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コンサルティング業界におけるAI活用の現状
コンサルティングなどのプロフェッショナルサービス業界では、AI導入による大きな変化が起こりつつある。
トムソン・ロイターの最新調査「Future of Professionals Report 2025」によると、調査対象となった専門職の80%が、「AIが今後5年間で自らの職業に”高い”または”変革的な”影響を与える」と予測していることが明らかになった。特にコンサルティング業界では、この変化が顕著に表れ始めている。
レクシスネクシスの調査では、管理コンサルタントの80%以上が日常業務でAIを活用していることが判明。36%が「業務プロセスの少なくとも半分でAIが貢献している」と回答した。具体的な活用場面としては、リサーチ、文書の要約・分析、メール作成、プレゼンテーション資料の作成などが挙げられる。
ハーバード・ビジネススクールがボストン・コンサルティング・グループで実施した調査でも同様の傾向が確認されている。同調査では、AIツールを業務に統合したコンサルタントのパフォーマンスが大幅に改善、タスク完了速度が25%向上し、全体的なタスク処理量も12%増加したという結果が示された。
ベイン・アンド・カンパニーの社内分析でも、AI自動化によってコンサルタントの生産性が22%向上したことが明らかに。またSPIの調査では、AI活用で先行するコンサルティング企業は、プロジェクトパイプライン、コンサルタント一人当たりの収益、利益率などの主要業績指標で優位性を持つ傾向が高いという結果が出ている。
こうした効率化の恩恵は時間削減という形で具体化されつつある。レクシスネクシスの調査によれば、コンサルタントの56%が「AI技術により毎日3〜4時間を節約できた」と回答。40%が「生産性の大幅な向上を実感し、より付加価値の高い活動に注力できるようになった」と述べている。
AI導入は組織レベルでの戦略的アプローチが不可欠だ。トムソン・ロイターの調査では、明確なAI戦略を持つ組織は、そうでない組織と比較して、AI導入による収益成長を経験する可能性が約2倍高いことが判明。一方、戦略なきAI導入は、個人レベルでの非効率な活用や、機密情報の不適切な取り扱いといったリスクを招く恐れがある。
AI導入による企業の劇的な変化は、シリコンバレーの投資家たちの間でも、次なる巨大市場として熱い視線を集めている。
コンサルティング業界におけるAIの影響:著名投資家の見解
コンサルティング業界で進むAI活用の波は、投資家たちに新たな投資機会をもたらしている。
シリコンバレーの老舗ベンチャーキャピタル、メイフィールドのマネージングディレクターであるナビン・チャッダ氏が予測するのは、AI技術による収益構造の根本的な変革だ。同氏は、法律事務所やコンサルティング会社、会計サービスといった労働集約型産業が、AIファースト企業によってソフトウェア企業並みの利益率を実現できる形に再構築されると主張する。
チャッダ氏が注目するのは「AIチームメイト」という概念だ。これは単なるAIツールではなく、人間と共通の目標に向かって協働し、より良い成果を生み出すデジタルコンパニオンを指す。人間の顧客マネージャーが関係構築に専念できるように、反復的な実装作業を担うのだ。このAIシステムを広く活用するAIファーストのプロフェッショナル企業が増えることで、ビジネスモデルが大きく変わっていくと予想している。
具体的には、従来の時間単価制から成果報酬型のビジネスモデルへの移行だ。チャッダ氏は「業務の80%をAIが担当すれば、80〜90%の粗利益率を達成できる。人間の業務部分で30〜40%の利益率を確保すれば、全体で60〜70%の混合利益率と20〜30%の純利益を実現可能だ」と試算を示した。
実際、同氏が最近シリーズAラウンドを主導したAI技術コンサルティング企業のGruveでは、この理論が実証されつつある。同社は500万ドルの収益規模だったセキュリティコンサルティング会社を買収後、AIを活用した成長戦略により、わずか6カ月で収益を1,500万ドルまで3倍に拡大。80%という驚異的な粗利益率を達成したという。
ただし、チャッダ氏は既存大手への正面からの挑戦は避けるべきだと助言する。「アクセンチュアやインフォシスと競合するのではなく、見過ごされている市場を狙うべきだ。米国には3,000万社、世界には1億社の中小企業が存在し、彼らは知識労働者を雇う余裕がない」と指摘する。これらの企業に対して、サービスをソフトウェアとして提供することが成功の鍵になると語っている。
従量課金制モデルのリスク:プロフェッショナルファームへの影響
チャッダ氏が予測する業界変革は、既に現実のものとなり始めている。AIの生産性向上により、時間単価で収益を上げてきた法律事務所や会計事務所の従来型ビジネスモデルに綻びが生じているのだ。
従量課金制の起源は、1919年から1956年にかけてヘイル・アンド・ドーのマネージングパートナーを務めたレジナルド・ヒーバー・スミス氏にさかのぼる。同氏は「現代法律事務所の合理化を先駆けた」人物として知られ、スタッフがプロジェクトに費やした時間を綿密に追跡し、それに応じて顧客に請求するシステムを確立した。
現在、米国の法律事務所パートナーの業務の82%が時間単価で請求され、監査法人では時間単価収益が全収入の65%を占める。エリートファームのシニアパートナーは時給3,000ドル、ジュニア弁護士でも400ドル、老舗法律事務所ではさらに高額になることもある。
しかし、ゴールドマン・サックスの分析によれば、米国における法務タスクの44%が自動化可能という。AIエージェントが数分で秘密保持契約書を作成したり、監査用の議事録を即座に要約できるようになった今、従来の収益モデルは崩壊の危機に瀕しているのだ。
米国法曹協会のガイドラインは、AIが作業を高速化しても、弁護士は実際に費やした時間しか請求できないと規定。さらに問題を複雑にしているのは、AI導入には多額の初期投資が必要な点だ。トムソン・ロイターの調査では、税務事務所の3分の1しか生成AI投資コストを顧客に直接転嫁できないと回答している。
対応策として、マッキンゼーやベイン、ボストン・コンサルティング・グループのような戦略コンサルティング会社が採用している「成果に連動した固定プロジェクト料金」への移行が考えられる。実際、アレン・アンド・オーバリーは2002年にAosphereというサブスクリプション型ビジネスを立ち上げ、1,200社の顧客にオンラインで法律アドバイスを提供。「タイムシートすら作成しない」と同社ウェブサイトで宣言している。
チャッダ氏が予言する「10年後の競争構図」は、既に静かに始まっているのかもしれない。AIファースト企業によるビジネスモデルの革新、また時間を売る時代から成果を売る時代への転換など、プロフェッショナルファームへの変革圧力は今後さらに高まっていくものと思われる。
文:細谷元(Livit)