東南アジア各国で日本がどのようなイメージで見られているのかご存知だろうか。「経済的に進んでいる国」や「生活水準の高い国」などのイメージが持たれているようだが、もっとも強いのは「科学技術が発達した国」というイメージだ(外務省対日世論調査)。
しかし、そのイメージも中国に取って代わられるかもしれない。
日本が「科学技術が発達した国」として見られる理由はいくつかある。東南アジアでは、トヨタやホンダなどの自動車やバイクに加え、パナソニックやソニーなどの家電が広く普及しており、これらのブランドがテクノロジーのイメージを広める役割を果たしてきたと考えられる。
一方、自動車や家電は中国や韓国ブランドの猛追により、すでに日本のイメージは相対的に薄れてしまったといえるだろう。
さらに、人工知能やビッグデータといった先端テクノロジー分野では、アリババやテンセントなど中国IT大手が域内でのプレゼンスを高めており、先端テクノロジーに関しては中国だろうというイメージが持たれ始めている。
マレーシアに深く入り込むアリババ、首都を人工知能都市にする計画も
アリババがマレーシア・クアラルンプールで人工知能を活用した都市管理プロジェクトを開始することも、そうしたイメージをさら強めるものとなるだろう。
2018年1月末、アリババのグループ会社アリババ・クラウドは、マレーシア・デジタルエコノミー公社、クアラルンプール市役所と共同で、ビッグデータや人工知能を活用した都市管理プロジェクト「シティー・ブレイン」を開始することを明らかにしたのだ。アリババがシティー・ブレインを中国国外で展開するのはマレーシアが初という。
プロジェクト第1弾は、クアラルンプール市内のカメラの映像を人工知能で解析し、信号管理などを含め交通の最適化を行うという。市内の交通渋滞緩和などが期待されている。
クアラルンプール市内の交通渋滞
このプロジェクトに加え、アリババ・クラウドはマレーシア・デジタルエコノミー公社と協力し、マレーシアにおけるデジタル人材の育成に力を入れることを明らかにしている。データ分野の専門家500人、データ関連のスタートアップ300社をマレーシア国内で育成する計画だ。
マレーシアにおけるアリババの取り組みは、この2〜3年加速している印象がある。
そのきっかけとなったのは、2016年末マレーシアのナジブ首相が、アリババのジャック・マー会長をマレーシア政府のデジタルエコノミー顧問に任命したことだったのかもしれない。
実際、その後2017年11月にクアラルンプール国際空港近くに発足した「デジタル自由貿易区(DFTZ)」では、アリババが拠点を設置するだけでなく、開発支援も行うと報じられている。
DFTZのオープニングセレモニー ジャック・マー会長(左) ナジブ首相(右)
DFTZは、中小企業の越境貿易を促進するためのEコマースに特化した経済特区。マレーシア政府はDFTZを活用し、中小企業の輸出を倍増させる計画だ。2017年11月時点では約2,000社が参加しているが、政府は2018年末までに1万社に増やす目標を掲げている。
アリババは、DFTZで電子決済や電子貿易プラットフォームを提供し、マレーシアの中小企業が効果的にEコマースに取り組めるように支援を行うという。
このように、マレーシア市場に深く入り込み多大な影響力を持つようになったアリババだが、タイでも同様に中小企業のEコマース促進やデジタル人材育成を行っている。さらにインドネシアでデータセンターを開設するなど、東南アジア主要新興市場での布石は盤石になりつつあるようだ。
マレーシアは1980年代、三菱自動車やダイハツなど日本の自動車メーカーから自動車生産技術を吸収し、東南アジアで唯一国産車を有する国になったが、人工知能やEコマースに関してはアリババを中心とした中国企業から技術を吸収しようとしているのだろう。とどまるところを知らないアリババの東南アジア展開に今後も注目していきたい。
文:細谷元(Livit)