に注げるエネルギーやモチベーション、生産性やエンゲージメントがアップするという調査もある。

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在宅勤務にシフトしたことで、混雑する電車やバス、あるいは自家用車で通勤するストレスを避けられるほか、時間も節約できる。通勤がなくなったことは、一見ポジティブなものとも受け止められるだろう。

しかし、5月から8月にかけてアメリカ人10,000人を対象に行った調査によると、通勤がなくなったことで浮いた時間のほとんどを、多くの人が労働時間にあてていることが明らかとなった。

通勤がなくなった分の時間の使い方として、一番多いのが仕事の35.3%。子育てや家事などにかける労働時間も入れると、合計60%におよぶ。通勤時間がなくなったとはいえ、その時間を趣味や家族の団欒、運動などリラックスする時間にあてている人は、意外に少ないことが分かる。

リモートワーク、在宅勤務におけるストレス

通勤時間の削減や柔軟な労働時間の設定、プライベートとの両立など、オフィスへの出勤がなくなったことは、労働者のウェルビーイングにポジティブな影響を与える。一方で、ライフスタイルの急激な変化やプライベートと仕事の境界の曖昧さから、ストレスを抱えるケースも増えているようだ。

シンガポールの3,256人を対象に行った調査によると、在宅勤務者の61%がストレスを抱えており、特にこの傾向は、若い世代に多いことが分かった。

男女の差もある。LinkedInがインドの在宅労働者を対象に行った調査によると、女性の在宅勤務によるストレスが、男性より顕著であることが明らかになった。子育てや家事の分担がなされず、その重荷を一手に引き受けている女性労働者が多いことが原因だ。

また、仕事量の多さだけでなく、暇な状態が続くことでストレスを感じる「退屈疲れ(bore-out)」という現象も、コロナ禍で一般的になりつつあるという。解雇やプロジェクトの延期で急に時間を持て余し、将来に対する不安などを抱えてしまうケースだ。

労働者のウェルビーイングは、彼らの生産性やクリエイティビティを担保するものだ。だからこそ、リモートワークや在宅勤務におけるストレスを、多くの企業が深刻な課題として取り組み始めている。

在宅勤務のストレスを軽減する、さまざまな取り組み

マイクロソフトのバーチャル通勤は、通勤時間のポジティブな側面に注目した点で面白いアイデアかもしれないが、気分転換に必要なのはむしろ、散歩や運動、瞑想など、アナログな方法ではないかとの声もある。

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マインドフルネスと瞑想を自宅で気軽に取り入れられるアプリ「Headspace」、オンラインでも参加できるワークアウトアプリ「OneFit」も欧州で人気だ。バーチャルランチの開催や、ジムのメンバーシップやオンライン学習のサブスクリプションを提供する企業も増えている。労働者のウェルビーイングをテーマにしたポッドキャスト「WorkWell」もおすすめだ。

働く環境が劇的に変化している現在。業務上の問題やストレスなど、一人ひとりのウェルビーイングに適切に対処するため、これからも新しいサービスや工夫が生まれていくはずだ。バーチャル通勤も含め、自身にあったストレス発散やリラックス方法を模索していきたい。

文:杉田真理子
企画・編集:岡徳之(Livit