サイバーエージェントは、人工知能技術の研究開発組織「AI Lab」において、慶應義塾大学経済学部 星野崇宏教授(行動経済学会 副会長)が率いる理化学研究所 AIPセンター 経済経営情報融合分析チームと共同で「新型コロナウイルス感染拡大防止のためのナッジ理論を活用したランダム化比較実験」を実施したと発表した。

また今回、この調査結果概要を公表。

星野教授は統計学・行動経済学・マーケティングサイエンスを専門とし、幅広い分野への応用研究で高い業績を挙げられるとともに、中央省庁や企業へのコンサルテーションや共同研究も多数実施するなど実社会への貢献も顕著な研究者。

これまでAI Labは、星野教授とともに「広告の単純接触効果や摩耗を考慮したクリエイティブ選択アルゴリズム」など、行動経済学とオンライン広告を組み合わせた研究を実施してきた。

そしてこの度、新型コロナウイルスの感染状況を鑑み「感染拡大防止に向けたユーザーの行動変容」を促すための調査として、経済学分野で近年注目されている「ナッジ理論」に基づく広告配信実験を実施したとのことだ。

同実験では、無作為に抽出したモバイル端末に対してナッジ理論を背景とした感染症対策に関する様々なメッセージを配信し、ユーザーの行動変容を確認。

実験の結果、ユーザー自身への「損失」を意識させるメッセージなどを配信することが統計的に有意な差となり、ユーザーの週末夜間の活動量を減少させることがわかったという。

3密回避など「新しい生活様式」に関する公的機関等のアナウンスがナッジ理論を活用することによってさらに効果的になると考えられるとのことだ。

以下が同調査の結果概要となる。

ユーザーの身近な人への感染リスクの情報を必要とするユーザーが多い

各メッセージのクリック率を比較したところ、まわりの人への感染リスクを喚起するメッセージがもっともクリック率が高かった。

新型コロナウイルス感染症の「身近な人へのリスク」に対して、より詳細に知りたいというユーザーが多かったことがうかがえるとしている。

ユーザー自身へのリスクなど「損失」や周囲の人の行動に意識的になることで、外出自粛など行動変容が強く促される結果に

また、各メッセージを受け取ったことで、どのような効果があったかを、割当を操作変数とする二段階操作変数法によって推定。

その結果、感染による死亡リスクや周りの人が自粛していることを想起させるようなメッセージや、自粛をせず感染が広がることによる経済的な影響を強調するメッセージに対して週末夜間の外出等の活動量が統計的に有意に減少。

自身へのリスクなど「損失」が明確になることや、他の人の自粛活動への意識が高まることによって、行動変容が強く促されることが示唆されるという。

東京における自粛効果がもっとも大きい

地域別にサブグループにおける回帰分析を行なった結果、東京における自粛効果がもっとも大きかったとのことだ。

なお、同実験データについてはさらに詳細な分析を進め、研究論文として発表を予定。

現在、行動経済学の「ナッジ理論」を活用した行動変容は、公的機関をはじめ様々な分野で注目されている。

同社では、小売業界や官公庁などのDX推進事業を展開しており、AI Labでは今後もビジネスに経済学を応用する研究に取組むことで、公共政策や小売マーケティングなどの領域においてさらに実証研究や社会実装を推進していくとしている。

【調査概要】
無作為に抽出したモバイル端末に対して「ナッジ理論」を背景とした感染症対策に関する様々なメッセージを配信し、ユーザーの行動変容を確認
・調査対象:無作為に抽出した4大都市圏(東京、大阪、名古屋、福岡)の端末約60万台
・調査期間:2020年7月7日~7月28日
・活動量指標:匿名化された行動データから独自に定義した活動指標。6月9日~30日を比較期間とした。
・活動量の推定方法:広告の割当を操作変数として広告視聴を介入とした操作変数法を用いて推定。エラーバーは標準誤差の2倍。

<参照元> AI Lab、行動経済学「ナッジ理論」で新型コロナ感染防止対策を促すランダム化比較実験を理化学研究所・慶應義塾大学と共同で実施 -週末夜間の活動量において、統計的に有意な変化を確認-