業務用通信カラオケ「DAM」の提供やカラオケルーム「ビッグエコー」を運営するカラオケ業界大手の「株式会社第一興商」は現在、全社を上げて新たな事業に取り組んでいる。それが「ザ・パーク」という名称で全国展開しているパーキングビジネスだ。2016年に全国展開をスタートし、8年が経過した今では、約3,000社がひしめくコインパーキング業界において、業界8位の地位を築いている。

なぜ、コインパーキング事業なのか?一見、カラオケとの共通点がないように思えるが、実は深い親和性があるという。同社は、カラオケ業界のリーディングカンパニーとして確固たる地位を築いてきた。その経験を活かし、他にはないアプローチでコインパーキング事業を拡大している。その秘密とは一体何なのだろうか。

今回、株式会社第一興商 営業統括本部 パーキング事業部部長の鹿島竜也(かしま たつや)氏に、コインパーキングビジネスにおける成功の核心や可能性、ドミナント戦略の展望、今後の未来像などについて話を伺った。

カラオケとコインパーキングを結びつけた
共通項は「コインビジネス」

株式会社第一興商 営業統括本部 パーキング事業部部長の鹿島竜也氏

──パーキング事業とカラオケ事業に共通する親和性とは何でしょうか。

共通点は、「繁華街の不動産業者との信頼関係」と「コインビジネス」にあります。通信カラオケ機器をスナックやバーなどに導⼊する際、営業先は各店舗だけでなく、ソシアルビルの管理者(不動産業者)にも及びます。ビル全体のテナントに「DAM」を導⼊するアプローチを通じて、不動産業者との信頼関係を構築してきました。

さらに、不動産業者の紹介で⼟地所有者ともつながりが⽣まれます。こうしたネットワークを活用し、パーキング事業の基盤を築いています。

──パーキング事業を始めたきっかけと経緯について教えてください。

当社のカラオケ事業の歴史を簡単に振り返ると、業務用カラオケ事業を開始したのは1976(昭和51)年。当時は「8トラックテープ」、通称8トラ(ハチトラ)と呼ばれるカートリッジ式磁気テープでカラオケ曲を提供していました。

1994(平成6)年には、現在も使用されている業務用通信カラオケシステム「DAM」の販売を開始しました。

現在、カラオケの賃貸料はほとんどが定額制ですが、8トラックテープやCD、レーザーディスクが主流だった時代は「コインビジネス」の形態でした。バーやスナックに機器を設置し、1曲200円で利用できるコインボックス方式を採用していました。お客様が曲ごとに料金を支払い、コインボックスに直接入金する仕組みです。カラオケ導入はお店の売上に大きく貢献し、カラオケだけで月40万円以上の売上を上げるケースもありました。

一方、コインパーキングは無人で運営できるストックビジネス(継続的に収益を得られるビジネスモデル)です。カラオケのコインビジネスと同様、定期的に集金業務が発生するという点で高い親和性を持っています。

こうした背景から、弊社は1999(平成11)年に、国内販売子会社の1つである常磐第一興商(茨城県水戸市)を通じて最初にコインパーキング事業を開始しました。その後、2004(平成11)年に湘南第一興商(神奈川県小田原市)と兵庫第一興商(兵庫県神戸市)にも事業を展開し、2016(平成28)年には、当社グループ全体でコインパーキング事業をスタートしています。

──パーキング事業を拡大していくうえで、苦労された点を教えてください。

無人運営であれば人件費がかからないと考えてスタートしましたが、現実は甘くありませんでした。大きな課題は、故障などによる「トラブル対応」と「他社との差別化」です。

まず、コインパーキングでは、「精算機から領収書が出てこない」「お札が詰まった」「ロック板が下がらない」などのトラブルが頻発します。これらの問題に対応する1次警備(電話対応・現場急行)は当社スタッフや警備会社が担当しますが、部品交換が必要な場合は機器メーカーに依頼する2次警備が必要となります。

