テクノロジーの進化が加速する昨今、世界中で注目されているのがSTEAM教育だ。「サイエンス」「テクノロジー」「エンジニアリング」「アート」「数学」の5分野の能力を、「横断的」かつ「創造性」の観点から「体験」を通じて育むというもので、これからの社会で活躍する人材に必須であるとされている。

日本でもプログラミングの必修化が進められているように、STEAM教育は今や世界各国で義務教育にも取り入れられるようになり、教材や知育玩具、教育アプリも続々とリリースされている。しかし、教師や親からは「自分たちの世代にはなかったこの教育を、どのように実践すればよいか分からない」といった疑問の声も聞かれる。

STEAM教育の浸透、そして生徒や学生向けの教材だけでなく、教育者に向けたオンラインラーニングなど多角的に発展するSTEAMエドテックの現状をお伝えする。

日本政府も取り組むSTEAM教育の普及

日本でも導入が始まったSTEAM教育(経済産業省STEAMライブラリーより)

小学校〜高校生の子どもを持つ親にとって、昨年の「プログラミング教育の必修化」というニュースは記憶に新しいものではないだろうか。

アメリカ発のSTEAM教育だが、2019年には経済産業省が、教育改革に関する有識者会議「未来の教室」で「学びのSTEAM化」を提言しており、STEAM教育を推進する世界的な流れに沿う形で、日本政府も学校教育の改革を進めている。

ここでのプログラミング教育は、実際の技術の習得というより、プログラミング的思考の習得を目指すものとされており、その授業内容については、各学校にかなりの裁量が委ねられている。

政府は現場の支援策として「小学生を中心としたプログラミング教育ポータル」や「STEAMライブラリー」を作成し、実施事例や教材、オンラインリソースの提供を開始している。

STEAM教材・知育玩具も続々登場

STEAM教育のための教材が次々と登場(Robo Wunderkind on Unsplash

学校だけでなく、家庭でのSTEAM教育にも親の関心が高まっている。それを受け、知育玩具や家庭向け教材にも注目が集まっている。

例えば、「プログラミング思考」を学べる学研ステイフル社の「ニューブロックプログラミング」は、各種ブロックとモーターやLEDを組み合わせ、命令を与えることでさまざまな動きを導くまでの一連の流れを楽しみながら体験できる知育玩具だ。

さらには幼児向け通信教育も、STEAM教育に対応したものが登場。ワンダーラボ社は、家庭でSTEAM教育に取り組むための、パズルやワークブック、専用の教育アプリを組み合わせた教材が毎月届く「WonderBox」を昨年リリースした。

親や教師がSTEAM教育に戸惑う本当の理由

体験と創造に重きをおくSTEAM教育(Spencer on Unsplashより)

こうして徐々に身近になってきたSTEAM教育だが、親や教師の間では教材をどのように活用し、子どもたちの学びを支援するのか、戸惑いもあるようだ。

親や教師の世代にとってSTEAM教育が理解しづらいのは、「テクノロジー」「エンジニアリング」といった項目が従来のカリキュラムにはなかったことだけが理由ではない。むしろ、STEAM教育のコアが「横断的」で「創造的」な学びを「体験」を通じて楽しんで行うことにある。

もとは、テック分野の人材を育てるための理系教育として提唱された「STEM教育」に、アートの「A」がつけ加えられたのが「STEAM教育」。この「アート」は、美術や音楽だけでなく、創造と表現、そしてリベラルアーツ(教養)も含む。

この「STEM教育」から「STEAM教育」への変遷は、イノベーションを生み出す人材には、多分野の横断的な知識と能力、そして創造性と好奇心が不可欠だという考えに基づくものだ。

スティーブ・ジョブズ氏がテクノロジー、エンジニアリングに、カリグラフィの経験と知識を統合し、美しいタイポグラフィを持つ初めてのパソコン「マッキントッシュ」を生み出した話は、まさにこのことを体現している。

教育者をサポートするSTEAMエドテック

STEAM教育ではこれまで「教材」が目立っていた(Kelly Sikkema on Unsplashより)

そのようなSTEAM教育の理念を実現するには、親や教師世代が、方程式や法則を暗記し、テストでそれを確認し、点数化するという、かつて自分たちが「科学」や「数学」に関してもやってきた、従来の学習のアプローチを再現するのでは難しい。

また、教師が黒板やホワイトボードに書いた内容を、学習者が書き写すという一方通行の学習環境も、インタラクティブな学びが重視されるSTEAM教育を導入するうえで最適とはいえないだろう。

そうした教育現場や家庭の声を受け、エドテック業界は生徒や学生向けの教材だけでなく、STEAM教育の指導法を学べるポータルサイトやオンラインコミュニティ、インタラクティブな教育を助けるハードウェアといった、教育者や親を支援するサービスや製品において発展を見せている。

LEGOは教育者向けオンラインラーニングポータルを発表

LEGOが公開した教師向け専門職ラーニングサイト(LEGO Education Japanより)

LEGO社の教育部門、LEGO Educationが今年発表したのは、STEAM教育を学ぶための教師向けのオンラインプログラム。授業を遊びや体験を取り入れた創造的なものへとブラッシュアップするための専門職教育プログラムだ。

米タフツ大学の協力のもと開発されたこのコースでは、STEAM教育に携わる人びとのニーズに対応するコンテンツを「教育法」「STEAMのコンセプト」「21世紀のスキル」「クラスルーム・マネジメント」の4つのカテゴリに分けて提供している。

LEGO Educationはまた、原則無料のSTEAM教育の教師用ガイドと保護者用ガイドをオンラインで提供。教育者や親が集うディスカッション、授業プランの共有、各種イベントの場として、オンラインプラットフォーム「レゴ・エデュケーション・コミュニティ」も設けている。

STEAM教育を総合的に支援するハードウェアの開発も

教室をインタラクティブかつ体験型の学習環境へとアップデートする製品としては、シンガポールの「INKNOE」がスマートホワイトボード「ハイブリッドボード」をリリースした。

インタラクティブな学習ができるスマートホワイトボード(INKNOEより)

このハイブリッドボードは、一般的なホワイトボードと同じように書き込むこともできるが、同時にタッチスクリーンで操作し、グラフやプレゼンテーションスライドを表示できる。

生徒が共同作業をすることを想定しており、マルチタッチパネルによって10点まで同時にふれて作業できる。ボード上でのコラボレーションを促し、学びをより豊かな体験にする手伝いをしてくれるだろう。

STEAM教育の機会は学外へも

子どものころを思い出すと、「勉強」とは九九や漢字、生物や化学のさまざまな法則の暗記といったインプット中心のものだった。

しかし、STEAM教育が推進されていくなかで、これからの世代はより主体的な問題解決に重きをおいた、インタラクティブな学びを進めていくことが期待されている。

STEAMエドテックの成長は著しく、エンジニアリングやデザインのコンテスト、IT分野の起業家や科学者などメンターと子どもたちをつなぐプログラムといった、学外のSTEAM教育の機会も急速に拡大している。

この潮流に、教育現場が成績評価や入試を含む全体として対応するのはまだまだ先の話かもしれない。しかし、STEAM教育に子どもはもちろん、教育者や親がどう取り組むかはこれからもホットなトピックだ。

文:大津陽子
編集:岡徳之(Livit