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- 本コラムは、企業・団体などから寄稿された記事となります。掲載している取り組みやサービスの内容・品質、企業・団体などをAMPが推奨・保証するものではありません。
スタートアップ企業が必ず直面する成長の壁。その最大の難所は、事業・組織拡大に伴い、経営判断の拠り所が曖昧になることだ。AI関連の顧客対応システムを提供する株式会社Micoもこの危機に陥った。成長の勢いが加速するほど、「お客様への価値提供を行うため、どの機能開発を優先すべきか」 「新規事業の開発にいつ、どこまで投資すべきか」といった経営判断を行う際、部門ごとの立場や観点が異なり、合意形成に至るまでの調整コストが重なっていた。
この危機を脱するために選んだのは、経営をドライブするための「ブランド刷新」だった。単なる社名やロゴの変更といった表層的なリブランディグではない。経営の意思決定を導く指針として機能させること目的に設計されたブランド戦略だ。その刷新は、どのようにして組織のひずみを解消し、停滞していた判断スピードを取り戻したのか。株式会社Mico 取締役COOの八重樫健氏に、急成長の裏側にある経営のリアルを聞いた。
| 設立 |
2017年10月30日 2025年6月に株式会社Micoに社名変更 |
|---|---|
| 本社所在地 | 大阪府大阪市北区曽根崎新地1-13-22 WeWork御堂筋フロンティア |
| 事業内容 | AIを活用した顧客対応システムの提供 |
| 企業の成長過程における ターニングポイント |
事業の多角化に伴い、経営の判断軸が曖昧となり、意思決定の遅れが生じていた。そこで「会話」を共通項としたミッションの再構築とリブランディングを実行。これを経営の判断軸として活用することで、組織内の合意形成が促進され、意思決定のスピードを取り戻した。 |
事業の急成長のさなか、経営判断の拠り所が求められた
事業の急拡大は時として、混乱をもたらす。
2017年に大阪で創業した株式会社MicoはLINEマーケティングSaaS事業を中心に成長し、2024年から2025年にかけた約1年半で新規プロダクトを3つローンチ、社員数を2.5倍に拡大。この急速な成長の陰で、全社にかかわる意思決定のスピードに遅れが生じ始めていた。
「『プロダクトのこの機能開発を優先すべきかどうか』『新規事業への投資をいつ、どの程度踏み込むべきか』といった、日々発生する重要な経営判断における判断基準が曖昧な状態となっていました。この結果、経営層の合意形成に時間を要し、かつてのスピード感を維持することが難しくなっていたのです」
複数のプロダクト展開により、重点的にリソースを集中すべき点が定まりづらくなったことで、リソースの分散や非効率な動きが目立つように。このままではせっかく獲得した成長の勢いを、判断の滞りで妨げてしまう。そこで、経営の判断軸を規定するための「羅針盤」を定めるため、ミッション・ビジョン、そしてブランドの根本的な見直しに踏み切った。

意思決定の積み重ねから「会話」という共通項を見出す
課題解決のために選んだのは、経営の意思決定を規定するためのブランド刷新だ。「『我々が何をやっていくのか』という事業の手段を、『お客様にとっての価値提供を端的に伝えられるもの』として再定義する必要があると考えました。我々が掲げてきたミッションである『Empower every brand(あらゆる企業に持続的な成長をもたらす)』は維持した上で、そのミッションを達成するための『手段』をより具体化することに焦点を絞りました」
一方で、新たな手段を規定するプロセスは容易ではなかった。とくに難航したのが、ミッションの抽象度の置き方だ。
ミッションを具体的にしすぎると、今後の新機能開発や新規事業への挑戦といった活動の幅が狭くなる。一方に抽象的にしすぎると、結局判断軸として機能せず、従来の課題が解消されない。この両極端を避け、一貫性のある適切な「手段」を見つけるためのバランス調整に、議論の時間を費やした。
そこで生まれた新たな判断軸が、「Lifetime Trust(持続可能な信頼)」という言葉だ。この「Lifetime Trust(持続可能な信頼)」という概念は、Micoが提供する「瞬間瞬間の心をつかむコミュニケーション」の支援を通じて、お客様とそのエンドユーザーの間に信頼関係をどう作っていくか。この信頼こそが、顧客への価値と企業の成長につながると捉え、その実現のための手段として、Micoが最も強みを持つ「会話」という要素にフォーカスを当てることにした。

実は、この「会話」という共通項は、AIコールといった従来の事業領域から外れた新規事業への進出を決めた、過去の決定から見えてきたという。
「リブランディングを検討する以前、Micoが新たな領域であるAIコール事業への進出を試みた際、従来の事業との連続性や投資の是非について、関係者間では慎重な意見が多くあがりました。しかし、創業者の山田の強い思いもあり、新規事業に踏み切ることにしました。結果的に、顧客の利用開始から1年で年間売上1億円以上に伸ばすことができています。AIコール事業への新規事業への投資の意思決定を通じて、一対一の会話によるコミュニケーションの重要性がより見えてきました」
リブランディングで、意思決定に一貫性が宿るように
2025年6月に「株式会社Mico」への社名発表とともに、新たなブランドを発表。
リブランディングによる最も大きな変化は、組織の判断に一貫性が宿り、意思決定の効率が飛躍的に向上したことだ。
「顧客からの要望や今後の展開を踏まえて、短期的・長期的に開発検討を進める案件が多く、優先順位付けに時間を要していました。新規事業への投資や新機能開発の提案に対して、今は『これは持続的な信頼関係の構築につながるか?』という判断軸ができたことで議論に一本筋が通るようになりました」

経営判断の拠り所が具体的に定義されたことで、開発チームや営業チームといった異なる部門のベクトルが一致しやすくなった。リソースの分散が最小化され、戦略の実現効率が向上。組織全体が一つの羅針盤を共有し、個々の判断がその羅針盤に沿うようになったことで、スピード感を取り戻した。
また、社外にも「Mico」というブランド名で認識されやすくなり、Micoというブランド名で指名検索が増える結果に。

議論と熟考のプロセスが、発信への責務の土台を作る
経営課題の解決としてリブランディングを行うためには何が重要なのか。
「ブランドを血の通ったものにするために議論を尽くすことは不可欠です。時間やリソースをかけてでも、経営チームが密に集まり、考え抜くプロセスをしっかり踏むことが最も重要だと感じています。これはリブランディングを発表した後、全社員が責任を持って発信し続けるための土台となります」
状況がめまぐるしく変わる現代、企業は常に「今、何をやるべきか」という判断を迫られる。意思が宿ったブランディングは、経営判断の羅針盤となり、成長の源泉となるかもしれない。
- 八重樫 健/やえがし けん
- 株式会社Mico 取締役COO
- アクセンチュア株式会社にて、経営戦略立案、M&A、新規事業立上、全社デジタル化支援等を経験した後に、Supershipホールディングスを立ち上げ。同社経営戦略の立案、事業推進、10社超のM&Aの戦略立案・実行、PMI・事業グロースまでを一貫して推進し、経営戦略・マーケティング・人事領域を管掌する役員として成長を牽引。2022年株式会社Micoに入社し、現職に就任。
- ▼お問い合わせ先
- ●企業名:株式会社Mico
- ●メールアドレス:pr@mico-inc.com
- ●URL:https://mico-inc.com/
