いま、再びの民泊ブームが到来している。

日本政府観光局(JNTO)の最新の発表によれば、7月の訪⽇外客数は3,292,500人で、前年同月⽐で41.9%増、2019年同月⽐で10.1%増に。2カ月連続で単月として過去最高を記録した。

こうしたインバウンドの増加によるホテル価格の高騰が引き金となり、民泊の需要が増しているようだ。民泊の届出住宅数は、過去最多の約2万5,000件(24年7月時点)となっている。

その利用内訳にも変化があり、2019年は訪日外国人の利用がメインだったが、最新データでは国内客が増加して約4割を占めるほどに。民泊ブームを取り巻く現状を関連の調査データからひもといていく。

民泊物件数は過去最多、宿泊数は前年比138.4%に

観光庁が運営する「民泊制度ポータルサイト」によれば、2018年の住宅宿泊事業法(民泊新法)施行後も、住宅宿泊事業の届出件数は着実に増加している。

民泊の届出件数は着実に増加し、過去最高になった(民泊制度ポータルサイトより)

2024年7月時点の届出件数は42,010件、事業廃止件数は16,684件で、届出住宅数(届出件数−事業廃止件数)は25,326件となる。民泊新法における民泊の物件数は、過去最多となった。

全国での宿泊日数の合計は299,719日(前年同期比138.4%)で、届出住宅あたりでは15.4日だった。都道府県別では、東京都が158,613日で最も多く、次いで大阪府(21,914日)、北海道(17,552日)となった。

宿泊者数で見ると、全国で325,616人(前年同期比131.0%)で、届出住宅あたりで16.7人だった。都道府県別では、東京都が113,460人で最も多く、次いで大阪府(20,642人)、北海道(20,595人)となった。

民泊の国内利用は4割超え。地方滞在の割合は3倍に

民泊における宿泊者数の国籍別内訳を見ると、国内の利用客(日本国籍を有する人)が143,460人(44.1%)、外国人が182,156人(55.9%)という結果に。コロナ禍前の2019年は国内利用客が90,089人(26.9%)、外国人が245,074人(73.1%)であり、コロナ禍を経て国内利用客が大幅に増えたことがわかる。

コロナ禍を経て、民泊利用が国内客にも浸透しつつある(提供:Airbnb Japanのプレスリリース)

Airbnbの発表によれば、同社が2020年10月〜12月に実施された「Go To トラベルキャンペーン」に参加したことで、国内ゲストが増加したという。2023年時点でのAirbnb利用者の64%は日本ユーザーであり、民泊全体の国内利用客の割合よりも多くなっている。

より広々した地方滞在が2019年比で約3倍に(提供:Airbnb Japanのプレスリリース)

同社の調査では、旅行の目的地が分散し、地方の宿泊ニーズが増加する動きも見られている。日本におけるAirbnbゲストの地方滞在の割合は、2019年の3.3%から2023年に9.2%へ劇的に上昇している。コロナ禍以降の在宅勤務の拡大により、新しい環境やより広いスペースを求めて郊外への旅行人気が高まっているそうだ。

さらに、28泊以上滞在するゲストの宿泊全体に占める割合も、2019年と比較して4倍以上に増加している。ワーケーションなど柔軟な勤務形態が浸透したことが影響しているようだ。2023年には、日本での長期滞在者の消費額は、アジア太平洋地域全体でオーストラリアに次ぐ第2位となっている。

都内のホテルは過去最高単価を記録

民泊の需要が伸長する背景には、「ホテル単価の上昇」がある。日本経済新聞の報道によれば、4月の国内ホテルの平均客室単価は21,902円で前月比4.7%の上昇に(不動産データ分析大手、米コスター・グループ傘下のSTR調べ)。2000年以降で初めて21,000円台になったという。東京は33,344円で、調査を始めた1996年以降の最高値だったという。

こうした値上げにはインバウンド需要や物価高が影響しており、コロナ禍前の2019年と比較すると、平均客室単価は1.5倍にも上昇している。1泊1万円以内で宿泊できる都内のビジネスホテルを探すのは困難で、出張における宿泊費の上限を見直す動きも求められている。

民泊支援事業も活発化

民泊需要の増加に伴い、民泊利用を支援する動きも見られている。

総務省の調査によれば、2023年の空き家数は900万戸と過去最多に。2018年から51万戸の増加となり、総住宅数に占める空き家の割合(空き家率)も13.8%と過去最高となった。

こうした空き家の有効活用を目的に、東急不動産ホールディングス、Airbnbの日本法人、オリエントコーポレーション、空き家所有者・地域・事業者・自治体を繋ぐマッチングプラットフォーム「アキカツナビ」を運営する空き家活用社の4社は、2024年7月に業務提携することを発表した。

4社が提携して提供する「ホームシェアリング活用支援ワンストップサービス」フロー図のイメージ(提供:オリコのプレスリリース)

4社の業務提携により、空き家の民泊活用における「物件調達」「資金付け」「事業計画」「マーケティング」をワンストップで提供できるという。

これまで、Airbnb・オリコ・アキカツナビは、空き家にかかわる幅広い資金ニーズに対応する無担保消費性ローン「アキカツローン」の商品化や空き家のホームシェアリング活用を通じて、空き家の流通促進に取り組んできたという。

一方、ホームシェアリングの実施には事前準備や日々の運営など多くのハードルがある。東急不動産ホールディングスでは、こうした課題に対して、個人・法人のホームシェアリングを一貫して支援するサービス「AnyLivingS」の実証実験を2024年4月から実施、ホームシェアリングの参入障壁を下げることで空き家の有効活用と地方不動産の流通促進を目指している。

また、総合不動産開発事業を展開するジェクトワンでは、2016年から提供している空き家解決サービス「アキサポ」にて、2024年に初となる空き家から民泊施設への再生を実施した。アキサポは、空き家をアキサポが借り受け、同社の全額費用負担でリノベーション工事を行い、一定期間転貸するサービスだ。

2024年4月にオープンした民泊施設「アキサポステイ初台」の居室Before(提供:ジェクトワン)
「アキサポステイ初台」の居室After。以前の雰囲気とはガラリと変わり、快適な住空間に(提供:ジェクトワン)

第一弾では、約5年間空き家になっていた渋谷区にある​築48年の一戸建て物件を​リノベーションし、2024年4月に、民泊施設「アキサポステイ初台」としてオープンしている。その後も、武蔵野市吉祥寺の空き家年数約7年の一戸建てや葛飾区立石にある築39年の一戸建て物件も民泊に再生している。

一部の専門家によれば、観光業界の人手不足やホテルの価格高騰はもうしばらく続くと見込まれており、民泊の需要も高い状態が続きそうだ。

文:小林香織