しかし、機器メーカーの営業拠点がない地域では、すぐに対応できないため、その地域で対応可能な別の保守管理会社を探すのに苦労しました。

また、コインパーキングは業態として差別化が難しい点も課題です。この解決策として、精算機メーカーの統一を進めています。これにより、精算機に新たな機能を搭載しサービスの利便性を向上させる計画です。今年7月には、新紙幣への対応をいち早く実施し、顧客満足度を高める取り組みを行いました。

カラオケ事業で構築した全国に広がる営業網
不動産業者とのつながりが活かされたパーキング事業

──わずか8年で業界8位の市場規模にまで成長している要因、御社のコアコンピテンシーを教えてください。

当社の最大の強みは、業界上位企業を上回る営業拠点とネットワークを持っていることです。現在、弊社単体の支店・出張所が国内に49拠点あり、加えて国内販売子会社も24社あり、それぞれに支店を構えています。さらに、弊社の機器を取り扱う代理店(ディーラー)も加えて、3つの販売チャネルで全国のカラオケ施設をカバーしています。

コインパーキング業界で、全国展開している企業は数社のみです。しかし、弊社グループは全国各所に数多くの販売拠点を持っており、この広範なネットワークをパーキング事業にも活用することで、シェア拡大を目指しています。

また、当社の「ザ・パーク」は⼟地所有者にとって負担が少なく、安定した収入を提供する仕組みを備えている点も強みです。⼟地を⼀括でお預かりし、施⼯から運⽤管理までを一元的に対応することで、土地所有者には手間をかけさせません。

さらに、5坪程度の小さな⼟地でも、1台分の駐⾞スペースとして運営可能なため、用途が限られる狭⼩物件を有効活⽤できます。毎⽉⼀定の賃料をお⽀払いすることで、⼟地所有者は⻑期間にわたり安定した賃料収⼊をお約束しています。

──カラオケ事業で培ってきたノウハウや信頼、コネクションなどは具体的にどのように活用されているのでしょうか?

当社がこれまで構築してきた不動産業界とのネットワークを最大限に活用できる点が大きな強みになっていますが、具体的に説明するために、まず業界の「しくみ」をお話しします。

私たちが特に強みを発揮しているのは、業務用カラオケ事業の中心地である繁華街や歓楽街です。たとえば、当社の通信カラオケシステム「DAM」をバーやスナックなどに導入する際、営業マンはその店舗が入居するソシアルビルの管理者、つまり不動産業者にもアプローチを行います。この際、店舗単位ではなく、ビル全体を対象に「ビル契約」を結ぶケースもあります。

繁華街の不動産業界には、大手不動産会社ではなく、地域に密着した中小・零細の不動産業者が圧倒的に多いという特徴があります。私たちは、こうした業者の方々との信頼関係を構築することで全国各地の都市や地域に細やかなネットワークを構築してきました。

不動産業者の方々との信頼関係が深まると、次に土地所有者の方を紹介していただけるようになります。特に繁華街では、比較的小さな土地を所有している方が多く、中には余っている土地の活用方法に困っている方も多くいます。

そこで弊社が「ザ・パーク」を活用した土地活用をご提案することで、パーキング用地として取得する流れが生まれます。実際、使途が限定される5坪ほどの狭小地や変わった形の土地でも駐車スペースとして有効活用できるのです。

──競合他社に比べたときの御社のアドバンテージを教えてください。

繁華街などの地元の不動産業者にとって、不動産業を主業とするコインパーキング事業者との取引は慎重になりがちです。理由として、将来的に本業の不動産業で競合するリスクを懸念されるためです。その点、弊社は不動産業を本業としていないため、安心してお付き合いいただけるという利点があります。

さらに、これまでの運営ノウハウを生かし、土地所有者にできるだけ高い賃料をお支払いできるよう、オープン後の運営に力を注いでいます。具体的には、運営努力によって売上向上を図り、その成果を高い賃料として還元する仕組みです。

