世界中の一大イベントであるクリスマス。特にアメリカやヨーロッパでは、クリスマスの数週間前から街中に華やかなデコレーションが施され、各家庭でもクリスマスツリーやイルミネーションなど大掛かりな飾り付けがなされる。

家族や友人たちと思い出深い時間を過ごすには欠かせないクリスマスのデコレーションやイベントだが、ひとたびクリスマスが終わると、それらは大量のごみを生むことになる。このホリデーごみ問題は、これまでもアメリカやヨーロッパで毎年のように話題になってきたが、SDGs意識の広がりに伴い、近年サステナブルなクリスマスを目指す取り組みが活発化している。

ホリデー時期にアメリカで出るごみの量は25%増加

ホリデーごみの抑制を呼びかけるアメリカ・オハイオ州のポスターの一部

アメリカでは、11月終わりのサンクスギビングデー前後からクリスマスにかけての約1カ月間が「ホリデーシーズン」と呼ばれ、華やいだお祭りムードに包まれる。1年の中で圧倒的に消費者の購買意欲の高まるホリデーシーズンは、小売業にとっては正にかき入れ時で、様々な販促キャンペーンや、ギフト仕様のゴージャスなパッケージの商品などが次々に打ち出されるのが恒例だ。

しかしその華やかなホリデー消費の裏側には、ごみの大量発生という負の一面が存在する。アメリカでホリデー期間中に出されるごみは、通常の25%増。数字にすると毎年2,500万トンものごみが、余分に発生していることになる。また連日開催されるパーティーによって、食料廃棄量も通常の33%増になるという(2020年はコロナ禍でパーティー等が控えられたため例外だが)。

大量のホリデーギフトは送り方の工夫でごみを削減

ホリデー消費の中でもアメリカで特徴的なのが、友人知人に大量にホリデーギフトを贈りあう習慣だ。筆者自身、アメリカに住み始めて初めてのクリスマスに、ほとんど付き合いの無い知人からもギフトを渡され、正直戸惑った記憶がある。綺麗にラッピングされたプレゼントを貰い嬉しい反面、数回しか会ったことのない私にも準備してくれるということは、この人は一体今年全部で何個のホリデーギフトを渡したのだろうと考えてしまった。

最近このようなホリデーギフトのパッケージやラッピング、不要なギフトの処分によるごみの増加に対し、ギフトの渡し方を工夫することで抑制しようという発信が活発だ。例えばモノを贈るのではなく、イベントや習い事のチケット、ミュージアムや動物園の年間パスなど、新たな体験を贈るアイディア。電子書籍や音楽のサブスクをプレゼントしたり、あえて大人同士で「おてつだい券」などを贈り合うのも楽しそうだ。

ホリデーカードを選ぶ際にも、装飾にアルミやプラスチックなどが使われていないものにすることで、紙資源としてリサイクルが可能になる。

子どもたちへのクリスマスプレゼントも包装の代わりに宝探し方式に

子どもたちへのクリスマスプレゼントも、渡し方を工夫することでごみの増加を防ごうという呼び掛けがされている(筆者撮影)

アメリカの子どもたちはサンタクロースからだけでなく、親や祖父母、親戚、家族ぐるみの付き合いの友人家族などから、大量にプレゼントを貰う。受け取ったプレゼントは、クリスマスの朝まで開けずにクリスマスツリーの下に積んでおくのが定番のため、中身が見えないようにしっかりと包装されている。

これを例えばクリスマスプレゼントを家のあちこちに隠し、ヒントの書かれた「宝の地図」を元に子どもたちに探させるといった形にすれば、プレゼントを包装する必要が無くなる。大量のラッピングごみを出すことなく、クリスマスの朝の恒例行事を楽しむことができるというアイディアだ。

イギリスではクリスマス包装からプラスチックの排除が進む

2019年に使い捨てプラスチック製品禁止法案が可決済みのヨーロッパでは、ホリデーごみの中でも環境汚染に直結するプラスチックごみの削減に意識が高まっている。

イギリスではモリソンズ、ウェイトローズ、ジョンルイスといった大手スーパーやデパートが、2020年のホリデーシーズンを前に、グリッター(ラメ)を使ったアイテムや装飾の排除を発表。グリッターなどに含まれるマイクロプラスチックが、深刻な海洋汚染の原因となっているからだ。

モリソンズでは他にも、クリスマスクラッカーの中にプラスチック製玩具を入れることの禁止、クリスマスカードやデコレーションアイテムの包装への使い捨てプラスチック使用の制限といった施策を行い、50トン分のプラスチックを排除したという。

生木のクリスマスツリーもホリデーごみのひとつに

クリスマスの時期になるとあちこちに登場するクリスマスツリーの露店(筆者撮影)

もうひとつアメリカやヨーロッパでのクリスマスの特徴といえば、クリスマスツリーに生のモミの木や松などが使われること。クリスマス前になるとツリーを売る露店があちこちに登場し、「今年の1本はどれにしようか」と自宅用に真剣にクリスマスツリーを選ぶ人の姿が見られる。

しかしこのクリスマスツリーも、シーズンが終わればホリデーごみとなってしまう。生木なのだから上手くリサイクルできそうに思えるが、イギリスでは毎年700万本ものクリスマスツリーが埋立地に廃棄されているという。筆者が暮らすニューヨークの街中でも、歩道などに使い終わったクリスマスツリーが廃棄・放置されているのを何度も目にした。環境先進国として知られるドイツでさえも、クリスマスツリーは伐採して数週間後には廃棄、という使い捨てが習慣となっていたという。

クリスマスツリーを鉢植えでレンタルすることでサステナブル化

このクリスマスツリーの使い捨て消費に対し、ツリーをレンタル制にすることでサステナブル化しようというサービスが、イギリスやドイツなどで生まれている。

ツリーレンタルのポイントは、木を伐採するのではなく、植木鉢に入れた状態で貸し出すということ。クリスマスシーズンが終わるとツリーは畑に戻され、来年までまた生育を続ける。ドイツでツリーのレンタルを手掛けるWeihnachtsurwaldの場合、クリスマス後にツリーを問題の無い状態で返却すれば、客にデポジットが戻ってくる仕組みになっている。

イギリスでツリーレンタルを手掛けるCHRISTMAS on THE HILLによると、生木の根が育ちすぎて植木鉢に入らなくなるまで、7年間ほどレンタルツリーとして活躍できるという。1年毎に使い捨てていたツリーが7年繰り返し使えるとなると、ツリーのごみを7分の1にまで減らすことができる計算だ。育ちすぎて「レンタル業引退」となったツリーも土に植えられて余生を過ごすので、伐採されて埋立地に送られることもなくなるという。

CHRISTMAS on THE HILLの場合、鉢植えツリーのレンタル代は通常の伐採されたツリーの値段とほぼ同じだ。そのため今のところは「買うよりレンタルの方が安い」という状況ではないが、「伐採されて死んでいるツリーよりも、生きているツリーの下でクリスマスを味わいたい」と考える人たちから支持を集めている。

これまでアメリカやヨーロッパでのホリデーシーズンの盛り上がりは、ごみの増加と表裏一体だった。しかしサステナブルなクリスマスの在り方が浸透することで、ごみを増やさずとも活気のあるホリデーシーズンが楽しめるようになりそうだ。

文:平島聡子
企画・編集:岡徳之(Livit