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まだ世の中にないサービスを生み出そうとしたとき、きれいな戦略を描くだけでは成功には至らない。では、革新を起こすためには何が必要なのか。
2020年春にローンチした船上の電子通貨プラットフォーム「MarCoPay(マルコペイ)」。主に、船舶の従業員向けに、船上での給与支払いや決済・送金等に関する課題を解決するための、海運業ならではの発想から生まれたフィンテックだ。日本郵船、アクセンチュア、シティグループというグローバル企業3社が連携して開発した同サービスは、海運業界が長年抱えていた課題を解決し、今後社会に大きなインパクトを与える可能性を秘めている。
同プロジェクトに参加したアクセンチュアの戦略コンサルタントの中村 朝香氏と、マネジメントコンサルタントの建部 恭久氏は、どのような未来を描いて「MarCoPay」を船出させたのか。両名にプロジェクトの秘話と、アクセンチュアでコンサルタントとして働く魅力について聞いた。(以下、人物の敬称略)
- 船上の電子通貨プラットフォーム「MarCoPay(マルコペイ)」
- 海運業界大手の日本郵船とフィリピンのTransnational Diversified Group(TDG)が共同で設立した事業会社が展開する電子通貨プラットフォーム。電子通貨による船上での給与支払いや、決済のキャッシュレス化を可能にし、船員の利便性向上と船の安全運航強化を目的としている。
- システムやネットワークの構築において、デジタル・テクノロジーに関する最先端の知見を備えたアクセンチュアおよび金融大手のシティグループとのパートナーシップが大きな貢献を果たしている。フィリピンに現地法人を設立し、2020年1月から試験運用を開始。
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金融業界のプロが、異業種からのフィンテック参入をサポート
異業種からの金融業界参入には、専門的な知見が求められる。「MarCoPay」プロジェクトでそのサポートに参加したアクセンチュアのメンバーは、戦略コンサルタントや金融サービス領域を専門とするマネジメントコンサルタント、システムエンジニアやデザイナーなど、多彩なスキルを持ち合わせたプロフェッショナルたち。アクセンチュア流One Teamの中で今回は、金融業界のスペシャリストとして数々の案件を成功に導いてきた戦略コンサルタントの中村氏と、マネジメントコンサルタントの建部氏に話を聞いた。
アクセンチュア ビジネス コンサルティング本部 シニア・マネジャー 中村 朝香氏
中村:「私はアクセンチュアに新卒で入社し、現在7年目です。以来、主にカード会社や銀行などの金融業界のお客様に対し、新規事業戦略や中期経営計画の策定、M&A戦略などの支援を行ってきました。ここ数年は、異業種から金融へ参入したいと考えるお客様も多く、決済や金融領域の知見をベースに新たな金融事業の組成を支援させていただくケースもとても多いです」
建部:「私は中途採用でアクセンチュアに入社し、現在5年目です。前職はSlerで営業を務めていました。お客様から『こういうシステムを作れないか』と相談されて担当につなぐケースが多く、お客様に対して自分がどのような価値を提供できているのかが見えにくい状況でした。
そこで、もっとお客様の企業価値向上や課題解決に貢献できる仕事をしたいと考えて、転職を決意。戦略を立てながらも、実行の段階までお客様に寄り添うことができるアクセンチュアへの入社を決めました。
入社から2年間は、大手銀行の次期勘定系システム導入においてプロジェクトマネジメントを担当。その後は、決済市場への新規参入を目指す企業に向けて、参入余地識別や実行計画策定の支援を担当してきました」
アクセンチュア ビジネス コンサルティング本部 マネジャー 建部 恭久氏
0→1を担う戦略コンサルタント、1→100を担うマネジメントコンサルタント
「MarCoPay」プロジェクトは、日本郵船から「船上でのキャッシュレス化を検討したい。フィンテックを活用して課題解決ができないか」という相談を受けたところからスタート。その後いくつかのコンペを経て、アクセンチュアが、事業戦略の策定やシステムや業務構築の支援に入ることとなった。プロジェクトの中で、両名はどのような役割を担ったのか。
中村:「私も建部も、お客様にとって“未知の領域”である金融事業の知見・経験をベースに支援する部分では同じなのですが、簡単に違いをお伝えすると、戦略コンサルタントは『0→1』を作り、マネジメントコンサルタントは『1→100』を作るイメージです。
