日々進展する技術やサービス開発により、総務省が令和4年に発行した経済白書では、メタバースの世界市場が「2030年に123兆9,738億円まで拡大する」と予想されている。メディアやエンターテインメントに加え、教育や小売りなどさまざまな領域でも活躍の幅が広がる兆しがある。

日本のメタバース市場に目を向けると、2022年時点で既に1,825億円規模に達しており、2026年度には1兆42億円規模まで成長すると予測されている。

このようにメタバースの認知度は着実に拡大している一方で、正しく理解されていない側面も課題として指摘されている。そこで今回は、メタバース新規参入支援などに取り組む株式会社Vの代表取締役・藤原光汰氏に、本市場のビジネス領域における可能性ついて話を伺った。

【プロフィール】
株式会社V 代表取締役兼CEO 藤原光汰(ふじわら こうた)氏
AIレシピ提案アプリを開発するスタートアップを共同創業。その後、株式会社バンクに入社。即時買取アプリ「CASH」と後払い旅行サービス「TRAVEL Now」の立ち上げを担当したのち独立。2019年に株式会社Vを創業後、複数のコンシューマー向けサービスを開発。人気ゲームタイトル含むVRChat、Robloxで国内最大ユーザー数のコミュニティを運営。

企業がやりたいことをメタバース市場で行うために。大切なのはどのプラットフォームを軸にするか

まず、メタバースとは何なのかについて藤原氏の考えを聞いた。

「“メタバース”という言葉がバズワードになる前から、私の仮説は変わっていません。この市場は、10年以上前から続くソーシャルゲームやMMO(多人数同時参加型オンライン)の市場がリプレイスされたものです。デバイスの進化や、ゲームが一定規模のユーザーを獲得していく中で、SNS的な機能を持つようになり、それが“メタバース”と呼ばれるようになったと考えています。
ゲームをきっかけにオフラインでも社会現象が起こったり、ゲームのアバターやアイテムへの課金も以前から行われていました。ここ3年ほどで、その巨大市場の一部が顕在化してきたのです」

株式会社V 代表取締役兼CEO 藤原光汰

メタバースが広く認知される前から、一貫した仮説を持っていた藤原氏。では、彼がメタバース新規参入支援や、メタバースプラットフォーム特化のカルチャー系メディア『メタカル最前線』を展開するに至るまで、どのような道のりを歩んできたのか。藤原氏は、株式会社Vを創業した経緯を次のように語る。

「元々はファッション領域で事業を展開するスタートアップとして創業していました。しかし、2020年のコロナ禍を機に事業転換を余儀なくされました。そこで、ゲームコミュニティ周辺の領域に注目し、事業を展開していくことにしました。この世界に“住んでいる”という感覚に自分自身もどっぷりハマり、大きな可能性を感じたのです。現在は、ゲームUGC(ユーザー生成コンテンツ)や仮想コミュニティ領域にフォーカスし、メタバース市場で事業を展開しています」

メタバースがバズワードになる前に創業したこともあり、当時はさまざまな課題に直面した。その中でも特に「どのプラットフォームを軸に事業展開をするか」という点は、データが少なかった時期だからこそ、頭を悩ませた部分だという。

「この課題を乗り越えるために、世界中のほぼすべてのプラットフォームを実際に試しました。その結果、どこよりも詳しく理解している自信があります」

こうした試行錯誤の末に、藤原氏が気づいたのは、当たり前ながらも非常に重要なポイントだっだ。それは、「そもそもユーザーが集まるプラットフォームでなければ、企業がどんなに優れた施策を打ち出してもやりたいことは何も出来ない」ということだ。

「2025年時点で、それが可能なのはVRChat、ZEPETO、Roblox、Fortniteの4プラットフォームに絞られてきます」

人が集まるプラットフォームでの実例。2025年はメタバースとリアルが絡み合うと予想

株式会社Vはこれまで多くの案件を手掛けてきた。例えば、株式会社大丸松坂屋百貨店との施策では、オリジナル VRChat用ワールドの制作・ディレクションを担当し、アバターの展示を目的としたワールドや和室スタイルのワールドを制作。それぞれのワールドを活用し、ファンとの交流イベントやファッションショーの企画・ディレクションも手掛けている。

また、著名VTuberとのコラボレーションにも積極的に取り組んでいる。例えばFortniteでは、登録者数50万人超えのゲーム配信 VTuber・猫宮ひなたとのコラボレーションを実現している。

