INDEX

新世代のA(Action)面とB面(Business)に密着するインタビュー企画。第11回に登場するのは、さがらごうちさん。B面では、会社員とガジェット系YouTuberとしての活動を両立しながら、新たな取り組みにも挑戦するさがらごうちさんのクリエイターとしての価値観に迫ります。
- 【さがらごうち】
-
暮らしに役立つ便利グッズやガジェットの情報を発信するYouTubeチャンネル「さがらごうち」を運営。
東北大学工学部を卒業後、新卒で広告代理店に入社。その後、LINEヤフー株式会社を経て、現在はベンチャー企業でマーケティングを担当している。
YouTubeは新卒入社前から副業として始め、現在まで約7年間にわたり継続的にコンテンツを発信中。
- YouTube: https://www.youtube.com/@SagaraGouchi
- Instagram: https://www.instagram.com/sagara_gouchi/
- X: https://x.com/SagaraGouchi
- TikTok: https://www.tiktok.com/@sagara_gouchi
さがらごうちのA面はこちら
ブランディングに中身が伴っているものに惹かれる|さがらごうちのA面
「この人だから見る」。長く愛されるクリエイターになりたい
ーガジェット系の発信を始めた経緯を教えてください。
実は、現在のガジェット系コンテンツを始める前に、同じチャンネル内で約3年間エンタメ系の発信をしていました。ある時からガジェットに興味を持ち始め、一つ購入するだけで生活が変わるのが楽しくて、次第にハマっていったんです。
ちょうどその頃、ガジェット系のコンテンツを発信するクリエイターが伸び始めていて、「今ならまだ参入できる」と考えました。まずは、サブチャンネルで顔出しをせずに試験的に動画を投稿したところ、思いのほか反響があり、「これならいける」と確信しました。当時はメインチャンネルの登録者が約8万人いた中で、思い切ってジャンルを転換し、本格的に発信を始めました。
ーそれまでの視聴者層とは異なる人へのアプローチに大きく変わったと思いますが、登録者数にはどのような変動があったのでしょうか。
1年間で100本の動画を投稿する中で、視聴者層が大きく入れ替わりました。結果として5万人が登録解除し、新たに5万人が登録してくれたため、登録者数自体はほぼ変わりませんでした。

ー現在、アカウントを運営する上で最も大切にしていることは何ですか?
最も大切にしているのは、「長く愛されること」です。ただ、これは簡単なことではなく、まだ十分にできていないと感じています。
僕のチャンネルは、動画で紹介している商品を目当てに視聴してくださる方が多いため、「僕自身のファンがいるか」というとそうとも言えません。だからこそ、「この人が言っているから信頼できる」「この人の見せ方が好きだから見る」と思ってもらえるように、発信の仕方を工夫し、長く愛されるクリエイターを目指しています。
ー様々な年齢層の視聴者がいる中で、特にZ世代と言われる若年層に刺さっていると感じるコンテンツは何ですか?
カテゴリーとしては「一人暮らしで役立つ」というテーマが刺さりやすいと感じています。その中でも、掃除をしたくないというニーズを解消してくれるアイテムや、手軽に導入できて面倒くさくないガジェットは特に反響が大きいです。また、春には新生活向けのコンテンツを集中的に投稿するのですが、時期に合わせた発信も響きやすいと実感しています。
ニーズにこたえるコンテンツ作りが成長と新たな発見に
ーインフルエンサー活動を始めた当初に直面した最大の挑戦は何でしたか?
会社員との両立が可能かどうか、大きな壁に直面しました。YouTuberとして活動を始めて半年が経った頃、「本業と両立できるのか」という課題にぶつかり、試行錯誤を重ねました。
ーYouTubeの収益が会社の給料を上回っていたそうですが、それでも会社員を続けたのはなぜですか?
もともとリスクを負うのが苦手な性格ということもありますが、それ以上に会社員としての環境が非常に恵まれていると感じていたからです。
会社では、給与をもらいながら学べる環境があり、上司や同僚から多くを学ぶことができます。また、さまざまなスキルを持った人と関わることで刺激を受け、個人では経験できないことも多い。長期的に見て、自分にとってのリターンが大きいのは会社員としての経験だと考えています。
ー会社員とインフルエンサーの両立という挑戦を乗り越えた経験から、何を学びましたか?
「時間をかければ形になる」ということです。会社員とYouTuber、どちらの時間も疎かにせず取り組んだからこそ、今の時間があります。どちらか一方の時間を削っていたら、ここまでの成果は得られなかったと思います。仕事にも自分がやりたいことにもしっかり時間をかけて努力することで、最終的に成果につながると実感しました。
ーアカウントの方向性の転換もうまくいき、炎上もなく続けられていらっしゃいますが、これまでに失敗した経験はありますか?
2年ほど前、チャンネルの登録者が想定以上に伸び、1年で約2倍に増えた時期がありました。その成長に安心し、現状維持に満足して少し怠けてしまったんです。その結果、登録者数も再生数も伸びなくなってしまいました。視聴者には怠けていることが見透かされるんだと痛感しました。
ーそこから立て直すためにどんなことに取り組みましたか?
視聴者のニーズを事実ベースで分析し、求められているコンテンツ作りを徹底しました。
例えば、検索予測を活用し、視聴者はどのようなワードで動画を検索しているかを分析。その結果をもとにコンテンツを企画しました。また、動画ごとにターゲットを明確に設定し、一つ一つの動画の質を高めて最大限伸ばせるように努力しました。
その結果、登録者数や再生数も再び伸び始め、さらにこれまで挑戦していなかった分野でも新たな需要を見つけることができました。

