パンデミックによる都市のロックダウンで急増している「巣ごもり需要」。その中の一つ、ペットの需要が世界的に急増している。人類最古のパートナー、として知られる犬は、およそ3万年前から、また猫は約9500年前から人間と一緒に暮してきたと考えられている。

この人類未曾有のウイルスとの闘いの中で、人びとはペットに何を求めるのか。また家族の一員「ペット」に優しい社会とはどのような取り組みをしているのだろうか。ペットの犬を中心に、世界の状況について見てみよう。

家族の一員としてのペット、旅行への同伴も

年々拡大の傾向にある日本のペット産業。飼育世帯の割合は3割程度でアメリカの7割には遠く及ばないが、ペット関連市場の規模は拡大を続けており、矢野研究所の調査によると2020年度のペット関連総市場規模は前年度比3.4%増の1兆6,242億円に達するとの見込み。

ペット用トイレやリードの販売増加だけでなく、多様なフードやアパレル、おもちゃの販売が好調なのは、ペットを新規で飼育し始めた人たちの増加とともに、既存ペットの「家族化」がこの数値を押し上げている。

世界最大の宿泊予約サイト「Booking.com」が公開した、世界のドッグ・フレンドリーな街7選によると、イスラエル・テルアビブ、カリフォルニア州・カーメル、イギリス・ケズウィック、オランダ・アムステルダム、カナダ・トロント、スペイン・バルセロナ、ポーランド・クラフクが挙げられた。

ドッグ・フレンドリーな街は、ドッグランのある公園や、リードを外して遊べるビーチ、犬同伴で宿泊できるホテル、犬が泳げる湖、犬を連れていけるレストランやパブ、犬用のメニュー、犬が乗車できる公共交通機関やレンタサイクル、犬同伴で入場できる博物館や美術館などがあり、犬を飼っている人には嬉しいラインナップ。パンデミック収束後の旅を計画するにあたって、家族の一員である犬を置いていく必要がないこうしたデスティネーションを選ぶのも楽しそうだ。

世界一のドッグ・フレンドリー都市を狙うイスラエル・テルアビブ

世界の愛犬家が注目する、イスラエルの第2の都市テルアビブ。市民の17人に1匹の割合で犬が飼われており、一人当たりの犬の数が世界一として知られる。

市内には70のドッグ・パーク(1k㎡あたりに1か所)と犬が遊べるビーチが4カ所、年間を通して晴天が多く(平均318日)、散歩にも適していることや、町そのものがコンパクトであることから、人と犬が共存できる環境が整いやすくなっている。街のほぼ全てのカフェやレストランは犬同伴がOKで、ショッピングモールにはドッグフードの自動販売機も。

町では犬用の寿司の販売や犬と一緒に鑑賞できる映画館、犬が参加するマラソンなど、ユニークな取り組みも続々登場しているが、実はこれ、テルアビブ市役所が総力で目指している「ドッグ・フレンドリーな町」のPRの一環。

テルアビブは他にも「美食の町」「ストリートアートの巣窟」「世界ベジタリアンフードの首都」「世界一のゲイの町」などの呼び込みで世界に発信している。今般のドッグ・フレンドリー都市への活動を主導する市役所の分析によると「テルアビブの居住者の約5%がヴィーガン主義者のため、動物は食べ物ではなくペットであることを好む」こともペットに優しい町の理由だそう。

地元紙Israel21cによると、犬を飼うことによって犬を介した新しい人との出会い(恋愛に限らず)が生まれる、究極の会話のきっかけになるため、人々がスマホに釘付けのこの時代にペットの犬は不可欠な存在だとしている。

犬に優しいアメリカの町と社会

アメリカでは「このパンデミックで、良いニュースといえば犬や猫をシェルターから引き取る人が増えたこと」と言われている。

ロックダウンを強いられ、孤独に陥りがちな毎日。社会生活に欠かせない交友関係を保てるのは、もはやペットの犬や猫しかいない、と考える人も多い。アメリカではいまだマスクをしない自由、を謳う人たちもいるため、見知らぬ人との接触はウイルス感染のリスクが大きい。さらにテレワークの体制がより一般的になり、仕事の都合で犬や猫の世話が十分にできない、と諦めていた人たちもペットを手に入れるチャンスとなった。

現在、捨て犬、捨て猫をシェルターから引き取るには、オンラインでの内覧や、事前のアポによる訪問が必要になるなど衛生管理上の規定があるものの、需要は多いと言われている。

米国動物愛護協会(Humane Society of the United States)のCEOは、「シェルターの役割が「収容」から「引き取り」の場へと変わった」と話し、新しく里親に引き取られる動物の数が著しく増加したとしている。同時に安楽死させた動物の率も半分以下に減っている。

そんなアメリカでは、ニューヨークのような大都市でも犬と犬の飼い主に優しい街づくりが完成している。

マンハッタンのセントラルパークには犬を連れて入ることが可能、数多くのレストランやバーも犬の同伴OKだ。さらに、「カバンに入る」サイズの犬は地下鉄乗車が許されているが、細かい大きさの規定はなく、大きなIKEAのカバンに中型犬を入れて乗車するアイデアも話題になった。

また、シアトルでもしつけられた犬はライト・レイルに乗車ができるほか、会社に連れて行ってもよい。シアトルに本社を置くAmazonは2017年に公共のドッグ・パークをオフィスビルに隣接オープン。さながら社内保育施設の犬版といったところで、愛犬家に好評で企業イメージもアップした。

