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2025年10月15日、国立競技場の運営を担う株式会社ジャパンナショナルスタジアム・エンターテイメント(以下、JNSE)は、事業戦略に関する記者発表会を開催した。JNSEは、世界トップレベルのナショナルスタジアムへの発展を目指し、株式会社三菱UFJフィナンシャル・グループ(以下、MUFG)と「ナショナルスタジアムパートナー(NSP)」の契約を締結。両社は日本を代表するスタジアム・国立競技場を起点に、今後さまざまなステークホルダーと共にスポーツやエンターテイメントの発展、さらには社会課題の解決に取り組むことを発表した。またパートナーシップ開始となる2026年1月より、正式名称「国立競技場」に加えて、新たな呼称として「MUFGスタジアム」を採用。両社はスタジアムの価値向上と社会的意義の発信を進め、世界に誇れるスタジアムとすることに挑戦する。
今回AMPではMUFGとJNSEの対談を実施。なぜ今、国立競技場がMUFGとパートナーシップを組んだのか、その背景とビジョンをひもといていく。
“スポーツの聖地”に、ナショナルスタジアムパートナーが求められる背景
1964年の東京オリンピック、東京2020オリンピック・パラリンピックをはじめ、数々の名場面を生み出してきた“スポーツの聖地”、国立競技場。その新たなステージへの第一歩として、10月15日の記者発表会ではMUFGが「ナショナルスタジアムパートナー」に就任することが発表された。MUFG 取締役 代表執行役社長 グループCEO 亀澤宏規氏は、「世界中の多くの皆さまに親しまれ、共感いただけるスタジアムの実現に向けて取り組んでいく」と決意を表明した。

亀澤氏「国立競技場/MUFGスタジアムという日本の象徴的な場を起点に、MUFGの強みであるビジネス基盤やグループ・グローバルの総合力を活かし、さまざまなステークホルダーとつながっていく。その上で、スポーツやエンターテイメントの発展のみならず、次世代育成、環境保全、文化交流、地域連携、事業共創などの推進に取り組んでいきます」
2025年4月より国立競技場の運営事業を担うJNSEの代表取締役社長 竹内晃治氏は、MUFGとの契約締結に対し、「単純な協賛というスキームではなく、国立競技場の未来を共に創る仲間になっていただくためのもの」と期待を寄せる。

竹内氏「巨大なネットワークと顧客基盤を有するMUFGは、文化振興や地域連携をはじめとした、あらゆる社会課題解決にも積極的です。この場所は、単なる建物ではありません。人々の感情が共鳴し、世代を超えて受け継がれる“社会の心臓”です。ナショナルスタジアムパートナーを通じて、私たちは皆さまと共に、未来へ向けて歩んでまいります」
ナショナルスタジアムパートナーの公募は、JNSEによって実施された。JNSEは、株式会社NTTドコモ・前田建設工業株式会社・SMFL みらいパートナーズ株式会社・公益社団法人日本プロサッカーリーグの4者の出資によって設立された、国立競技場の運営を担う特別目的会社である。同社が独立行政法人日本スポーツ振興センターから運営事業を引き継いだのは、民間企業の視点やノウハウを取り入れ、スタジアムの運営効率化と新たな事業モデルの確立を図るためだ。

そしてその新たな運営体制において、ナショナルスタジアムパートナーが必要とされる背景には、国立競技場の持続的な価値向上というミッションがあるという。JNSEの竹内氏は「一般的なネーミングライツを超える共創関係により、社会的な価値の創出を目指したい」と語った。
竹内氏「スポーツの象徴的な施設である国立競技場ですが、持続的に運営していくには、新たな事業モデルが不可欠です。特に維持費は大きく、国営の場合は赤字を国が補填しなければなりません。公共性を維持しつつ、自立性も担保するため、JNSEは民間の活力と柔軟性を基軸に、国立競技場の機能を広げたいと考えています。その方法の一つとして、共創の力を強化すべく私たちはパートナー契約を提案しました。双方の知見や強みを最大限活用し、運営体制を安定させながら、社会課題解決や地域活性化に寄与する。ナショナルスタジアムパートナーの中核的な目的です」

持続可能なスタジアム運営に寄与する、MUFGのネットワーク
パートナー契約を含んだ国立競技場の民営化については、建設段階から検討されていた。その後JNSEは、国立競技場の運営権実施契約を締結した2024年より各業界のリーディングカンパニーに声かけを開始。その中で最適なパートナーとして選んだのが、MUFGである。
では、数ある企業の中でなぜMUFGがパートナーとして選ばれたのか。そして、彼らが語る「共創」とは具体的に何を示すのか――。その思いやビジョンについては、MUFG 代表執行役専務 グループCSO兼グループCSuOの髙瀬英明氏とJNSE竹内氏の対談で語られた。
髙瀬氏は、「国立競技場が目指す方向性、JNSEが掲げる『世界トップレベルのナショナルスタジアムへ』という目標に共感した」と話す。

髙瀬氏「MUFGは2021年、グループ全ての活動の指針として『MUFG Way』を策定。MUFG Wayで定めるパーパスを『世界が進むチカラになる。』としました。この『世界』とは、全てのステークホルダーを指します。社会課題と向き合う人々が次の一歩を踏み出す支えとなることが、私たちの存在意義です。これまでMUFGは金融というフィールドを基軸に、さまざまなステークホルダーと課題解決に取り組んできました。その中で見えてきたのが、より広範な活動を可能にするプラットフォームの必要性です。日本を代表するスタジアムである国立競技場を、新たな変革と社会価値創造を実現する場へと昇華させ、私たちのパーパスを体現していきたいと考えました」

