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時速1,000キロ以上、次世代輸送システム「ハイパーループ」
2020年11月、次世代高速輸送システム「ハイパーループ」を開発するヴァージン・ハイパーループが初めて有人テストに成功したことが国内外のメディアで報じられ話題となった。
この有人テストは、ヴァージン・ハイパーループ(Virgin Hyperloop)が米ラスベガスに開設した試験場で実施されたもの。ハイパーループに搭乗したのは同社共同創業者でCTOを務めるジョッシュ・ギーゲル氏と乗客体験担当責任者セーラ・ルシアン氏。2人を乗せたハイパーループポッドは、6秒ほどで時速107マイル(約時速172キロ)に達したと報じられている。
同社が開発するハイパーループは、リニア駆動のポッドが真空状態のチューブを移動するシステム。日本のリニア新幹線は、2015年の高速走行試験で、世界最速となる時速603キロを記録したが、真空の中を移動するハイパーループは空気抵抗がないため、理論上は時速670マイル(約1,078キロ)に達する。東京ー大阪間なら30分ほどで移動できるスピードだ。
ハイパーループに関しては、技術・規制・経済的な側面で様々な懐疑論/批判があがっている。また、プロジェクトの進捗具合も当初の想定より遅れており、実現は難しいのではないかとの意見も少なくない。
ハイパーループが現在想定されるような形で実現するのかどうかは分からないが、人類のスピードへの飽くなき探究心は、遅かれ早かれ、ハイパーループのような移動手段を具現化することになるはず。
以下では、ハイパーループをめぐって今何が起こっているのか。日本ではあまり報じられることのない世界各地で進むハイパーループ実用化に向けた取り組みの最新動向をお伝えしたい。
注目のヴァージン・ハイパーループ、インドで2029年の開業目指す
Virginブランドを冠するヴァージン・ハイパーループはとりわけメディアの注目を集めやすい存在だが、ハイパーループ開発に取り組む企業はヴァージン・ハイパーループだけではない。
米カリフォルニアを本拠地とするHyperloopTT、カナダのTransPod、インドのDGWHyperloop、オランダのHardt Global Mobility、スペインのZeleros、ポーランドのNevomo、スイスのSwissPodなど世界各地様々な企業がハイパーループ開発に取り組んでいる。
各企業は現在どのような状況にあり、今後どのような取り組みを実行する計画なのだろうか。
ヴァージン・ハイパーループは冒頭で紹介した通り、2020年11月に有人走行試験を実施したばかり。同試験が実施されたラスベガス実験場の真空チューブの長さは500メートル。同社は、理論値である時速670マイルというスピードを実現するには、さらに2,000メートルの長さが必要と見立てている。
ハイパーループの実現可能性を高めるには、理論上のスピードで有人走行し、安全性を証明することが必須となる。
この点で、今後米国ではウェストバージニア州での動向がカギとなるかもしれない。
ヴァージン・ハイパーループはこのほど、同州に5億ドル(約520億円)を投じ、ハイパーループの「サティフィケーションセンター」を開設する計画を明らかにしている。このセンターが今後ヴァージン・ハイパーループでの開発・試験で重要な役割を果たすことになるようだ。
米国では2020年7月に連邦政府がハイパーループを含む未来交通の政策方針を発表しており、ウェストバージニア州を中心に、ハイパーループ関連の動きが活発化してくる可能性もある。
一方、ハイパーループが世界で初めて実用化されるのではないかと見られているのがインドであり、同国の動向からも目が離せない。
インドのハイパーループ・プロジェクトを率いるのもヴァージン・ハイパーループ。実は、冒頭で紹介した米ラスベガスでのハイパーループ有人走行試験では、ギーゲル氏とルシアン氏の2人だけでなく、同社のインド人エンジニアであるタナイ・マンジェカー氏も搭乗し有人走行試験に参加している。インド地元紙は「ハイパーループに乗ったインド人第一号」として大々的に報じるなど、ハイパーループに対する論調はポジティブなものが多い印象だ。
インドでは現在、マハラシュトラ州で公共インフラの一環としてハイパーループを敷設する方向で話が進められており、2020年11月にはヴァージン・ハイパーループ−DP World Consortiumが、プロジェクト事業者として認定された。
さらには、ヴァージン・ハイパーループは、バンガロールのBangalore International Airportsと提携しており、バンガロール空港と市内を結ぶハイパーループ交通のフィージビリティ調査を実施する計画だ。インドでは2029年までに商用路線の運行開始が計画されている。
フランス、スイス、カナダ、スペイン、世界各地のハイパーループ動向
現在フランスのトゥールーズの試験場でハイパーループ開発を進めているハイパーループTTも活発な動きを見せている。
2020年12月3日には、フランスのエンジニア/研究開発サービス大手Altranと提携したことを発表。Altranのエンジニア100人がハイパーループTTの研究開発プロジェクトに参加することになった。またハイパーループTTはその5日後、シグナリングシステムの調達で日立と提携したことも明らかにした。
ハイパーループTTのトゥールーズの試験場にある真空チューブの長さは320メートル。当初の計画にあった「中間ステップ」を飛び越え、一気に5キロに拡張する計画も浮上。ブルームバーグ(2020年12月8日)によると、同社のアンドレス・デ・レオンCEOは、ハイパーループの商用化時期について、一般的にいわれる「数十年」ではなく、「数年以内」と強気の姿勢を見せている。ハイパーループTTが狙うのは、クリーブランドーシカゴーピッツバーグ回廊とアブダビで、商用プロトタイプの試験を2021年に開始するという。
一方、カナダでは同国のハイパーループ企業TransPodが2020年8月、カナダ・アルバータ州政府とハイパーループ開発で覚書に署名。今後10年間で、エドモントンーカルガリー間の高速輸送システムを構築する計画が明らかにされた。同計画では、2025年にはエドモントンーカルガリー間の輸送システム建設を開始するとのこと。
スイスでもハイパーループ実用化に向けた動きが慌ただしくなっている。同国のハイパーループ開発企業SwissPodは、ジュネーブーチューリッヒ間(270キロ)を17分で移動できるポッドをデザイン。ルーマニアの投資家から巨額の事前投資資金を確保したとも報じられている。
さらにSwissPodの拠点である南部ヴァレー州では、3キロに及ぶハイパーループの試験トラックの開発が2021年に始まる予定だ。開発はスイス連邦鉄道とユーロチューブ財団が請け負うという。
このほか、スペインのZelerosは2020年6月に700万ユーロを調達、スペイン国内に3キロの試験トラックを開発する計画を発表するなど、世界各地でハイパーループ開発をめぐる動きは活発化の様相となっている。
ハイパーループTTのレオンCEOが言うように数年以内に商用化されるのか、それとも数十年を要するのか、世界各地で活発化するハイパーループ関連の動きから目が離せない。
文:細谷元(Livit)
参考
米政府、未来交通の方針書類
https://www.transportation.gov/briefing-room/us-transportation-secretary-chao-releases-pathways-future-transportation
ハイパーループTTとAltranとの提携
https://www.businesswire.com/news/home/20201203005174/en/Hyperloop-Transportation-Technologies-Accelerates-with-100-Engineers-from-World-Leading-Firm-Altran