株式会社Vは、人が集まるプラットフォームで積極的にメタバース事業を展開している。その中でも特に強みを発揮しているのは「事業の戦略策定・企画部分」の領域だそうだ。

「メタバース領域において、企業ごとに最適な施策を考えられる会社は、日本でほとんど存在しないでしょう。弊社は、賞を受賞するほどの制作力を持ち、主要のプラットフォームである『VRChat』『Roblox』において国内最大規模のコミュニティを運営しています。しかし、それ以上に重要なのは、どんな企業の課題にも寄り添い、一緒に考えられるところが一番求められているところなのではないかと考えています」

また、株式会社Vが運営する『メタカル最前線』は月間30万PVを誇る。業界内でもトップレベルのスピードで情報を取り入れる体制が整っているため、クライアントに対して最適な施策を提案できるのも強みの一つだ。

「私が重視していることは、“みんなが求める実例をつくること”です。2024年は、メタバースに人が集まらず失敗する事例が目立ちましたが、弊社はメタバース上でのトラクションやソーシャル上でのムーブメントを、再現性を持って生み出すことができるようになりました。そのうえで、2025年は『メタバース×リアルの実例』と『メタバース×リアル物販』の年になると見ています。私たちが先駆者として実例を生み出すことで、業界全体でも成功事例を増やしていきたいと考えています」

メタバース空間で生活し、実体験に基づいた肌感覚を持つメンバーが多く在籍していることも、株式会社Vの大きな強みになっている。メタバースを“生活者起点”で捉える独自の哲学に基づいて、2025年の飛躍にも繋がっていきそうだ。

SNSで過ごす人の増加。企業はメタバースに生きる人たちとの接点構築を目指せ

ここまでメタバース領域の実例を紹介してきたが、ビジネス活用のメリットについて改めて藤原氏に話を聞いた。

「どの業界の企業にも共通することですが、“人の移動についていく”ことができるかどうかが重要だという点です。インターネットの普及によって、オンラインで過ごす人が増え、ソーシャルサービスの普及により、SNSでの滞在時間も増加しました。その一方で、オフラインで過ごす時間や人の数が確実に減っています。そして今、本格的に“メタバースで生活する”人たちが増えている。メタバースでの顧客接点を構築しなければ、将来的な利益は何も生まれないため、多くの企業がメタバースに移行した人々との接点を持つべきだと考えています」

しかし、メタバースの失敗事例もあるため、メリットだけに目を向けるわけにはいかない。藤原氏は、メタバース市場における短期的・長期的な課題について次のように指摘する。

「短期的な課題は、やはり圧倒的な市場への理解不足です。上手くいかなかった企業の多くは、メタバースに関する十分な情報を得られず、手探りの状態で進めてしまったケースが目立ちます。

長期的な課題は、かつてのOMO(=Online Merges with Office)のように、メタバースとオフラインを相互接続するような仕組みの確立です。メタバース上での広がりや可能性はすでに証明されていますが、まだまだ開拓できる領域が多いと感じています」

短期的な課題を解決するには、『ユーザーとして、ちゃんと使ってみること』『プラットフォームの利用状況を調査すること』がカギになるという。藤原氏は「これまでの経験から、株式会社Vなら調査から提案まで一貫して対応できる」と自信を示した。

メタバースを支えているのは、クリエイターたち。経済的な仕組みも含めアップデートを

最後に、株式会社Vの今後の挑戦と展望について、藤原氏に話を聞いた。

「メタバースの世界で暮らす人々の生活をより豊かにし、この世界で過ごす時間が増えるような取り組みを進めていきたいと考えています。メタバースは、多くの個人クリエイターによって支えられている部分が多くあります。そういったクリエイターがより活動しやすくなる経済的な仕組みも整え、メタバースに大きなインパクトを与える取り組みを進めたいです。

弊社のミッションは『人類の新しいフロンティアを開拓する』ことです。人類は新しいフロンティアを開拓することで進化を続けてきました。地球上が開拓されきった今、残されたフロンティアは宇宙と仮想空間くらいだと考えています。

インターネットサービスを作り続けてきた立場として、メタバースで実現したいこと、1人のユーザーとして見たい景色が明確にあります。その一部を2025年に形にしたいと思います」

2025年が始まったばかりの今、オンライン上でのつながりはますます深まり、メタバースへの興味関心や認知度も高まっていくことだろう。藤原氏が予測するように、リアルの実例や物販との融合が進み、この市場はさらなる成長を遂げるはずだ。今後どのような未来が広がるのか、期待は高まるばかりだ。2030年に世界市場123兆9,738億円に到達するとされるメタバース業界に向け株式会社Vの活躍に注目したい。