『MarCoPay』プロジェクトでは、はじめに戦略コンサルタントのチームが入って、お客様の初期案のポテンシャルを客観的に評価し、その後、あるべき/勝てる新規事業案を提言し、市場調査・予測含め事業計画具体化支援を行いました。投資承認が下りたところで、具体的な業務構築をするために建部のマネジメントコンサルタントのチーム、システム・アプリ構築に向けてシステムエンジニアのチームが参画し、実現に向けて支援を進めていきました。
本業が金融業ではないお客様の“金融事業への参入支援”の経験値が豊富なこととその経験値に過度に依存しないことが、私たちの強み。これまでに得た金融業界での知見から、金融業界に新規参入するお客様にとって障壁となりやすいポイントや異業種だからこそ武器になるポイントを理解していることと、エンドユーザーのニーズ・マーケットの情勢を踏まえた出すべき価値を明確化できたため、お客様からも頼りにしていただけたのではと感じています。
戦略を立てるときに私たちが大切にしているのは、『ゼロベースで、“なぜ”を繰り返し考えること』です。『こういうことをしたい』というご相談をいただいたときに、『本当にそれがベストか』を考える。自ら問いを立てながらお客様の想いや検討内容を伺っていくと、立脚点を変えたほうがいい場合や、別の可能性が見えてくる場合もあります。ゼロベースで参入機会や戦略を探り、お客様だけでは気づけなかった点を洗い出し、より良いものにブラッシュアップするお手伝いをすることが、私たちの役目だと思っています」
建部:「我々マネジメントコンサルタントは、全体の戦略ができたのちに、具体的な業務オペレーションを構築する役割を担いました。『MarCoPay』プロジェクトではフィリピンに現地法人を立ち上げたので、新会社の業務を1から作り上げていきました。
プロジェクトのミッションは3つ。1つ目は、金融機関としてオペレーションの正確性・堅牢性を担保すること。2つ目は、リスクの観点で予測・把握・分析し、適切なアクションを業務として組み込み、ルール化すること。例えば、不正利用やマネーロンダリングを防止するためにどうすればいいかを検討し、本人認証の利便性を損なわずにセキュリティを担保するためにはどうすればいいか、どこまでの範囲はシステムで、どこからが業務で対応すべきなのか、について知恵を絞りました。
3つ目は、現地採用スタッフに業務を習熟させること。お客様の日本メンバーと弊社で業務内容を討議したのち、現地スタッフからも意見をもらい微調整することにより、品質は担保しつつも実務上での柔軟性も担保しました。グローバル案件でよく挙がる課題に、言語の違いによるコミュニケーションの難しさがあります。フィリピンの場合は、英語が第二言語ですが、深い議論のときは母国語に頼ってしまうケースもありました。そこで、『ディスカッションは英語のみ』というルールを決め、Google翻訳などのコミュニケーションツールや、ホワイトボードを活用したビジュアル化に頼りながら、意思疎通を図りました。
今回のように新会社の業務を立ち上げることは特殊なケースですが、会社を運営するための業務フローを1から構築し、改善して、実際の運用まで導くことが我々マネジメントコンサルタントの役割の1つです」
チャンスを逃すな。「史上最速」で金融事業の認可を獲得
今回、日本郵船とTDGが出資して、フィリピンに現地法人「MarCoPay Inc.」を設立した。「MarCoPay」のベースとなる「電子通貨」を取り扱うためには、まずは、フィリピンの中央銀行から「電子通貨発行業(EMI)」の認可を取得する必要があった。そのような状況下で、「MarCoPay」は、申請から認可取得まで当免許において「史上最速」のスピードで実現。このスピードの一助となったのは、アクセンチュアの総合力だった。
中村:「フィリピンは日本に比べると、金融サービスに求められるセキュリティの要件は一部発展途上ですが、私たちは、重要な部分は“グローバルスタンダードに合わせること”を目指しました。また、設立初期の少ないスタッフでもセキュリティを担保できる業務やシステムを構築したことも、フィリピン史上最速の認可につながった要因だと思います。お客様からは、『日本郵船やTDGだけでは、このスピードで認可を得るのは厳しかった』と評価していただきました。
このスピード感を実現できたのは、システムコンサルタントやエンジニアのチームと部門横断で連携して、日々出てくる課題に対して迅速に対応できたからだと思います。もし、システムや業務構築を別の会社が行なっていたらここまで上手くいかなかったはず。一気通貫で取り組める総合的なチーム力があったからこそ実現できました」
建部:「チームの連携を深めるという点では、お客様や現地スタッフを含め、ミーティングを定期的に行って情報共有をしていました。全員で最終ゴールを共有し、現状を振り返って定期的にミッションや進捗を共有することで、士気も高まったと思います。アクセンチュア内部でも戦略コンサルティングのメンバーが、システムエンジニアのミーティングに参加するなどして、頻繁に情報交換をしていました」
