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株式会社スタートトゥデイの代表取締役社長である前澤友作氏は、会社にPCを持たず、スマホのみで仕事をしているという話に代表されるように、現代ではスマホがあればなんでもできるような時代になってきている。それほどに時代の進化とそのスピードは早く、その進化に対応できる人材の不足が近年は叫ばれている。
ICT人材育成の観点でみたとき、日本の教育はおそらくテクノロジー進化のスピードに追いつけていない分野の最たるものだろう。
しかし、こういった現状の打開の一手となるかもしれない取り組みが行われつつある。
ウィンドウズ デジタルライフスタイル コンソーシアム(WDLC)では、2020年度からの小学校でのプログラミング教育の必修化を皮切りに推進されるICT教育時代の到来を受け、学校のプログラミング教育を応援するプロジェクト「MakeCode×micro:bit 100プロジェクト」を開始する。
ICT教育の本格化と親の認識のギャップを埋める
「MakeCode×micro:bit 100プロジェクト」とは、WDLCと学校が一緒にプログラミング学習のプラットフォームを作ることをコンセプトとした、プログラミング教育における共通財産創出のためのプロジェクトだ。
プロジェクト発足の背景としては、日本国内でのICT教育の本格的導入に向けた動きの加速化がある。文部科学省が発表した新学習指導要領では、2020年度に、小学校でプログラミング教育が必修化され、翌年2021年度には中学校でプログラミング教育が拡充、さらに2022年度には高等学校でプログラミング教育が必修化されることが定められた。
しかし、こうしたICT教育強化の動きは、小中高生をもつ親にはまだまだ浸透しきれていないのが現状だ。WDLCが小中高生の親1,200名に行った調査によると、「2020年度からの新学習指導要領により、小学校でプログラミング教育が必修化することを知らない」と答えた層は43.9%となったという。
また、「中学校では2021年度から、高校では2022年度から、パソコンを活用した情報教育がさらに強化されることを知らない」と答えた層は半数を超える59.5%という結果になった。このように、子供の学校で始まる教育の変化に対して、親の意識はまだまだ十分に高まっていないと考えられるとしている。
また、教育の現場でもプログラミング教育必修化・拡充は決定したものの、現状、具体的な指導方法などは明確化しておらず、これから本格的に検証していく段階となるという。
このような背景から、WDLCとして実際に教育の現場や家庭でのICT教育につながる活動ができないか、様々な角度から検討し、プロジェクトを発足した。
幅広い層のプログラミング教育に対応
まず、WDLCは具体策として、子どもたちと教職従事者の双方にメリットとなることを検討し、「プログラミング教育授業案」を作成した。
この授業案は全て、オープンソースのプログラミング学習環境「Microsoft MakeCode」と、イギリスのBBCが教育用に開発したマイコンボード「micro:bit」で実践できるよう作成している。
MakeCodeは、指令が書かれたブロックを組み合わせることで、視覚的に操作できるビジュアルプログラミングを採用している。初心者でも気軽に始めることができる一方で、JavaScriptによるプログラミングにも切り替えられるため、初等教育から高等教育まで幅広い層のプログラミング教育に対応する。
micro:bitは加速度や光、温度を関知するセンサー類やLEDを内蔵しているため、既存の教科と連動しやすく、また、プログラミングの体感的なフィードバックが得られるため、MakeCodeとの組み合わせは、小学生向けのプログラミング教材に適しているという。
このMakeCodeとmicro:bitをベースに、 2018年6月1日には千葉大学教育学部附属小学校 4年生 理科の「電気のはたらき」の授業で「おもちゃライト」という、WDLC初のプログラミング教育授業を実施した。
【WDLC Presents】プログラミング教育授業案 @千葉大学教育学部附属小学校
「プログラミング教育授業案」は、各学校の授業で活用することを目的に、授業計画書を作成し、サンプルとなるプログラムコードを開発し、授業実施後の報告書もまとめたキットである。
また、授業案だけでなく、学校外のワークショップや家庭でも楽しく学べるサンプルコードも合わせて開発予定で、今後約6カ月を目途に、 「プログラミング教育授業案」と合わせて合計30コンテンツをWDLC 特設サイト上で無償公開予定だという。
