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AIコーディングアシスタント「Cursor(カーソル)」を開発するAnysphereが約1億ドルの資金調達を実施し、評価額が26億ドルに達したことが明らかになった。これは、わずか4カ月前の4億ドルから、6.5倍という急激な評価額の上昇だ。Cursorは、OpenAI、Midjourney、Shopifyなど著名企業も採用する人気ツールで、収益も急成長を遂げている。
開発者向けAIアシスタント市場では、マイクロソフトのGitHub Copilotも無料版をリリースするなど、多くのプレイヤーが競争を繰り広げているが、そのなかでも一際注目を集めているCursorの強み・特徴を分析しつつ、急成長の背景を探ってみたい。
盛り上がるAIコーディングツールの市場で注目される「Cursor」
AIコーディングツールの市場の成長は著しく、米国のマーケット調査会社Polaris Researchによると、2032年までに271億7,000万ドルの規模に達すると予想されており、GitHubによる最新の開発者アンケートでは、回答者の大多数が何らかの形でAIツールを導入していると答えている。
中でも人気のCursorを開発するAnysphereは、マサチューセッツ工科大学の学生だったマイケル・トルーエル氏らが2022年に設立したスタートアップだ。同社は、OpenAIのアクセラレータープログラムを経て急成長を遂げ、40,000社を超える顧客を抱える企業へと成長した。
2024年4月時点で年間400万ドルだった収益は、10月には月間400万ドル(年換算4,800万ドル)にまで拡大。昨年11月には、AIコーディングアシスタント「Supermaven」を非公開の金額で買収し、さらなる躍進を目指している。
Cursorの強みはそのシンプルさ
Cursorが目指しているのは、複雑なプログラミングをよりシンプルかつ効率的に実現可能にすることだ。
主な特徴は、簡潔な指示を解釈して実用的なコードスニペット(プログラミング言語の中で切り貼りして再利用できるコード)などに変換し、外部から見た時の挙動は変えずに、理解や修正がしやすいようにプログラムの内部構造を整理する「コードリファクタリング」を数秒で実行する機能だ。
すでに使用しているツールやフレームワークとも簡単に統合できるようになっており、この互換性により、既存のワークフローに大きな変更を加えることなく、AIツールの導入ができることもメリットだ。
料金体系もシンプルで、2週間の無料トライアル後、プロプランが月額20ドル、ビジネスプランが月額40ドルとなっている。
「Tab」キー連打でコーディング
シンプルさを強調するCursorの謳い文句は、「Tab」キーの連打でコーディングできる、というものだ。コードを入力すると、AIが続きのコードを提案し、「Tab」キーをクリックしていくことで、次々とAIによって瞬時に生成されるコードが後に続いていく。
OpenAIの共同設立者であり、テスラのAIディレクターとしても知られるアンドレイ・カーパシー氏はX(旧Twitter)で「Future be like tab tab tab」とツイートし、「コーディングの未来はタブ連打」と、Cursorの使用感を伝えた。
Cursorで使用するAIは、初期から利用されていたGPT-4/GPT-4oに加え、現在は、コーディングが高速で正確であると評判のClaude 3.5 Sonnet LLMも任意で選択可能だ。
汎用性の高さと高速なコード補完のCodeium
AIコーディングアシスタントの中では、昨年の資金調達で1億5,000万ドルを調達し、評価額が12億5,000万ドルに達したユニコーン企業、Codeiumも注目株だ。
コード関連タスクに最適化された独自開発の大規模言語モデル (LLM) を活用したCodeiumのプラットフォームは、高速なコード提案やエラー検出、コードの自動最適化の提供をすることで、ソフトウェア開発の効率化を図ることができる。
Codeiumは汎用性の高さに強みがあり、70を超えるプログラミング言語をサポートしていることに加えて、40を超える統合開発環境 (IDE) とシームレスに統合することができる。
開発者を堅実にサポートするAugment
一方、2024年4月に2億2,700万ドルを調達、総調達額が2億5,200万ドルへと達し、ユニコーン企業まであと一歩の評価額9億7,700万ドルとなっているのが、同じくカリフォルニア発のAugmentだ 。
AugmentのAIコーディングアシスタントは、リアルタイムでの高度なエラー検出や修正案の提案、コード内の脆弱性を検出しセキュリティを強化、また大規模な開発者チームに向け、共同ワークフローを最適化するような機能も備えているなど、開発者を多方面からサポートする堅実なアプローチに定評がある。Slackなど外部チームワークコミュニケーションサービスとの連携も可能だ。
誰でも無料で利用可能、マイクロソフトのGitHub Copilot
そして、コーディングAI市場の盛り上がりを象徴すると言えるニュースが、GitHubアカウントさえあれば、サブスクリプションもクレジットカード登録も必要なく高機能のAIコーディングを利用可能な、マイクロソフトGitHub Copilotの無料提供開始だ。
GitHub Copilotは、ユーザー数が1億5,000万人を超える世界最大の開発者プラットフォームGitHub上で2021年にリリースされた人気ツールだが、この新しい無料プラン「GitHub Copilot Free」は、特定の機能へのアクセスが制限されているものの、1か月あたり2,000件のコード入力補完が可能となっている。
加えて、1カ月あたり50件のチャットリクエストと、GPT-4oとClaude3.5Sonnetモデル両方へのアクセスも可能と、充実したサービス内容だ。
AIコーディングによる新たな課題や負担も
もっとも、他の分野でのAIツールと同じように、AIコーディングへの現場からの評価はいまだ厳しいものだ。
サンフランシスコのAI企業Harnessから発表された 500人のソフトウェアエンジニアを対象とした調査によると、95%以上がAIツールがエンジニアの燃え尽き症候群を軽減できると好意的に受けとめている一方で、半数以上 (59%) がAI生成コードがエラーを引き起こしていること、また回答者の92%が、AIツールによってデバッグが必要なコードが影響を及ぼす範囲が拡大していると回答した。
また、3分の2以上の回答者が、AI生成コードのデバッグやAI関連のセキュリティ脆弱性の解決に人間が多くの時間を費やしていると指摘した。
これは、開発者が自身のコードのデバッグより時間がかかるとされる「自分が作成に関与していないコードのデバッグ」に時間をとられているためではないかと指摘されており、AIツールの導入が効率化をもたらす一方で、新たな課題や負担を開発者に課している現状が浮き彫りになっている。
文:大津陽子
編集:岡徳之(Livit)