アラブ首長国連邦(UAE)の首長国の1つであり、国内最大の都市がドバイだ。世界一の高さのブルジュ・ハリファや、世界最大の人工島、パーム・ジュメイラなどが目を引く、中東屈指の超モダン都市に成長。

最近は急速に発展するITハブとしても有名で、特にAIテクノロジー導入に力を入れている。AIの発展に不可欠といわれる強い指導力、潤沢な資金、スキル習得を目指した教育の3つすべてがそろっているとされるドバイ。

今、ドバイそしてUAEでは何が起こっているのだろうか。

AIが続々と日常生活の一部に

ドバイでは5月、『Ode to Joy(歓喜の歌)』ならぬ、ドバイをたたえる歌、『Ode to Dubai 』が誕生し、話題をさらった。これはただの市歌ではない。世界で初めて「アーティフィシャル・インテリジェンス・バーチャル・アーティスト(Aiva)」と呼ばれる、AIテクノロジーを用いて作曲されたものだ。

Aivaには、ベートーベンや、モーツァルト、バッハといった有名作曲家による3万曲もの交響曲の総譜をもとにしたアルゴリズムが使われており、歴史あるフランスの著作権団体SACEMにも認められた、一人前の「作曲家」だ。

人間ならではの感情表現の1つと捉えられてきたクラシック音楽だが、Aivaはその考えを超えた。今後、個々に合ったパーソナルな音楽を創り出していく計画だ。


「ロボット警察官」のお披露目。ガルフ・インフォメーション・アンド・セキュリティ・エキスポ・アンド・カンファレンスで
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ドバイ発で近年注目を浴びたものといえば、ほかに「ロボット警察官」や「バーチャル・ボーダー」がある。

「ロボット警察官」は、ドバイ警察に正式に警部補として採用されたロボットで、ショッピングセンターや、観光スポットに配置。会話だけでなく、ロボットの胸部にあるタッチスクリーンで、犯罪の通報や、罰金の支払いができる。ドバイ警察には、2030年までに警官隊の25%をロボットにしたいという意向がある。

一方「バーチャル・ボーダー」は今夏の終わりまでにドバイ国際空港内の一部ターミナルに設けられることになっている。

これは、空港内での事前登録後、中に映し出される、さまざまな高画質映像を楽しみながら、トンネルを通り抜ければ、セキュリティ・チェックが完了する仕組み。トンネル内には約80のスキャナーが取り付けられている。当初は顔認証を採用し、後には虹彩認証システムを用いる計画だ。

蓄積されたノウハウの上に築かれる「未来都市」

こうしてみると、ドバイは突然「未来都市」になったかのようだが、テクノロジー化への専心は昨日今日に始まったことではない。

2001年に電子政府として諸手続きや支払い、情報の提供をオンラインで行えるポータルサイトを立ち上げ、モバイルペイメント・サービスを開始した。

2013年には、その翌年から3年のうちに、交通、コミュニケーション、インフラ、電力、サービス、都市計画の6つを柱に、1,000もの政府サービスのスマート化を目指す「スマート・ドバイ」計画を発表。電子政府からモバイル政府へと移行した。昨年、これを「スマート・ドバイ・2021」が引き継ぎ、現在に至る。

ドバイ首長国の首長であり、UAEの副大統領と首相を兼務する、ムハンマド・ビン・ラーシッド・アル・マクトゥム殿下は、「『スマート・ドバイ』の目的は、新サービスを開発することではなく、生活のあり方に変革を起こすことである」と明言。「結果として求めるのは顧客満足ではなく、人々の『幸せ』」としている。


ムハンマド・アル・マクトゥム殿下(右)と、ムハンマド・ビン・ザーイッド・アル・ナヒヤーン アブダビ皇太子
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世界指折りのAIイノベーションハブへ

