帝国データバンクは、全国2万6,815社を対象に「2025年度の雇用動向(採用)」に関するアンケート調査を実施した。同調査によると、「正社員の採用予定がある」と回答した企業は58.8%となり、新型コロナウイルスの影響が大きかった2021年度(55.3%)以来、4年ぶりに6割を下回った。

2025年度の正社員採用予定、4年ぶりに6割を下回る

2025年度(2025年4月~2026年3月入社)の正社員採用予定について、「採用予定がある」と回答した企業は58.8%となり、前年から2.7ポイント減少した。これは、新型コロナの影響が大きかった2021年度(55.3%)以来、4年ぶりに6割を下回る水準となる。

正社員採用予定について

企業規模別にみると、「大企業」の正社員採用予定割合は83.6%であったが、「中小企業」は54.4%、「小規模企業」は35.9%と、規模が小さいほど採用予定割合が低い傾向が見られた。業界別では、「運輸・倉庫」が66.2%で最も高く、特に「2024年問題」に直面している運送業で人材確保の動きが活発であることが分かった。

【企業規模別】正社員採用予定割合

一方、「採用予定がない」と回答した企業は28.5%で、前年から1.5ポイント増加した。企業からは、「賃上げの流れが加速するなか、売り上げが思うように上がらないため、なかなか賃上げができず、新しい人材を入れたくても入れられない状況」(機械製造、小規模企業)、「人が欲しいが、雇えるほどの資金余力はない。週2~3日のパートさんを雇いたいと思うが、採用体制を整える余裕もない」(その他サービス、小規模企業)などの声が寄せられたとのことだ。

新卒採用と中途採用の動向

採用形態別にみると、「新卒新入社員」の採用予定は37.1%、「中途社員」の採用予定は51.0%であった。特に「中小企業」では、新卒採用が30.8%であったのに対し、中途採用は47.0%と大幅に上回った。企業からは、「新卒新入社員を教育する余裕がないため、スキルをもった中途社員を採用したい」(ソフト受託開発、小規模企業)といった声が聞かれたという。また、「賃金が低い零細企業に新卒希望がある訳がない。人手不足のなか、余力のある大企業が人材獲得競争を勝ち抜いているのが現状」(輸送用機械・器具製造、小規模企業)といった課題も指摘された。

【採用形態別】正社員採用予定割合

非正社員の採用予定も減少傾向

2025年度の非正社員の採用予定については、「採用予定がある」との回答が41.7%で、前年から4.2ポイント低下した。一方、「採用予定はない」と回答した企業は42.5%となり、2年連続で4割を超えた。

非正社員の採用予定について

企業からは、「経費削減のため正社員をパート社員に変更」(自動車部品小売、小規模企業)、「日本人のアルバイトやパートの採用を増やしたいが、応募が集まらないため、外国人留学生などのアルバイトを採用する予定」(専門商品小売、中小企業)といった意見が見られたという。また、「ここ最近の最低賃金の上昇により、業務内容と非正社員の賃金とのつり合いが取れなくなってきた。非正社員の雇用継続について極めて厳しい判断を迫られる可能性が出てきた」(運輸・倉庫、中小企業)など、人件費高騰を理由に非正社員の採用を控える企業も増えている。

企業からの声

・物価上昇と賃金上昇の本格化で採用は難しくなっていくと考える(広告関連・小規模企業)
・従来から非正社員の採用はしておらず、正社員を長期に勤務してもらうことを目指している(電気機械製造・中小企業)
・基本的に中途採用を即戦力として採用。新卒も採用予定はあるが、教育を整備しても定着が厳しく、経費がかかってしまう(繊維・繊維製品・服飾品卸売・大企業)
・求職者は多いようだが、Wワークやアルバイト希望などが多く、自分のライフスタイルに合った働き方を探している方が多い(メンテナンス・警備・検査、中小企業)
・募集しても応募がない。大企業は資金力があるから賃上げし、採用も順調とみられるが、零細企業は売り上げが減少する現状で同様のことはできない(専門商品小売・中小企業)
・増員は考慮しているが、景気動向への不安、売り上げの伸び悩みのため採用は保留としている(化学品卸売・中小企業)
・人手が不足しているため採用したいが、人件費の高騰分を売り上げで賄えないので、当面採用の見込みはない(飲食料品・飼料製造・中小企業)
・採用が希望通りいかないため、商品の製造品目を絞っていく予定(飲食料品・飼料製造、小規模企業)
・最低賃金の上昇や年収の壁の見直しを含め労働者には良い条件になるが、中小企業経営は苦しくなってくる。国の助成が必要(繊維・繊維製品・服飾品小売・小規模企業)
・正社員を募集するより現社員の人件費を引き上げて稼働率を上げた方が良い(機械・器具卸売・中小企業)
・デジタル化により少人数で回せるようになったため採用はしない(金融・小規模企業) 

まとめ

本調査では、2025年度の正社員採用予定が58.8%と、新型コロナの影響が大きかった2021年度以来、4年ぶりに6割を下回る結果となった。特に中小企業では、賃上げの流れによる人件費の増加に対応できず、採用意欲があるにもかかわらず求人を控えざるを得ない状況が浮き彫りとなった。また、非正社員の採用予定も前年から低下し、最低賃金の上昇が企業の採用活動に影響を及ぼしている。

少子高齢化が進む中、大企業では初任給引き上げによる人材確保が進む一方で、労働人口の7割を占める中小企業では人材確保がますます困難になることが予想されるとしている。