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自動運転車開発競争の世界動向
大手企業からスタートアップまで多様な企業がしのぎを削る自動運転車開発競争。世界各国で様々な進展があり、どこで何が起こっているのか、その全体像を捉え逐次キャッチアップするのは非常に難しい。
KPMGが2018年から毎年発表している「自動運転車レディネス指数」は、その全体像を捉える上で助けとなるかもしない。
同指数は、自動運転車関連の「政策/法案」「技術革新」「インフラ」「消費者認知」の4つのサブ指数で構成される総合指数。その国における自動運転車の普及する可能性の高さを示すもの。
2020年6月末に発表された最新版のレディネス指数ランキングで1位となったのは、シンガポールだ。サブ指数「政策/法案」と「消費者認知」がともに1位になったことが総合指数の底上げとなった。
多くの国で自動運転車の公道試験が実施されているが、その範囲は限定的。一方、シンガポールでは、同国西部全域の公道が試験区域に設定されるなど、自動運転車開発のための環境が他国よりも整っていることが評価された。
総合指数ランキング上位には以下の国がランクイン。2位オランダ、3位ノルウェー、4位米国、5位フィンランド、6位スウェーデン、7位韓国、8位アラブ首長国連邦、9位英国、10位デンマーク、11位日本、12位カナダ、13位台湾、14位ドイツ、15位オーストラリア、16位イスラエル、17位ニュージーランド、18位オーストリア、19位フランス、20位中国。
自動運転車の動向を知る上で、注目すべき国のリストともいえるだろう。
自動運転車関連ニュースで話題になりやすいのは「技術革新」に関するもの。しかし、研究開発の範囲やスピードに影響を及ぼす「政策/法案」は、それに以上に重要な要素といえる。
KPMG最新レポートの「政策/法案」サブ指数で、シンガポールに次いで2位となったのが英国だ。
英国は、自動運転車だけでなく次世代モビリティ・エコシステムというより広い視点で法整備を実施。また、ロンドンなど都市部における自動運転車の公道試験を認めており、アーリーステージの自動運転車開発のエコシステムは健全なものだと評価されている。
また、アルファベット傘下の自動運転車開発企業Waymoがオックスフォード大学発のAI企業Latent Logicを買収したことや、スコットランドで進んでいるとされる光学技術が自動運転車のセンサー精度を高める可能性があるなど、英国が有する研究開発基盤と自動運転技術の相性の良さにも言及されている。
ハイパーループ出資の英ヴァージン・グループ、ケンブリッジ発・自動運転AIにも投資
2020年6月までの自動運転車関連の動向がまとめられたKPMGレポート。それ以降もいくつか自動運転界隈で話題となるニュースが報じられている。
その1つが、ハイパーループなど次世代モビリティ技術に積極的に投資をする英ヴァージン・グループなどがケンブリッジ大発の自動運転AI開発企業Wayveに出資したというニュースだ。英テレグラフ紙が11月23日に報じた。
このWayve、知名度は低いがヴァージン・グループのほか、元ウーバーのチーフ・サイエンティスト、ゾウビン・ガラマニ氏やカリフォルニア大バークレー校のピータ・アッビール氏など、AI研究のパイオニアと称される人々から投資を受けており、AI界隈では注目されるスタートアップの1つになっている。設立2017年の新しい企業だが、英国の自動運転産業に不可欠な存在になると目される注目株だ。
著名AI研究者らが注目していることから分かるように、WayveはAIに強みを持つ企業。様々な手法がある機械学習の中で、強化学習という手法を活用した自動運転AIを開発。このアプローチは、競合の多くが依拠するLIDARセンサーや高精度HDマップを必要としない点、またハードコーディングされた運転ルールを使用しない点で大きく異なる。
2019年4月、同社は英国の狭い路地を自動運転している動画を公開。初めての道をAIと衛星ナビゲーションだけで自動運転した世界初の事例だと主張し、関心を集めた。
現在、拠点をケンブリッジからロンドンに移転し、自動運転AIを乗せる自動車をルノーの小型車Twizyから、ジャガーiPaceにアップグレード、またAIプラットフォームとして新たにマイクロソフトのAzureを導入するなど、開発体制を拡大・強化している。
ロンドンを中心に英国は今、シリコンバレーのテック人材流出の受け皿になる可能性があるといわれており、人材面も強固になっていくことが見込まれる。
英国では2021年に高速道路に自動運転車専用レーン登場予定
冒頭のKPMGの自動運転レディネス指数で、英国のサブ指数「インフラ」と「消費者認知」はそれぞれ16位と12位だったが、来年以降これらサブ指数が上昇し、それに伴い総合指数も上昇する可能性がある。
それは英国政府が2021年に高速道路に自動運転車専用レーンを導入する計画があると報じられているためだ。これ自体が自動運転車のインフラであり、またそれにより安全性が確認されれば、消費者認知も高まることが考えられる。
またWayveの公道試験も拡張していく計画で、人々の目に触れる機会が増えれば、消費者認知も変わっていくことになるはず。
このほど英ディープマインド社がAIによって、科学界を50年間悩ませてきた、たんぱく質のフォールディング問題を解決したとして話題となっている。「AIの父」と呼ばれるアラン・チューリングも英国の人物。もしかすると、自動運転におけるブレークスルーもWayveを発端として起こるのかもしれない。今後の展開を楽しみにしたい。
文:細谷元(Livit)