竹内氏「MUFGのグローバルなネットワーク、ブランドの信頼性は、公共施設にふさわしい健全性、安全性という点でも方向性が一致します。また、スポーツ振興や地域活動を通じ、長期的な視点で社会貢献に取り組む姿勢は際立っており、われわれと目指す先が同じであると感じました」
社会課題解決へと広がる、MUFGスタジアムの可能性
では、MUFGはどのような社会課題を意識して国立競技場を活用していくのだろうか。同グループは、社会貢献の枠組みとして「次世代育成・子ども支援」「環境保全」「金融経済教育」「文化の保全と伝承」「災害等・その他支援」の五つの優先領域を設定し、各種活動を推進している。次世代育成や文化保全、金融教育などには、同社ならではの特徴的な取り組みも多い。

髙瀬氏「次世代育成・子ども支援においては、『あしながMUFG奨学基金』の創設やSDGs教育の他、『MUFGカップ』や『MUFG ONE PARK』など、子ども向けのスポーツイベントも各地で運営しています。文化面で特に注力しているのは、伝統工芸の文化や技術の継承です。『MUFG工芸プロジェクト』では自社施設における作品展示、作り手・使い手双方を応援するイベントやセミナーの開催など、さまざまな取り組みを重ねてきました」
スポーツの振興にも、MUFGは大きな存在感を発揮してきた。ラグビーではJAPAN RUGBY LEAGUE ONEのプリンシパルパートナーを務め、野球では侍ジャパンのダイヤモンドパートナーやWBSC(世界野球ソフトボール連盟)のグローバルスポンサーを、バレーボールでは大同生命SV.LEAGUEのプライマリートップパートナーを務めている。
髙瀬氏「場を活かした社会課題解決では、2023年に武蔵野に開園した『MUFG PARK』でも、環境保全や地域のコミュニティーづくり、スポーツ・健康増進に取り組んで累計30万人に訪れていただいています。私たちの強みは、金融機関としての中立的な立場、そして国内外の広範なネットワークです。自治体・大企業・スタートアップ・投資家・生活者など、さまざまな業界・領域で関係者を“つなぎ”、パートナーシップのチカラで課題を解決できます。また、『MUFG SOUL』と題し、国内外の社員から、地域の社会課題解決のためのアイデアを募集し、活動を支援しており、“一人一人の行動が、社会をより良くする”というマインドはグループ全体に根付いています。MUFGに在籍するのは、海外在住者を含む約15万人の社員。世界中のネットワークと社会貢献意識を通じ、さまざまなアクションを起こせるはずです」

パートナーシップの力で広がる、スタジアムの可能性。今後、どのようなアクションを実現していくのだろうか。
竹内氏「まずはより多くの方々に国立競技場に足を運んでいただくことが重要です。例えば、子どもたちにとっては、憧れの舞台である国立競技場に足を踏み入れること自体が、かけがえのない体験になるはずです。プロ・アマ・スポンサーが一体となり、選手OBが参加するようなイベントを開催すれば、新しい世代が夢を抱く機会が増えていくかもしれません。MUFGが持つネットワーク力、『MUFG ONE PARK』などで得たノウハウを、最大限応用し、たくさんの人に門戸を開放していきたいです」
髙瀬氏「スポーツの聖地としての伝統を引き継ぐことはもちろん、われわれのノウハウを活かし、音楽や文化、企業利用など活用の幅を広げていければと考えています。例えば、産業振興やスタートアップ支援に関するイベント、次世代向けの金融リテラシー教育など、スポーツ以外の用途にも積極的に取り組んでいきたいと思います。また、後継者不足などの課題を抱える伝統工芸を世界へ発信することで、日本の工芸の価値を向上させ、人材育成や文化継承のエコシステムづくりにもつなげていけたらと考えています。根底にあるのは、“社会課題の解決”と、稼働率向上を通じた施設の持続的な運営。私たちが一方的に方針を決めるのではなく、国民の皆さまの声や地域の意見も取り入れながら、社会との対話を重ね、共創していく姿勢を大切にしていきます」

国立競技場を受け継ぐ覚悟とともに、世界に誇るスタジアムへ
共創の力で次の一歩を進む、国立競技場。多くの人々に愛されてきたスポーツ・エンターテイメントの聖地を受け継ぐために、両者はどのような覚悟で挑むのだろうか。
髙瀬氏「由緒ある国立競技場の呼称にMUFGの名を冠することに、非常に重い責任を感じています。だからこそ、このネーミングには、今後の活動に対する決意も込めています。金融機関としてのネットワークの強みを活かし、地域の皆さまとも協力しながら、国立競技場のステークホルダーの輪を広げ、そして“つなぐ”。共にアクションを起こしていただける皆さまに集まっていただくことを、MUFGは目指していきます。
また、日本の象徴的な施設である国立競技場の魅力を、世界に向けて発信していくことも重要です。世界陸上のように、海外のオーディエンスが注目する場を企画していくことで、ナショナルスタジアムとしての価値を高めていきたいと考えています。日本が世界に誇るスタジアムを舞台に、未来への可能性を広げるため、全力で本事業に取り組んでまいります」
竹内氏「世界の名だたるスタジアムと肩を並べるためには、行われる催しが愛されるものでなければなりません。これまでも一流のアスリートたちが活躍してきた国立競技場ですが、アマチュアの選手たちや子どもたちにも裾野を広げることは、公共性という観点からも有意義です。そしてスポーツの聖地としてはもちろん、トップクラスのエンターテインメントが発信される場、地域に根差した場、未来を創造していく場へと可能性を広げ、次の時代へとつないでいくことを目指します」
