幼いころ、近所にあった倉庫の裏の狭い空間を、数人の友人と秘密基地にしていた。コンクリートの崖をうまく渡っていかないとたどり着けない場所にあり、四方は壁に囲まれて誰にも見られることはない空間。親も、近所の人も、他の友達も知らない自分たちだけのこじんまりとした場所に収まりの良さを感じて、随分と通いつめた。
経済の行き詰まり、人口減少、環境問題。私たちミレニアル世代にとって、右肩上がりに拡大を続けていくという概念は、当たり前ではない。拡大方向への野心はあるが、小さくなることで生まれる居心地の良さ、利便性、そしてかっこよさのようなあこがれすら持っている。
グランピングは高級リゾートが源流
キャンプ用品・ウェアを中心にアパレルや観光業も手がけるスノーピークと、横須賀の観音崎京急ホテルが提携し、常設のグランピング施設「snow peak glamping 京急観音崎」がオープンした。横須賀の自然を存分に活かした宿泊体験を、都心から1時間の好アクセスで楽しめる。
世界的な建築家 隈研吾氏がスノーピークとコラボレーションして制作したモバイルハウス「住箱-JYUBAKO-」に宿泊できるのも、この施設の大きなポイントだ。狭い空間ではあるが、木のパネルを組み合わせたようなデザインで美しい。トレーラーを基礎としているので移動が可能だ。
住箱の正面には、海が広がる。その海を眺めるためのオープンデッキで、横須賀の新鮮な食材をBBQで楽しむ。観音崎京急ホテルのシェフが調理しているので、味も申し分ないだろう。
常設のグランピング施設は、スノーピークとしては初の試み。「グラマラス」と「キャンピング」を掛け合わせた造語であるグランピングは、ここ数年でバズワードになっているが、ようするに、手軽にアウトドア・キャンプ体験ができる宿泊方法と考えてもらえばよいだろう。簡易的な建物や、移動可能な大型のテントに、室内用の調度品や寝具を並べる。キャンプだけど、寝袋ではなく、ベッドで寝るというのがわかりやすい例だろうか。
一般社団法人 日本グランピング協会のウェブサイトによれば、カナダやアフリカなどで富裕層をターゲットにした高級なアウトドア・アドベンチャーテイストのリゾートが、グランピングの源流のようだ。キャンプだからといって、安価に宿泊できるわけではない。実際、「snow peak glamping 京急観音崎」は、1室2名利用/1泊2食付で、平日5万円から、ハイシーズンには8万円から、という値段設定。観音崎京急ホテルのスイートの料金と比べ、平日宿泊で同額、ハイシーズンでは割高だ。
グランピングとタイニーハウスは、似ているようで違うムーブメント
こういったムーブメントの背景には、俗世間と距離を置く、ヒッピー的な生き方へのある種のあこがれのようなものがあるのではないだろうか。幼いころにはわからなかったが、秘密基地へのあこがれにも似たような面があるように思う。
最近では、モバイルハウスを住居とする人もいる。モバイルハウスを含めた、小さな家の総称「タイニーハウス」に住むアメリカ西海岸の人々をフィーチャーした『simplife』という映画では「足るを知る」ということが語られている。だが、シンプルで、必要最低限のものを見極める生き方は、誰しもができるわけではない。実際、タイニーハウスの質素な生活と、グランピングの豪華さ・金額感は相反しており、似ている事象ではあるが、価値観がずいぶんと違う。
俗世間や今までの常識から離れ、自由でミニマルな暮らしに憧れる一方で、現実には資本主義に生きている。その現実と本音のゆらぎが、これらのムーブメントに表れているのではないだろうか。
img : snowpeak, Cindy Chen