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- 本コラムは、企業・団体などから寄稿された記事となります。掲載している取り組みやサービスの内容・品質、企業・団体などをAMPが推奨・保証するものではありません。
若年層向けに企業が実施したプロジェクトへと焦点を当てる企画「新世代攻略ガイド」。施策の戦略、視点、そして、どのように訴求したか具体的な手法をコラム形式で共有することにより、若年層にどうアプローチすべきなのか、彼・彼女らの考え方にどう寄り添うべきなのか、その理解を深めていく。
今回は株式会社ツムラの取り組みを紹介する。
実施プロジェクト:「#もうすぐ社会人になるあなたへ」
目的・テーマ | 社会人になることを控えた大学生に向け、心身の不調を我慢していつも通りに過ごす「隠れ我慢」をしなくても良い、「心身の不調を我慢しないでほしい」と思っている先輩社会人がたくさんいるというメッセージを発信。創業から130年にわたり、さまざまな不調に寄り添ってきたツムラの知見を活かし、我慢以外の選択肢を提示する。 |
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戦略・手法 | SNS、交通・新聞広告によるメッセージの拡散と、タイアップ企画でのイラストや漫画、インタビュー記事を活用したメッセージに対する理解の深化。 |
成果 | SNSの投稿やコメントを通じてユーザー同士のコミュニケーションが生まれ、認知や共感、理解が伝播した。また、適した方法で発信できたことにより、メッセージに共感した人におけるツムラへの好意度や関心度が高まった。 |
プロジェクトの概要
「#もうすぐ社会人になるあなたへ」は、春から働き始める新社会人を対象に、心身の不調を我慢する以外の選択肢を提案するために2024年3月に行なった施策です。
この施策は、2021年に始まった「#OneMoreChoice プロジェクト」の一環として位置づけられています。ツムラは漢方事業を通じて、心身の不調に対する課題に触れてきました。その中で、生理痛やPMS、頭痛といった不調を抱えたまま、我慢して普段通りに仕事や家事をしている方が多いことが分かってきたのです。そうした我慢を「隠れ我慢」と名づけ、20~50代の女性1万人を対象に実態調査(※1)を行ったところ、約8割もの女性が「隠れ我慢」を抱えていることが分かりました。そこで、心身の不調に対する「隠れ我慢」をなくし、誰もが心地よく生きられる健やかな社会を目指すために2021年より始まったのが「#OneMoreChoice プロジェクト」です。
様々なライフステージの方を対象に活動を重ねていく中、不調に向き合うことを学生のうちから知ってもらうため、2023年度からは大学生向けにも活動を始めました。すると、社会人だけでなく、大学生も日々の授業やアルバイトの中で「隠れ我慢」をしていることが分かってきたのです。
そこで、2024年春から働く新社会人と社会人歴3~5年目の先輩社会人に「働くことと不調に関する意識調査(※2)」を実施したところ、新社会人の約6割が「社会人なら多少の不調は我慢すべき」だと思っているという結果に。一方で、先輩社会人の約8割が「社会人だからといって不調を我慢しなくていい」と考えており、「新社会人が我慢以外の行動を取れるようサポートしたい」と考えている先輩社会人は約9割にものぼりました。この調査により、新社会人と先輩社会人とでは、“仕事における心身の不調”に対する考え方が異なることが分かったのです。
先輩社会人たちの思いを知らずに、我慢をすることが当たり前のまま社会人になってしまっては、隠れ我慢がない社会にすることはできません。そこで、新社会人になる大学生へ向けてメッセージを発信するために始まったのが今回の「#もうすぐ社会人になるあなたへ」の施策です。
施策の戦略とアプローチ手法
施策を始めるにあたり、まずは「働くことと不調に関する意識調査」の結果の発信から行いました。調査結果を分かりやすく紹介する約30秒の動画を、「#OneMoreChoice プロジェクト」のYouTubeチャンネルで2本公開。ツムラでは、ターゲットに関わらず「ツムラらしい発信」であることを重視しています。そのため、今回の施策においては「自然と健康を科学する」という経営理念に基づき、客観的な調査に基づいた発信から始めたのです。
それに続き、4つのタイアップ企画を実施しています。1つ目は、女優の影山優佳さんへのインタビューです。中学3年生からアイドル活動を始め、その中で女優活動等にも挑戦してきた影山さんは、身体の不調を我慢して仕事を休まなければならなくなった経験があると言います。そうした実体験をふまえた新社会人へのアドバイスは、ターゲットである大学生と同年代の彼女の言葉だからこそより強く響くと考え、実施しました。
2つ目は、東京メトロ「丸の内線」と「銀座線」の車内ジャック、および山手線ホームでの広告掲示です。実態調査では、先輩社会人から新社会人へ向けた応援メッセージをたくさんいただき、「休んでもいい、迷惑をかけてもいい。働き始めた瞬間、プロになんてなれない。(4年目の先輩より)」「信頼してくれてるんだと思って、頼られた方も少し嬉しい。(3年目の先輩より)」など、我慢しないでほしい、頼ってほしいという思いが多く聞かれました。新社会人にちゃんと届くよう、立ち止まって読むことができる電車の中や駅のホームを選択しました。
3つ目は、お役立ち情報を発信するBuzzFeedKawaiiでの「隠れ我慢あるある」の発信です。そもそも、我慢をしている認識がない大学生が実は多いのです。そこで、まずは我慢をしていることに気づいてもらうため、自分に当てはめて考えやすいように隠れ我慢の具体的な場面や“我慢タイプ”をイラストつきで画像にまとめて、大学生がよく利用しているSNSであるInstagramとXで発信しました。