国を挙げての重要な取り組みも昨年始まっている。「UAE・センテニアル・2071」だ。2071年までにUAEを世界で最も良い国にしようというもの。教育、経済、政府内改革、コミュニティの一体化の4つの観点に立ち、向こう約50年間にわたる活動を明確にし、国民に将来に備えてもらう。さらにUAEにおけるAI戦略である、「UAE・ストラテジー・フォー・AI」も発表している。

「UAE・センテニアル・2071」の達成、政府内各部門の業務効率化や迅速な問題解決、AIへの投資の募集、経済価値が高い新市場の構築が目的。交通、保健衛生、航空宇宙、再生エネルギー、水資源、テクノロジー、教育、環境、交通の9つのセクターを対象に、活動の効率化やコストの削減を図り、研究開発と新規事業に着手する計画だ。

「UAE・ストラテジー・フォー・AI」の課題としては、まず設立を予定していた、AIを先導するためのグループ、UAE AI協議会を3月に立ち上げた。

ほかには、関連プログラムの実施、政府内におけるAIなどテクノロジーに精通するリーダーとスタッフの確保、医療・治安分野、またサービス関連の日常業務へのAIの適用、AI顧問機関を新設の上、AIを安全に用いるための法整備の実施がある。

ムハンマド・アル・マクトゥム殿下は「UAE・ストラテジー・フォー・AI」完遂のために、AI協議会とは別にAI省も新設。「世界でも主要なAIイノベーションハブとしての地位を確立すべく、官民を問わず、各セクターにAIをいきわたらせたい」と意気込みを見せる。大臣には弱冠27歳のオマール・ビン・スルタン・アル・オラマ氏を抜擢している。

AIは将来における成功の鍵

「UAE・ストラテジー・フォー・AI」と並び掲げられている計画に、「ドバイ・フューチャー・アジェンダ」がある。

ムハンマド・アル・マクトゥム殿下は、「『未来を形作る』ということが理論上の概念である時代は終わった。実際世界市場で勝ち抜くための鍵として捉えるべき。未来は可能性や数値ではなく、明確なビジョンや計画性、活動の上に成り立つものだ」としている。

イノベーションとテクノロジー分野でリーダーシップを執れるよう、ドバイのみでなく、国内の個人、組織、セクターにまたがってサポートを提供する指針だ。

「ドバイ・フューチャー・アジェンダ」に沿い、未来を形作るための組織、ドバイ・フューチャー・ファウンデーションも設けられた。3Dプリンティング、ブロックチェーン、ドローン、ロボティックス関連の11のプログラムが進められている。

中でも特に注目されているのが、「ドバイ10X」。ドバイを他都市より10年先をいく町にするのが目的だ。

その手段として選ばれたのが、「破壊的イノベーション」。現在市場を牽引している企業、製品、サービスを打破し、新しい市場と価値のネットワークを構築。既存のそれらに置き換わるイノベーションといわれ、「持続的イノベーション」の対照として捉えられている。

「ドバイ10X」では、現在26のプロジェクトが厳選な審査の上選ばれ、目標達成に向けて活動中だ。


「ドバイ10X」を先導するのは、ハムダン・ビン・ムハンマド・ビン・ラーシッド・アル・マクトゥム ドバイ皇太子。ムハンマド・アル・マクトゥム殿下の息子。
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2006年に現職に就任して以来、ムハンマド・アル・マクトゥム殿下は、インフラの大規模整備や、数々の商業プロジェクトを進め、脱石油依存に努めてきた。1月にブルームバーグが分析・発表した情報によると、2013年から比較して、原油価格は37%下落したものの、ドバイ株式市場は155%の上昇を見せているそうだ。

人々をより幸福にするため、AIをはじめとするテクノロジーの導入に熱心なUAE。他国平均では62%だが、UAEでは在住者の約75%が、AIを取り入れたデバイスを積極的に生活に取り入れたいとしている。

テクノロジーの発展は政府の施策に留まらず、国民の意思にも支えられているといえそうだ。

文:クローディアー真理
編集:岡徳之(livit

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