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外出自粛が続く中、多くの企業がリモートでの採用に苦戦している。海外でも同じくリモートリクルーティングが余儀なくされ、戸惑っている企業も多いようだ。
その状況を反映するように、リモート採用のベストプラクティスやコツを紹介する記事が海外でも急増している。
今回は、リモートリクルーティングに関して世界ではどのような手法が実施されているのか、企業側の最新動向をお伝えする。
面接準備時に有効な準備リスト、オフィスツアー動画
リンクトインが2020年5月に掲載した記事では、世界各地の企業におけるリモート採用のベストプラクティスがその実例と共に紹介されている。
まず、同社が1.4万人にアンケート調査した「候補者が社風を理解するためにしたいことは?」という質問で、トップの回答は「オフィスツアー」だった。
候補者は、オフィスツアーをしながら実際に将来の同僚がどう働いているのかを見て感じたり、雰囲気を知りたいのである。
これをリモートでも採用し、候補者にバーチャル・オフィスツアーを体験させている企業がある。
たとえば、アメリカの医薬系企業Constellationでは、候補者が道路を渡ってオフィスビルに入り、エレベーターで上がる風景、さらに受付を過ぎて廊下で同僚やCEOが会話している風景、休憩場所やオフィスの全体の風景などを、3分程度のビデオで紹介している。
コロナ前に撮ったビデオがない会社でも、オフィス外観や社内の風景、同僚たちの働く姿の写真を工夫して並べ、動画にすることで、立体感を出してビデオを候補者に見せる工夫をするところもある。
さらに、会社の内容が分かる準備リストや小包を、面接対策として送る会社もある。
ドイツのIT企業Blinkistは候補者に事前にリモート面接の概要を送る。そこには、面接に対するアドバイス、社風と組織について詳しく書いてあるリンク、自社アプリを無料で試せるバウチャーコード等が記載されており、彼・彼女らが準備する手助けになる。
これにより候補者は会社の概要をよく理解し、面接時に適切な質問をすることができる。このアプローチは、採用に至る至らない関わらず、候補者から高く評価されているようだ。
オンライン配送サービスを提供するInstacartは、面接の前に小包を送ることにより、候補者の自宅でのオフィス体験を再現しようとしている。各パッケージには、ブランドのマグカップ、トートバッグ、およびInstacartとその社風、食料品業界に関する情報等を含むパンフレットが含まれている。
同社の採用マネージャーは、「通常、面接で候補者に挨拶するとき、最初に行うのは飲み物が欲しいかどうかを尋ねることなんです。私たちはこれと同じ暖かさとおもてなしを、在宅の候補者にも広げたかったのです」と語る。
候補者はちょっとしたギフトを喜ぶとともに、会社に対する愛着も増して面接に挑むことができる。特にBtoCの企業形態では、候補者が未来の顧客やステークホルダーともなるため、Instacartはこの様な形で会社へのエンゲージメントを上げている様子がわかる。
面接時に使えるオフィスの背景設定、オフィスツアー。AIの完全導入はまだ先の話か?
さらにInstacartでは、オフィスでの体験を伝えるために、ビデオインタビュー中の背景はオフィスの写真に変えている。使用するビデオ通話ツールによるが、高品質の写真を準備だけで設定をすることが可能のようだ。
面接時、前述のオフィスビデオツアーをその場で一緒に行い、説明をしながら候補者と会話するのもよいだろう。候補者と一緒にツアーをしてる感覚にもなり、候補者の率直な意見が聞ける。
イギリスの大手一般新聞ガーディアン紙は、リモートリクルーティングに関する専門家の声を紹介している記事の中で、AIによる面接動画分析によって候補者をスクリーニングするシステムも紹介している。
AIによるビデオの事前面接は、候補者の声のトーン、顔の表情、スピーチパターンを分析し、その役割の理想的なプロファイルに照らして、候補者をスコアリングできるアルゴリズムだ。
大手銀行や大手グローバル企業など、一部がこれらのAIを導入し採用を始めているが、これに関しては、オンラインリクルート企業Modern Hireの最高責任者 Stern 氏はSiliconRepublic誌に次のように語っている。
「採用におけるAIテクノロジーの台頭に伴い、人事部門のリーダーは、自社のAIアルゴリズムが自社製品内でどのように使用されているかを、透明かつ納得できるツールと提携することが重要だ。もし自社の人事チームが、AIツールで使用されている手法や評価方法を理解できないのであれば、ツールを使用しない方が良い」。
さらに面接AIは攻略可能であるとし、AI攻略法を伝授するコースがイギリスのベンチャー企業Finitoなどにより9,000ポンド(約120万円)で提供されているなどの事実もある。
このような背景もあり、現在の技術ではAIは課題が残るところが多いため、少なくともこのコロナの状況下では大半の企業はそうした方法ではなく、できるだけビデオで本物の面接に近い状況を作り出すことが賢明だと、ガーディアン紙では指摘している。
入社後のお祝いSNSや、ウェルカム小包で社員エンゲージメントを上げる
候補者の採用が決定し契約が交わされた後、チームの一員として歓迎するのに多くの企業がソーシャルメディアを使っているようだ。インドのデジタルマーケティング企業Social Notebookは、4月に新入社員を迎え、彼女の経歴や趣味、写真を企業のTwitterに載せている。
アメリカのFact&Fictionも、リンクトインの「バーチャル・ハグやハイタッチ」機能で中途社員を温かく迎え、彼らの面白い写真を共有して会社の楽しい雰囲気を伝えている。
実務としてリモートでも、新規社員が入社日に必要な全ての備品やトレーニングを確保することは必須だ。アジアを代表する配送プラットフォーム企業Lalamoveは、会社の記念品とサプライズギフト、そしてパソコンを一緒に送ることで、新規社員を喜ばせることを目指している。
イスラエルのSolutoも、新しいリモート採用者にウェルカムギフトを送っている。通常同社では新規社員は入社日にデスクにギフトが置かれているが、現在は在宅用に配送。中身は家でも美味しいコーヒーと、椅子に設置する腰用サポート。従業員がどこにいても生産性を高めるのをサポートするのが、企業の役割である。初日のチームランチの代わりに、今回はビデオ画面を通じたバーチャルパーティーに招待となっている。
リモートワークの傾向は加速を見せ、米ツイッターや、ニコニコ動画を運営するドワンゴなど、コロナ収束後も在宅勤務を認める方針に転換している企業が出てきた。
リモートワークに付随し、未来の企業自体を創っていく「採用」という重要な活動も、リモートに徐々にシフトしていくことが予想される。企業の人事部は、新しい技術やマインドを取り入れ、迅速に対応していく必要があるだろう。
文:米山怜子
企画・編集:岡徳之(Livit)