中村:「異業種への新規参入、特に金融という専門的な分野への参入というのは、お客様にとって不安が大きいものです。『初期投資は小さく始めたほうがいいのではないか』『本当にリスクを取って自らやるべきか』などと考えて、最初は大きく戦略を描いても、だんだん目指す姿が縮小してしまったり、スピードダウンに陥ってしまったりするケースも多々あります。
近年、金融業界、特に決済市場は変化のスピードが速いです。日に日に変わる市場の中では、石橋を叩きすぎているうちに参入チャンスを失ってしまうこともあります。そうならないためにも、お客様がスピード感を持って未知の領域に一歩踏み出していけるように、部門の垣根を越えてコラボレーションし、チーム一丸となってご支援することが大事だと考えています」
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チーム一丸となって、お客様と一緒に課題解決に挑む
こうして生み出された「MarCoPay」は、日本郵船という1社の事業に留まらず、海運業界を大きく変える可能性を秘めている。コンサルタントとして関わった両名は、どのようなやりがいを感じているのだろうか。
中村:「大手企業の経営層や企画を担うお客様が、わざわざアクセンチュアにお金を払って依頼するような内容ですので、こちらも生半可な気持ちで回答を出すことはできません。『何がお客様にとって最適か』をさまざまな角度・深度から考え、時には対立した意見をお伝えする必要もありますが、お客様に納得していただけるまで提言を具体化していく必要があります。
こうした中で、自分の能力や考えに留まらず、多種多様な能力を持つメンバーの知見やアイデアを結集し、お客様により良いサービスを届けるために全力を尽くせることが、アクセンチュアで働く醍醐味。今回の『MarCoPay』プロジェクトでは、まさにそのことを実感しましたね。
私自身は、今後は金融に限らず、業界横断の目線で0から流行を作っていく仕事をしていきたいと考えています。実現するためには、グローバルの先進知見やさまざまな機能軸・強みを持つ優秀人材との切磋琢磨が必要。そうした環境が整っているアクセンチュアは、私にとっては刺激的な職場です」
建部:「私は未来を切り拓くプロフェッショナルになりたいと思ってアクセンチュアに入社しましたが、今まさにそれが実現できています。
どれだけ夢のある提案をしても、お客様に『できないよ』と言われてしまったら、私たちの存在意義はありません。『やってみよう』という意志決定をしていただくために、私たちの提言でワクワクさせること、実行計画が具体的かつ実現可能性を感じること、お客様担当者の信頼を勝ち得ていることが最低限必要になります。お客様が覚悟を決めて“変わる“ための意思決定をした瞬間、大きなやりがいや喜びを感じますね。
アクセンチュアは、自分の意志を明確に持っておけば、やりたいことにチャレンジさせてくれる環境があります。また、さまざまな専門分野のエキスパートがいて自分自身の視野を広げることができるので、成長環境としてはとても魅力です」
コンサルタントに必要なのは「柔軟性」と「お客様としっかり向き合う姿勢」
アクセンチュアのコンサルタントには、事業会社出身のメンバーも多数在籍する。今回の「MarCoPay」プロジェクトにも、銀行やカード会社、広告代理店やITサービス企業から転職してきたメンバーが活躍したという。
建部:「事業会社出身で活躍している方は、柔軟な方が多い印象があります。実際にお客様と関わっていく中では、コンサルティングの教科書通りに進まないことのほうが多い。そうしたときに何より大切なのは、お客様について常に深く考え抜くことです。実際、事業会社で自分たちのお客様に向き合ってきた経験を持つ方は、アクセンチュアでも活躍されていると思います」
中村:「コンサルティングの知識がないことに不安を感じる方もいるかもしれませんが、重要なのは何でも吸収しようとする意志と多くの人の力を借りて切り拓いていく執念です。お客様に価値を提供するための手法はさまざまです。あまり選り好みせず、ピュアに、貪欲に、いろいろな考えや方法を吸収しようという気持ちを胸に1日1日を過ごす方はあっという間に成長します。私自身は、そういう方とぜひ一緒に働きたいです。
また、転職の場合、最初はもといた業界の知見を活かす仕事を担当するケースが多いと思いますが、そこにずっと留まる必要もありません。しばらくして別の道・業界に興味を持ったら、ご自身で手を挙げ、新しい道に進むこともできます。このような“Think Straight, Talk Straight”な点も、アクセンチュアならではの魅力ですね」
アクセンチュアでは、コンサルタント職の人材を積極採用中。アクセンチュアで「世の中にまだないサービスを生み出したい」「新しい挑戦をしたい」という方は、下記から詳細を確認してほしい。
取材・文:村上 佳代