4つ目は、TikTokで人気なMOREDOOR(モアドア)による『隠れ我慢していませんか?』という2本の漫画の発信です。MOREDOORはこころやからだの悩み、キャリア、ライフスタイルなどについて漫画で発信するメディアで、10代から30代の女性をはじめとする幅広い層に支持されています。既に心身のことに関心を持っているフォロワーが多いため、漫画の最後には実態調査の結果やプロジェクトのメッセージも掲載。プロジェクトについてより深く知ってもらうことを狙いとした施策を実施しました。
こうして、様々な媒体やメディアでタイアップを行ったのは、「広くターゲット層に届ける」と「プロジェクトに対する理解を深める」という2つの目的に合わせたメディア選びを大切にしているからです。伝えたいメッセージをしっかり届けるためには、たくさんの人への発信も重要ですが、そのプロジェクトの思い、背景まで深く知ることのできる発信も必要だと考えています。
そこで今回は、情報の拡散には広告やYouTube、Xを活用し、知識を深めるためにMOREDOORとのタイアップ企画を行ないました。特に、MOREDOORとのタイアップにおいては企画の説明だけでなく、「隠れ我慢」という課題意識や活動の意義、期待する役割も編集部と対話を重ねたことで、プロジェクトの思いまで深く知ることができるような企画が実現しました。
施策から得られた成果
施策を通じて、広告やSNSでの投稿を見てくださった方々からはたくさんの反応をいただきました。数字としては、プロジェクトを始めた2024年3月の1カ月間でMOREDOORのTikTok漫画は約120万回再生、約3.7万件以上ものいいねが寄せられています。
さらに、コメントに対してほかのユーザーがコメントをすることでコミュニケーションが生まれている状況も多々ありました。「『大丈夫?』って聞かれても『大丈夫です!』て答えちゃうんだよね。」というコメントに対し、「体調悪いでしょって言う方も勇気いるよ 頼れる人には勇気出して欲しい」と返信されるなど、コメントを通じてお互いの理解を深めている様子が見られました。
また、Xでは「#もうすぐ新社会人になるあなたへ」というハッシュタグが拡散されたことで、新社会人だけでなく先輩社会人にも、自分たちのことに置き換えて投稿をしていただけました。先輩社会人から新社会人へのメッセージや実体験をもとにしたアドバイス、画像を用いて大喜利のような投稿をする流れができるなど、世代を超えて投稿が投稿を生み、広がるという成果が表れた施策でした。
本プロジェクトは新社会人向けではあったものの、発信においては20代の健康だけでなく、各ライフステージで起こりうる不調を見越して20代から健康に向き合うことが大切であるとも伝えています。この観点からも、上の世代と下の世代が「心身の健康」を起点に繋がることができたのは一つの成果となりました。
そして、施策に区切りがついた2024年5月には毎年確認している20代から60代の男女を対象とした「一般生活者調査」を実施し、これまでの施策がどのような行動変容をもたらしたかを調査しています。そこで、特に20代女性から多く見られたのが「隠れ我慢をしないようにしようと思った」といった回答。最も届けたいメッセージがしっかり伝わったうえで意識の変化が見られました。
加えて、この「#新社会人になるあなたへ」の施策を認知している人は、ツムラに対する好意度や関心度が高い一方で、「隠れ我慢」という言葉を聞いただけの人は好意度にそれほど影響がなかったという結果も出ています。つまり、キャッチーで目立つ言葉や表現は人々の関心を引くのに効果的なものの、企業への好意や共感にはつながりにくかったのです。プロジェクトやメッセージに共感した人が、企業の姿勢にも共感するという傾向がありました。
ここで、プロジェクトやメッセージに共感してもらうのに大きく貢献したのが、タイアップするメディア選びだったと考えています。プロジェクトの思いや活動の意義が伝わるか、単に目立つのではなく理解を深めることができるか、プロジェクトらしさやツムラらしさが表現できるか。目立つかどうかではなく、課題の解決に焦点を当ててメディアを選択しました。そうすることでおのずと結果も付いてくることが、調査結果からも明らかになりました。
今後に向けて
今後も、「隠れ我慢」をはじめとする心身の不調における課題やボトルネックになっていることを調査したり、これまでの施策を振り返ったりしながら、その時に必要な施策を検討し、行なっていきます。その中でまずは、新たに公式のInstagramのアカウントを立ち上げ、これまでのXでの発信では届けられなかった方々へもメッセージを届けていく予定です。
そして、今回の施策やその後の調査を通じて、数字を追ったりインパクトのあることをしたりするよりも、まずはプロジェクトの目的を見据えて最適な手段を選んでいくことが、メッセージをしっかりと伝えることにつながること。ひいてはそれが企業への認知や好意にもつながることが分かりました。この知見を生かし、まずは当たり前のことや必要なことを着実に取り組むことを大切にしながら、心身の不調を無理に我慢することなく、誰もがいつでも心地よく生きられる健やかな社会の実現を目指していきます。
(※1)「隠れ我慢に関する実態調査」調査概要
調査主体:株式会社ツムラ
実施時期:2021年1月16日~1月18日/調査手法:インターネット調査/実査委託先:楽天インサイト
調査対象:①全国の20代~50代女性10,000人(人口構成比に基づく)
②心身の不調があっても、いつも通り家事や仕事を行っている20代~50代女性1,000人(年代別に250人ずつ)
(※2)新社会人と先輩社会人に聞く、「働くことと不調に関する意識調査」概要
調査主体:株式会社ツムラ
実施時期:2024年1月5日~1月12日/調査手法:インターネット調査/実査委託先:マクロミル
調査対象:2024年4月に新社会人になる予定で高校・専門学校(短大含む)・大学・大学院に在籍中の男女1,000人、有職者で社会人歴3年~5年目の20代・30代男女1,000人
(新社会人は人口動態に合わせた回収に基づく出現率でウェイトバック集計を実施)