フィードバックは真摯に受け止めて取り入れる
ー視聴者との繋がりを強化するために特に重要視していることは何ですか?
以前は視聴者とのコミュニケーションをあまり重視していなかったのですが、それが実は大事だと気が付きました。そこで、コミュニケーションの場を増やすために、YouTubeのコメントに一つ一つ返したり、Instagramでライブ配信を行ったりするようにしています。
ーファンのフィードバックをどのように取り入れていますか?
視聴者からのフィードバックは素直に受け止め、褒められた点は自分の強みとして生かし、指摘されたところは改善するように心がけています。
例えば、「声が低くて聞き取りやすい」というコメントをいただいたことをきっかけに、高品質なマイクに変えたり、部屋の音響環境を調整したり、より聞き取りやすい発音を意識するようになりました。また、反応が良くなかった動画は構成を根本から見直し、同じような内容は今後控えるなど、視聴者の意見を踏まえて改善を続けています。
ーエンゲージメントを高めるために行っている具体的な取り組みにはどのようなものがありますか?
最近は自虐を入れるなどして、人間味を感じてもらえるよう工夫しています。というのも、エンタメ系のコンテンツを投稿していた頃は、自虐に対するツッコミや賛否の反応が多く、エンゲージメントが高かったんです。
しかし、現在は「ロボットみたい」と言われることもあり、感情が伝わりにくく、コメントも少なくなってしまいました。そこで、商品や動画の内容だけでなく、自分自身にも関心を持ってもらえるような仕掛けを作るようにしています。
少しの背伸びが、ガジェット界隈の中での差別化に
ーコンテンツのネタを選ぶ際の基準は何ですか?
突飛なことをして、内容が受け入れられなかった場合のリスクが大きいため、まずは自分のチャンネルの属性や視聴者層、これまでのコンテンツとの一貫性があるかを最優先で考えます。
次に意識しているのが、世間でバズりそうかどうかです。というのも、ガジェットに興味関心がある人だけでなく、それ以外の層にも届くコンテンツを作りたいと思っています。その考え方が、ガジェット界隈での差別化にもつながっていると感じています。
そのため、時には自分のチャンネルよりも、幅広いユーザーから関心を得られそうなネタを選ぶこともあります。例えば、Xで「便利だって聞いて買ったんだけど、正解だった」という投稿に何万もの「いいね」がついているポストを見つけたら、ガジェットではなくてもコンテンツに取り入れることもあります。