コインパーキングのドミナント戦略の肝は
半径200メートルごとの出店とM&Aでのグループ化

──「ドミナント戦略」は、戦国時代の国盗り合戦にたとえられますが、御社のドミナント戦略が成功している要因について教えてください

ドミナント戦略は、コンビニや飲食店、ドラッグストアなどのチェーン店で一般的に使われる経営手法です。特定のエリアに集中して出店し、そのエリアの市場占有率を高めて優位に立つものですが、当社の戦略には次の2つの柱があります。

1つ目は先ほどお話しした、繁華街での強みを活かした出店です。当社は、地場の不動産業者とのネットワークを活用し、半径200メートルを基準とした「ザ・パーク」の出店戦略を展開していきます。コインパーキングの商圏は大体200メートル程度と言われ、目的地まで歩いて行ける範囲が基準です。この距離内に複数の施設を集中出店することで、駐車料金の「プライスコントロール」が可能になります。

たとえば、駐車料金を地域の相場より下げることで、競合他社を撤退させ、そのエリアのシェアを独占することができます。

もう1つの柱は、地方のコインパーキング事業者をM&Aでグループ化し、地方の地域ごとに「強い仲間」を増やしていくことです。直近では、東京・大阪・名古屋を中心に事業を展開するクレスト社や、沖縄を地盤とするおきなわブレイク社を統合しました。この統合により、760施設、約6,100車室を追加することができました。

現在、大小合わせて約3,000社が競争を繰り広げるコインパーキング業界は、「群雄割拠」の様相を呈しています。今後、M&Aを通じた業界再編が大きなテーマとなることが予想されるため、弊社では現在を重要なターニングポイントの時期だと捉えています。

自動運転車とカーシェアリングが当たり前になる未来でこそ
パーキング事業の真の価値が発揮される

──今後の目標についてお聞かせください。

まずは、さらなるお客様の利便性向上に取り組むことが最優先です。具体的には、2023(令和5)年10月からスタートしたインボイス制度に対応し、駐車場の精算機から適格簡易請求書(インボイス)を発行できるようにします。また、法人の一括請求(後払い)サービスにも対応予定です。これらは業界上位に成長した今だからこそ取り組むべき課題だと認識しています。

しかし、コインパーキング業界を見渡すと、最大手のT社が市場シェアの約50%弱、2番手のR社がその半分ほどを占めており、当社のシェアはまだ数%に過ぎません。私たちが目指しているのは、各地域でのドミナント戦略をさらに強化し、地域ごとに占有範囲を広げていくことです。

現在、当社が保有する施設は全国で約3,400施設、約4万車室にのぼります。次の目標は10万車室の実現です。この達成に向けた道筋は見えていますが、重要なのは日々周囲の市場を見ながら行う「きめ細やかな価格設定の調整」と「その土地の利用価値の見極め」です。

最近では個人の方からも「ザ・パークという清潔で新しい駐⾞場の看板を近所でよく見かけるが、うちの土地を駐車場にできるだろうか?」といった相談を多くいただくようになりました。⼟地活⽤には借地法などのハードルがある場合も多いですが、その中でも駐車場ビジネスは⽐較的ローリスクで、始めやすい活用方法です。このような需要に応えることで、さらなる拡大を目指します。

――これから新たに挑戦したいこと描いている未来像について教えてください。

これから日本は確実に人口減少を迎え、車を所有する人も減少していくと考えられます。また、レベル5の自動運転車が実用化されると、スマホのアプリで車を呼び出し、目的地に着いた後は車が自動で基地(駐車スペース)に戻るという時代が到来するかもしれません。

このような未来では、コインパーキングに新たな価値が生まれると考えています。駐車場は単なる「止める場所」ではなく、移動と連携した重要なインフラとして進化する可能性を秘めています。こうした時代を見据え、将来的にはカーシェアリング事業など、新たなビジネスモデルにも挑戦していきたいと考えています。

会社概要
社名:株式会社第一興商
事業開始:1976年2月
資本金:12,350百万円
株式上場:東京証券取引所プライム市場
従業員数:当社1,932名/グループ3,411名(2024年3月31日現在)
事業内容:業務用カラオケ事業、カラオケ・飲食店舗事業、音楽ソフト事業、その他の事業
https://www.dkkaraoke.co.jp/business/parking/