なおアメリカではパンデミックの間に、散歩用のリードやドッグフード、犬用紙おむつ、ペット用の家具が飛ぶように売れ、獣医のビジネスは好調、さらにペット保険の大手トゥルーパニオンでは2020年上半期に74万件以上の新規契約があり、前年比29%の増加を記録している。

捨て犬や捨て猫が消えたオーストラリアのシェルター

シェルターでの変化はオーストラリアでも顕著だ。

商業用に繁殖された犬のペットショップでの販売が禁止されているビクトリア州では、保護犬を譲り受けるのが一般的だが、パンデミックが始まってから5カ月の間に、オンラインでの申し込みは2万件を超える需要があり、シェルターにいる犬や猫もこれまで約半分の期間(約4日間)で引き取られていくようになった。

これは、ロックダウンによって飼い主が家にいるようになり捨て犬や猫、迷い犬猫の激減、また、同州ではパンデミック宣言がされる1週間前に「大家が住人に対してペットを禁止できない」とする法が可決されたことにもよるが、主な要因はやはりペットを希望する人の急騰だ。

ペットが社会の一員となっているヨーロッパ

愛犬と一緒に自転車もアムステルダムでは日常(Booking.comより)

ヨーロッパのペットは、社会の一員だ。古くから動物愛護の精神が根強く、関連法規も確立している。と同時に、街なかで人々が連れ歩く犬はどれもしつけが行き届いていることに驚く。飼い主が食事やカフェを楽しんでいる間は、何時間でもおとなしく待っているのは当たり前。大型犬を連れた人が電車に乗り込んでくることも、ごく普通の事で犬用の切符は券売機で購入する。

オランダのアムステルダムではどの交通機関でも犬の利用が可能で、特に自転車のかごや、付属カートに愛犬を乗せて走る市民の姿は自転車大国ならではの風景だ。

またスイスでは、犬を飼う際に筆記と実技のテストに合格しなければならない。これは犬の権利を尊重するためのもので、飼い主に責任を意識してもらうのが狙い。その結果、ジュネーブ市内は犬のリードをつけずに街歩きを楽しめるドッグ・フレンドリーな町となっている。

ジャーマンシェパードやダックスフント、ポメラニアンを生んだペット大国ドイツでは、徹底したしつけがされているため、外出時に愛犬を連れて行く人が多くても、不満を漏らす市民はいない。

また、犬の長時間の留守番を禁じ、外気温が21度を超えた際には車内に置き去りにしてはならない、授乳中の犬や病気の犬を鎖につないではいけない、生後12カ月未満の犬はリードをつけてはいけないなどの細かい法規制が定められ、しつけのためにドッグスクールに通わせることが一般的。犬と人間が公共の場で共存できるような社会体勢が整っている。

ペットの世界にもニューノーマル

こうしたパンデミックにおけるペットの需要増加は、シェルターが開催する譲渡会の形も変えている。

シンガポール非営利団体「Hope for Animals」を設立したミレニアルのカップルは、これまでシェルターのために開催していた大規模な資金調達イベントやディナーパーティー、譲渡会の開催ができなくなった現状を打開するため、里親が必要な犬や猫、ウサギなどをライブで配信。またインスタのストーリーズ、オンライントークショーでも紹介した。

バーチャル譲渡会は、実際に動物と触れ合える譲渡会と趣が異なるものの、冷やかしや遊び半分で参加する人が減り、より真剣な里親が参加する傾向にあると気づいた。また、オンラインは子犬や子猫だけに目が行きがちな人々の関心を、成犬や成猫に向けさせ、「しつけが行き届いているので飼いやすい」というアプローチに成功。しっかりと紹介できたことによって、今まで引き取り手の無かった保護猫や保護犬の引き取りも進んだとしている。

さらに、シンガポールの俳優やセレブMCがオンラインで自身のペット・ストーリーをシェアすることによって、より多くの聴衆を集めた。

バスク地方のカフェの店先でご主人たちがコーヒーと談笑を楽しむ間おとなしく待てる犬。リードをつなぐ必要もない(撮影:Y Posth)

パンデミックとペット、そしてその後

中国では、昨年12月に国内で新規感染者が見つかり、河北省の村で一時2万人もの住民が隔離施設へと輸送された。突貫工事で建設された隔離施設の完成にも驚いたが、実はこの施設が「ペットの同伴OK」で、動物検疫の専門スタッフが常駐すると発表されたことも話題となった。

中国では上海でも「飼い犬を連れて隔離施設行きのバスへ乗り込む女性」の動画が拡散され、数万人の愛犬家の共感を呼ぶなど、緊急事態におけるペットの取り扱いが注目を集めている。

パンデミックによるロックダウンを通じ、ペットがよりかけがえのない存在であることに気づいた人たちや、動物によってこのストレスフルな状況を少しの間だけでも忘れることができた人も少なくないだろう。介護施設で人と人とが距離を取らなければならない中、動物が患者の心を癒し続けているという話も聞かれる。

見直されるペットの存在と、共存して行く生活や都市づくりは世界中の都市で進化していきそうだ。

文:伊勢本ゆかり
編集:岡徳之(Livit

参考

https://www.theguardian.com/world/2020/aug/16/dog-gone-eescue-pet-shelters-emptied-by-surge-in-demand-during-pandemic

https://www.booking.com/articles/the-worlds-7-most-dog-friendly-cities.html

https://www.straitstimes.com/lifestyle/animals-find-fur-ever-homes-with-online-adoption-drives

https://www.israel21c.org/tel-aviv-ranked-3-most-dog-friendly-city-in-the-world/

https://www.israel21c.org/has-tel-aviv-gone-barking-mad/