ーコンテンツ制作のアイデアを得るためにどのような活動をしていますか?
電車に乗る際は、まとめ読みできるサービスを活用してガジェット系の雑誌を一通りチェックするのが習慣になっています。まずは、その中から自分の感性で便利そうなものやバズりそうなものをひたすら集めます。
次に、Xでバズっているものの要素を抽象化し、「時短ができるから」「色が可愛いから」など、バズりの要因を分析します。そして、自分が見つけた「バズりそうなアイテム」と、それらの要素を掛け合わせて、伸びる可能性のあるコンテンツを考えます。
コラボレーションにおけるポイントは「主観」と「発見」
ーコラボしたいブランドや企業はありますか?その理由も教えてください。
身の周りの小物にもこだわりがあるため、ガジェットに限らず、普段持ち歩くアイテムを手掛けるブランドやメーカーと協業の機会をいただけると嬉しいなと思います。
「こういうものがあったら便利だな」と思うアイテムを世に広めたいという思いが根底にありますが、自分一人の力では実現が難しい部分もあります。そのため、ブランドやメーカーと協力しながら、新たな商品を生み出していけたら、私としても非常にありがたいです。
ーコラボレーションを選ぶ際の基準は何ですか?
まずは、自分や視聴者の属性に合っているかを最優先に考えます。その上で、ガジェットに関心がない層にも広がる可能性があるかどうかを判断基準にしています。
ー過去のコラボレーションで特に成功したと感じるプロジェクトはありますか?その成功の秘訣は何だと思いますか?
直近では、スマートウォッチやWiFiルーターとのコラボが成功したと感じています。どちらもこれまで取り扱ったことがないジャンルで、さらにタイアップ案件だったため、自分にとっては大きな挑戦でした。その中で質を高められるよう、まだ市場にあまりない切り口でかつ、幅広い方が関心を持ちやすい「やさしく徹底解説」というテーマに決めて取り組みました。
その結果、満足度が高まり、おすすめ経由での視聴が増加しました。さらに検索からの流入も増え、徐々に再生数が伸びていきました。このコラボレーションを通じて、自分に求められている新しいジャンルが発見でき、2つの意味でうまくいったコラボレーションでした。
ー商品をPRする時に表現や伝え方で意識していることはありますか?
「主観」をしっかり入れるようにしています。
カタログにあるスペックを読み上げるだけなら、ホームページを見れば済む話です。多くの発信者がいる中で、「この人のコンテンツを見る意味がある」と感じてもらうためには、個性を出すことが重要だと考えています。そのポイントの一つが「主観」だと考えています。
また、「発見」も大切にしています。例えば、カタログに記載されている一般的な使い方だけでなく、別の活用方法を提案することで、新しい発見を得てもらいやすいようにしています。
自分の幸せを求めて、好きなものに関わり続ける
ー今後取り組みたいと考えている新しいプロジェクトにはどのようなものがありますか?
最近、工場とやり取りをしながら小物を作るプロジェクトを立ち上げました。今後は、これをさらに展開していきたいと考えています。
また、これからは個人としての発信の場も増やしていきたいです。これから競合が増え、若いSNSネイティブ世代がもっとうまい使い方をしていくことが予想されます。その中で、“さがらごうち”というキャラクターを確立し、より幅広く活動できたら理想的です。

ーその先で最終的に目指すこととか、ゴールってどんなふうにイメージされていますか?
僕の最終的な目標は、「好きなものに影響力を持って関わり続けること」です。
その時々で自分が惹かれるものに携わり続け、自分の存在がその分野で価値を生み出せる状態であり続けることが、僕にとっての幸せだと考えています。これからも、それを実現するために新しいスキルや経験を磨き続けたいです。
さがらごうちさんは自らのゴールを見据えて、好きなものを追求し続けているクリエイターだ。時代が移り変わる中で、時流やニーズをきちんと捉え、その時々に必要な取り組みをしている。これから「さがらごうち」という一人のクリエイターとして、価値をさらに磨いていくのだろう。
文:安藤 ショウカ
写真:小笠原 大介