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世界がコロナ禍で翻弄されている2020年。私たちの日常生活も大きく様変わりしている。特にビジネス、教育の現場においては「リモート」という形での業務・授業の進行の取り組みが導入され、「新しい生活様式」の一貫として注目を浴びている。
日本では「リモート」を巡り賛否両論や議論が起こっているが、諸外国に目を向けると「リモート」を今後も積極的に継続させていこうとする動きが見られる。今、世界でどのような変化や動きがあるのかをお伝えする。
迅速にリモートワークを推進した「GAFA」
新型コロナの感染拡大に瀕しているアメリカでは、Google、Apple、Facebook、Amazonのいわゆる「GAFA」が、スタッフに対し3月ごろから「リモート」による在宅勤務を命じている。さらに、当初の予測よりも感染拡大の収束が見られず、長期化する中で各社ともにリモートワークの延期を発表。今年いっぱい、来年初めまで継続されるものと見られる。
また、各社はともにリモートワークにあわせてスタッフの在宅勤務の環境整備やメンタルケアのサポートにも対応するなどしている。このように細部にまでわたって対応をする背景には、各社が今後もリモートワークを行っていくことへの意思の現れとも言えるのではないだろうか。
「IT業界の巨人」とも称される4社が率先してリモートワークを推進したこと、まして膨大な従業員を抱え、さらにアメリカという広大な国土にありながらリモートワークを遂行したことは、世界の企業に対し「働き方」に一石を投じたとも言える。
Facebookのリモートワーク改革で注目「リモートワーク責任者」
中でも注目を集めているのがFacebookの新たな提言である。リモートワークに活路を見出し、FacebookのCEO、マーク・ザッカーバーグ氏は今年5月、自身のFacebookアカウントにリモートワークに関する率直な思いと今後のビジョンについて投稿している。それは『世界で最もリモートワークに積極的な企業』となるとの目標とその具体策だった。
意外にもザッカーバーグ氏も当初からリモートワークの推進を唱えていた訳ではなかったという。投稿の中でザッカーバーグ氏は、業務はチームで取り組むべきという考えや生産性の観点から、実はリモートワークの導入には懐疑的な部分があったことを認めている。その反面、スタッフに対して実施したリサーチを元にリモートワークによるメリット、デメリットを詳細に分析して論じている。
リサーチの中で、スタッフの半数がリモートワークでもオフィスと同等またはそれ以上に生産性があると回答している。そして、40%がこのままリモートワークで業務を継続してもいいと答え、反対に50%はオフィスでの業務が望ましいとしている。
この結果を踏まえて、ザッカ-バーグ氏はリモートワークのメリットについて「都市以外の地域に居住しているスタッフの確保ができること」「通勤移動時間のカット」「新たな技術開発」などを、一方でデメリットについては「中長期的な生産性の維持」「スタッフ間のコミュニケーションの構築」といった点を挙げている。また、ザッカーバーグ氏は、今後2030年までの10年間にスタッフのリモートワークの割合を全体の50%とすることもこの中で述べている。
こうした動きを総合して、ザッカ-バーグ氏は現在よりもさらに快適でスムーズなリモートワークの整備と確立をすべく、プロジェクトを束ねる「リモートワーク責任者」というべき人材に目をつけたものと思われる。
もちろん、ザッカーバーグ氏自身も社内のリモートワークへの移行を急ぐことには否定的であり、段階を経て行きたいということを強調している。その中でまずは、リモートによる人材の採用を行っていくことを挙げている。
現在、Facebookのオフィスがある都市部とその近郊地域に居住するエンジニアの人材確保、さらにはFacebookがまだオフィスを構えていない都市への拠点作りを進めていきたいとしている。Facebookの戦略が今後どのような結果や変化をもたらしていくのか、そして「リモートワーク責任者」の活躍に注目したいところである。
今後増加が見込まれる「リモートワーク責任者」
Facebookに限らず、アメリカ国内では「リモートワーク責任者」の採用に乗り出す企業が今後増えていくものと見られている。例えば、ワシントン・ポストではコロナ禍を期に「リモートワーク責任者」の採用に乗り出る企業が増えてきているという報道をしている。
アメリカ国内で猛威をふるったコロナのパンデミックにより、リモートワークを余儀なくされた企業が多かったこと、反面、スタッフの多くが思ったよりも在宅勤務が快適であったという回答をしているという。
収束の見通しが不透明であること、スタッフのリモートワークに対する意見などを踏まえてFacebookと同様に将来的にリモートワークを主流に業務を行うこと、そのためにコミュニケーションや技術に精通したチーフ(責任者)が必要と考える企業が増えたと言えるのではないだろうか。
また、リモートワークを一時的なものとしてではなく、新たなビジネスチャンスとして前向きにとらえている企業も多いとも見受けられる。
「リモートワーク責任者」の可能性
前述で紹介した「GAFA」のようなIT企業をはじめ、リモートワークができる業種は限定され、また、リモートワークにも限界があることは否めない。しかし、リモートワークの環境や責任者の育成やスキルの向上が今後さらに見込まれれば、営業や教育といった分野においても「リモートワーク責任者」が必要とされる可能性は広がって来るのではないだろうか。
アメリカ以外の国に目を向けると、例えば、さまざまな場でオンライン化が進んでいる韓国では、新型コロナの感染拡大に伴い4月からいち早く小学校から高校までオンライン授業が開始された。授業のオンライン化は学校のみにとどまらず塾でもオンライン授業が導入された。
意外なことに韓国内の企業でのリモートワークは今回のコロナ禍で浸透していたとは言いがたい状況であった。これは、大企業と中小企業による格差にもよるところが大きいと言われているが、オンライン化が充実しているメリットを生かして今後につなげていけるかが課題となりそうである。
また、日本では、一部商品を除いて従来、窓口や訪問に対面による営業が主流であった保険業界にも変化が見られる。プルデンシャル生命保険の日本法人は、問い合わせから契約までをリモートで完結できる新システムの導入を6月に発表した。
リモートによる新システムの導入には接触機会を減らすことでの感染防止、わずらわしい書類のやり取りを簡素化させることが狙いと言われている。
このように対面が必須・常識とされてきた分野でもリモート化が進んでいけば、利便性や緊急時の対応においても期待ができるとも言える。反面、コミュニケーション面やクオリティの維持などで問題や課題もあり、改善には時間を要することとなるだろう。
しかし、企業や教育現場でのリモートを管理したり、コンサルティングする立場の責任者が定着していくことは、コロナとの共存をしていく上でも、新たな雇用にもつながる可能性を秘めているとも言えるかも知れない。
アメリカのみにとどまらず、「リモートワーク」および「リモートワーク責任者」が今後、世界でどのような広がりを見せていくか、期待して見守っていきたい。
文:原美和子
企画・編集:岡徳之(Livit)