そこで、帝国データバンクは、2025年度の賃金動向に関する企業の意識について調査を「TDB景気動向調査2025年1月調査」とともに実施し、結果を公表した。

■2025年度、61.9%の企業が賃金改善を見込む、初の6割台。ベースアップは過去最高を記録

2025年度の企業の賃金動向について尋ねたところ、正社員の賃金改善(ベースアップや賞与、一時金の引き上げ)が「ある」と見込む企業は61.9%となった。4年連続で前の年を上回り、同社が調査を開始して以降で初めて6割を超えに。

一方で、「ない」とする企業は13.3%と調査を開始して以降で最も低く、前回調査(13.9%)から0.6ポイント低下して過去最低を更新。

2025年度の企業の賃金動向

賃金改善の状況について企業規模別にみると、「大企業」「中小企業」「小規模企業」の3規模すべてにおいて、前回調査の2024年度見込みから賃金改善の割合が上昇。

また、従業員数別にみると、「6~20人」「21~50人」「51~100人」「101~300人」で6割を超えた。「5人以下」(43.2%)では4割台ながら2024年度見込みから増加したが、「1,000人超」(52.3%)は1.8ポイント減少となっている。

また、100人以下の企業では賃金改善を実施しない企業の割合がいずれも昨年より減少しており、従業員数が21人以上の企業では、賃金改善がない企業はいずれも1割未満にとどまった。

他方、賃金改善を実施しない割合は従業員数が「5人以下」(30.2%)の企業で突出して高く、従業員数が5人以下では賃金改善を行う環境がいっそう厳しくなっている様子がうかがえる。

賃金改善の状況について(企業規模別)

業界別にみると、「製造」(67.3%)が最も高く、「建設」(66.0%)、「農・林・水産」(65.3%)、「運輸・倉庫」(65.0%)が続く。最低賃金の引き上げに対応するほか、2024年問題に直面したトラック運送業界や建設業界などでは、賃金改善を実施する企業の割合が昨年より高まった。

賃金改善の状況について(業界別)

賃金改善の具体的な内容についてみると、「ベースアップ」が56.1%(前年比2.5ポイント増)、「賞与(一時金)」が27.4%(同0.3ポイント減)となっている。「ベースアップ」は過去最高となった前年の53.6%を上回り、4年連続でこの質問を開始した2007年以来最高を更新。

賃金改善の具体的な内容

■賃金改善の理由、「労働力の定着・確保」が74.9%でトップ、「同業他社の賃金動向」が初の3割台

2025年度に賃金改善が「ある」企業にその理由を尋ねたところ、人手不足などによる「労働力の定着・確保」が74.9%(複数回答、以下同)と最も高くなった。

次いで、「従業員の生活を支えるため」は62.5%。2年連続で低下したものの、依然として6割を超える水準となっている。

さらに、飲食料品などの生活必需品の値上げが響いている「物価動向」(54.4%)は前回より2.8ポイント増加し、3年連続で半数を超える企業が理由としてあげた。

また、「採用力の強化」(37.5%)が4番目にあげられたほか、「同業他社の賃金動向」(30.3%)は前年より5.0ポイント増加し調査開始以降で初めて3割台という結果に。

2025年度に賃金改善がを行う理由

■賃金を改善しない理由、「自社の業績低迷」が58.2%でトップ

賃金改善が「ない」企業にその理由を尋ねたところ、「自社の業績低迷」が58.2%(複数回答、以下同)で最も高くなった。また、「物価動向」(22.7%)は2023年度(20.2%)を上回り過去最高を更新するなど、物価上昇が賃金改善を行えない状況をもたらした様子もうかがえる。

以下、「同業他社の賃金動向」(12.7%)、新規採用増や定年延長にともなう人件費・労務費の増加などの「人的投資の増強」(11.5%)、「内部留保の増強」(11.1%)が続いく。

2025年度に賃金改善がを行わない理由

■総人件費は平均4.50%増加見込み、中小企業の従業員給与は平均4.48%増と試算

2025年度の自社の総人件費が2024年度と比較してどの程度変動すると見込むかを尋ねたところ、「増加」を見込んでいる企業は73.6%(前年比1.5ポイント増)と、この質問を取り始めた2016年度以降で最高となった。

一方、「減少」すると見込む企業は4.8%(同0.5ポイント減)と3年連続で過去最低を更新。その結果、総人件費は前年度から平均4.50%増加すると見込まれる(大企業が平均4.65%増、中小企業が平均4.47%増)。

従業員の給与は、総人件費の伸び率と同程度の平均4.50%と試算(それぞれ平均4.65%、平均4.48%)、賞与は平均4.44%(それぞれ平均4.63%、平均4.43%)、さらに各種手当などを含む福利厚生費も平均4.46%増加(それぞれ平均4.65%、平均4.44%)と試算される。

また、大企業において、総人件費の増加率が5%以上とした企業は27.3%(前年比3.0ポイント増)、中小企業でも総人件費の増加幅が5%以上の企業は29.5%(同1.6ポイント増)となった。

2025年度の自社の総人件費は2024年度と比較してどの程度変動すると見込むか

■賃上げに関する全般的意見(一部抜粋)

最低賃金は上がる一方で物価も上がり、従業員の生活を考えると賃金を上げなくてはならないと思う。ただ、材料費や燃料費の高騰により利益が出ないなかで、賃金だけ上がっていくのが正直な悩みである。(舗装工事)

売り上げ減少のなか、賃金を上げていくのは大変だ。ただ、物価との競争なので賃上げを考えざるを得ない。(包装用品卸売)

さらなるベースアップを実施したいと考えているが、実施できるかは電力費等や副資材の高騰分を適正に転嫁できるかにかかっている。(各種機械・同部分品製造修理)

高校生の新卒採用が非常に厳しくなっている。今後、初任給を上げても入社希望者が増えないと考えられる。しかし、今後を見据えて募集金額は若干上昇する。(金属プレス製品製造)

賃金動向については、今年の景気動向を見ながら考える。土木建築サービス

<参考>
帝国データバンク『2025年度の賃金動向に関する企業の意識調査