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世界各地で2020年3月頃から始まったリモートワーク。当初は、リモートワークシフトに伴う多少の混乱があったようだが、半年以上経過した今、状況は落ち着き、人々の関心は2021年以降、リモートワークを含め「働き方」がどのように変化するのかという点に向けられている。
2021年以降の働き方を予測するにはリモートワークの現状を把握することが必要だ。幸いにもこの数カ月リモートワーク関連の調査レポートが多数公表されており、データを集めるのには事欠かない。
リモートワークを含め働き方がどのように変化したのか、またこの先どのように変化していくのか、最新データから読み解いてみたい。
企業意思決定者の意向、2021年リモートワーカー数は2倍増
まず2021年にリモートワーカー数は増加するのか、減少するのか、という点を見てみたい。
テクノロジー市場に強みを持つ米調査会社Enterprise Tecnology Researchがこのほど発表したレポートによると、世界的に2021年のリモートワーカー数は、2020年比で2倍増加する見込みだ。
リモートワークには、一時的なものと、恒久的なものの2種類あるが、2倍増加すると見込まれるのは、後者の恒久的リモートワーカーだ。
同レポートによると、世界的な恒久的リモートワーカー比率は現在16%だが、2021年には34%に上昇する可能性があるという。なお恒久的、一時的を含めたリモートワーカーの割合は72%に上る。
同調査は、世界各地・各産業/企業の最高情報責任者(CIO)計1,200人に現状と今後の計画を聞いたもの。企業の意思決定者の意向を反映する調査となる。
リモートワークが増える理由の1つに生産性向上が挙げられる。リモートワークにシフトし、生産性が下がったと回答したCIOの割合が28.7%だったのに対し、生産性が向上したとの回答は48.6%と前者を大幅に上回った。
産業別で見ると、生産性向上が最も顕著だったのは、情報通信、金融、保険。一方、エネルギー、水道・電気、教育産業では、生産性効果は低かった。
恒久的リモートワークが増えるもう1つの理由は、IT予算の拡大だ。CIOらによるIT予算予測では、2021年にはIT予算が前年比で平均2.1%増加するとのこと。2020年はロックダウンによる混乱で4.1%の減少だった。
マッキンゼー調査、リモートワーク増に伴うAI・自動化の流れ
リモートワークシフトと共に加速しているのが、デジタル化/AI・オートメーションの導入だ。
マッキンゼーが2020年6月に企業経営層800人を対象に実施した調査で、この傾向が明らかになった。
ロックダウン以降、企業内でテクノロジーに関してどのような変化があったかという質問では、実に85%が社員のインタラクション/コラボレーション領域におけるデジタル化が進んだと回答。また、67%が自動化/AI導入が進んだと回答した。デジタル化とAI導入が進んだことを示す数字だ。
実際TIME誌が伝えたところでは、チャットボットやカスタマサービスで活用されるIBMのAI「ワトソン」の需要が2020年3〜6月期に急増。同期間だけで、100社が新規にワトソンの利用を開始したと報じている。
このデジタル化/AI導入の加速は、企業の雇用状況の変化にもつながっているようだ。マッキンゼー調査では、ロックダウン以降に雇用が増えた役職に関する質問もなされ、テクノロジー部門では、自動化/AI関連職が37%でトップとなった。
以下、テクノロジー部門では、2位デジタル・カスタマー・エクスペリエンス(26%)、3位IoT(24%)、4位クラウド(19%)、5位サイバーセキュリティ(12%)という結果だった。
リモートワーク先進企業シスコの事例、AIで人員配置・スキル重視雇用
デジタル化/AI導入は企業の何をどう変えているのか。様々なケースがあるようだが、パンデミック前からリモートワーク比率が高く、現在100%近い社員がリモートワークするシスコの事例は、一歩進んだものと言えるかもしれない。
カリフォルニア・サンノゼに本社を置き、7万5,000人以上の社員を抱えるシスコ。現在、セールスからエンジニアまで96%の社員がリモートワークで働いている。
シスコの最高人材責任者(chief people officer)フラン・カツウダス氏がCNBCに語ったところでは、同社のリモートワーク比率はパンデミック前すでに40%に達していた。これに伴い、人事部門もクラウド/デジタル化に加えAI導入を進めていたという。
カツウダス氏は、デジタル化とAI活用の具体事例の1つとして、データドリブンのプロジェクト・チーム構成の取り組みを挙げている。
リモートワークの利点の1つは、物理的な制限を受けないところ。プロジェクトにおいても、オフィスの場所に制限されることなく、チーム人員を最適な形で構成することが可能だ。
プロジェクト開始時、ビッグデータとAIを活用し最適なチームメンバーを世界各地から招集するという試みを実施したところ、イノベーションが加速したという。
またシスコは、雇用においてもAIを活用した新しい取り組みを行っている。それが「blind hiring(目隠しした雇用)」と呼ばれる方法だ。この手法では、出身大学などバイアスのかかる情報を取り払い、AIを活用し求職者の「スキル」を評価。大学バイアスや物理的制約なしに、優秀人材の獲得が可能になったとのこと。
リモートワークで一歩先を行くシスコ、今後のオフィス利用については、研究者のコラボレーションや顧客訪問など、誰がどのような目的で利用するのか明確化していく方針だ。週2〜3回のオフィス出勤という形態も考慮しているという。
上記の調査以外でも、リモートワークで生産性が向上したというレポートは多数あり、また恒久的リモートワークを宣言する企業が増えていることから、2021年も世界的にリモートワークが継続する公算は大きい。シスコのような「未来の働き方」を示す取り組みも増えてくるだろう。
[文] 細谷元(Livit)