新たなエコシステムの作成が目的
この「プログラミング教育授業案」を実際の教育現場で活用し、その事例が新たな実践につながるエコシステムを作ることを目的として発足したのが 「MakeCode×micro:bit 100プロジェクト」だ。
プログラミング教育をいち早く取り入れたい小学校100校にmicro:bit を20個ずつ、合計2,000個を無償提供し、WDLC開発の授業案やサンプルコードを参考にしながら、各小学校で独自に授業を実践する。
授業の模様はWDLCへ実施報告書として提出し、これを新たな「プログラミング教育授業案」として、実践したプログラムコード、実施報告書をWDLC 特設サイト上に公開する仕組みとなる。
WDLCの「プログラミング教育授業案」を起点に、新たなアイデアとケーススタディが蓄積され、教育の現場で活用できる共有財産が創出されることを目指す。
また、このプロジェクトを教育現場で有効活用するため、WDLCは、「未来の学びコンソーシアム」に賛同するとともに、「未来の学びコンソーシアム」よりプロジェクトを後援してもらうことになった。
「未来の学びコンソーシアム」とは、文部科学省、総務省、経済産業省が連携した団体だ。次期学習指導要領における「プログラミング的思考」などを育むプログラミング教育の実施に向けて、学校関係者や教育関連やIT関連の企業・ベンチャー、産業界と連携し、多様かつ優れたプログラミング教材の開発や体験的プログラミング活動の実施など、学校におけるプログラミング教育を普及・推進などを行っている。
小金井市で実施されているICT授業の実証実験
このような教育界での改革はそのほかにも始まっている。
たとえば、東京都小金井市教育委員会、NTTコミュニケーションズ株式会社、凸版印刷株式会社、株式会社コードタクト、NPO法人eboardの5者は、総務省が推進する「教育クラウド・プラットフォーム」を学校で円滑に活用するための「次世代学校ICT環境」のあり方を整理することを目的として、総務省の「次世代学校ICT環境」の整備に向けた実証に参画し、クラウドや低価格タブレットを活用した授業を2018年4月より開始した。
「教育クラウド・プラットフォーム」とは、低コスト導入・運用可能なクラウド技術を活用したプラットフォームだ。生徒・教員などが多種多様なデジタル教材やツールをいつでもどこでも利用できることとしている。
小金井市が参画する理由としては、小金井市が「ICTを活用して子供たちの個性と創造力を伸ばす教育を実現し、国際社会に生きる日本人を育成する教育」を推進しているということが背景にあるようだ。小金井市以外の4社はこの検証を通して「コスト軽減モデル」について取り組む。その結果として、得られたノウハウを小金井市の全小中学校へと展開する予定だ。
凸版印刷株式会社は、個別学習支援システム「やるKey」、株式会社コードタクトは、授業支援システム「スクールタクト」、NPO法人eboardは、個別学習支援システム「eboard」をそれぞれ提供している。
一方、小金井市は、タブレットを使用し、NTT Comが提供する教育クラウドプラットフォームサービス「まなびポケット」上から上記のデジタル教材を活用した授業を行うとしており、それによって各学校に現在設置されている教材配信用サーバーを不要とし、導入コスト / 外部に委託している運用・保守コストの30%削減を目指す。
そしてタブレットを導入することで、生徒自らが調べたり考えたりすることの実践を行い、日本のこれまでの教育スタイルである「先生から生徒への一方通行」を打破し、「生徒が主体的に学ぶ」スタイルを確立しようというものだ。
ICTが教育の現場を一新させる
教育といえば、1人の教師が大きな黒板を使い、子どもたちの集団に向けて授業を行うという一方通行の勉強の場だった。しかし世界ではすでに、そのような詰め込み型の教育では子どもたちの素養を本当の意味で伸ばすことは難しいということに気づき、教育のスタイルをさまざまに変化させている。
日本でもやっと重い腰を上げ、国を挙げたICT教育の強化を行うことで“受け身の授業”から“主体的な授業”スタイルに変えようとする姿勢はみえてきている。ただし、世界に通用するICT人材を育成するとなると、世界にさきがけた教育方法を小中高大という一連の流れのなかで、時流にあった形にフレキシブルに変化させていかなければならない。
今回のICT教育の導入によって、未来につながる教育のすそ野が広がり、イノベーションを起こせるようなICT人材の育成の一助となることに期待したい。
img:PR TIMES