「陸上で最大の生物種の宝庫」と表されることもある、森林。日本では国土の3分の2を占める森林が多くの命を支えていることは、言うまでもないだろう。

森林が担う働きは、土壌を支えて栄養を蓄え、野生動物の住処となり、大気のバランスを整えるなど、多岐にわたる。植物が一次生産者となり、そこに生息する多様な動物や微生物が生物群集を構成し、周囲の無機的環境と作用し合い物質・エネルギーを循環させる「森林生態系」というシステムが成り立っているのだ(※)

一方で、街路樹や公園の木のように、独立して立っている木もある。こうした森林の「外」にある木々は、森林より小さい範囲ながらも同じように一次生産者として周りの環境を支えている。しかしこれらの木々は、森林に比べてデータに残ることが少なかったという。

このことに注目したイギリス政府の森林調査機関は、2025年4月5日に「森林外の樹木マップ(Trees Outside Woodland Map:TOW Map)」を公開した。国内初となるこの地図は、衛星画像と飛行機に搭載したレーザーを活用した新たな手法によって作成。内容は定期的に自動で更新されていく。

この地図により、データを元に「どこに植えれば森林の生態系を効果的に広げることができるか」が分かりやすくなり、野生動物の生息地を増やしていけることが期待されている。自然保護団体や、地方自治体が主に想定される利用者とのことだ。

地図の作成は、環境・食糧・農村地域省の自然資本・生態系評価プログラムの資金提供によって実現した。政府が掲げる「2050年までにイングランドの森林の樹冠面積を国土総面積の16.5%に増やす」と言う目標を後押しするものとされている。

日本でも林野庁が森林データのオープンソース化を進めているが、現時点では森林が対象でありTow Mapのような体系的な地図は見られない。一方で、自然の仕組みに沿って土地を理解する動きは高まっている。例えば登山アプリ・YAMAPを手掛ける株式会社ヤマップは2024年に「流域地図」を公開。自分が暮らす地域の源流を辿ることで、都道府県や市町村ではない分け方や繋がりが見えてくるだろう。

理解すること。そこから始まるのは、人と野生動物の平和的な共存の模索でもある。かつて広大であった森林や草原が道路や開発によって分断され、住処の減少や車との衝突事故が起きてきた背景があるからだ。

だからこそ、こうして身近な自然が築く支え合いのネットワークを理解することは、人と野生動物の平和的な共存の模索でもある。Tow Mapは、野生動物の生息地を守り、豊かになるよう生態系を繋ぎ直していく青写真となるだろう。

※ 森林生態学研究室|東京農業大学

【参照サイト】England’s non-woodland trees freely mapped for first time|UK Government
【参照サイト】Trees Outside Woodland Map|Forest Research
【参照サイト】森林と生物多様性|林野庁
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(元記事はこちら)IDEAS FOR GOOD:小さな並木や孤樹を、地図で見える化。効果的な植樹のヒントに