米国における育児サービスのコスト高騰は、多くの働く親にとって、頭が痛い問題だ。2023年、子どもがいる夫婦世帯のうち、両親共働いている世帯は67%を占めた。こうした家庭の平均収入は12万9,000米ドル(約1,870万円)。育児コストはその8~24%までをも占めるという。

中でも10~12週間に及ぶ夏休みが家庭に与える影響は大きい。学校が閉鎖するため、子どもの預け先を見つけ、その費用を捻出しなくてはならない。定番のサマーキャンプに子どもを参加させたくても、費用が馬鹿にならない。平均的なサマーキャンプの1日の費用は約87米ドル(約1万2,600円)、宿泊型キャンプは約173米ドル(約2万5,000円)に達する。キャンプに子どもを参加させられない家庭は40%に上る。

夏だけが問題ではない。育児コストの上昇は季節を問わず、米国社会に大きな影響を与えている。親たちは、良い環境での学習にお金を使い続けるべきか、コスト削減のために仕事のスケジュールを調整するべきか、はたまた仕事を辞めてしまうべきなのだろうか。難しい選択に迫られる中、親たちは大統領選挙に注目する。

賃金アップでも追い付けない、インフレ率高騰

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2023年、米国の全世帯のうち18歳以下の子どもがいるのは、約5分の2にあたる3,260万世帯。子どものいる家庭では、片方もしくは両親が就労している割合は91.9%で、2022年から1ポイント弱増加となっている。特に、結婚している両親がいる世帯では、片方または両親が就労している割合は97.6%に達し、そのうち両親共に働いている家庭は67%に上る。これらは米国労働省労働統計局の調査結果によるものだ。

2021年から2023年にかけて、コロナ禍によるサプライチェーンの制約やロシアのウクライナ侵攻による混乱が原因で、世界中でインフレが加速。米国では2021年4月に、近年で初めて物価上昇率が賃金の伸びを上回った。2022年6月の月間インフレ率は9.1%と40年ぶりの高水準に達し、同年の年間インフレ率は8%となった。賃金の伸びは、2022年夏に6.7%に達したものの、インフレ率のさらなる上昇の影響を抑えるには不十分だった。

夏休み定番の子どもたちの過ごし方、キャンプ

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キャンプが質の高い体験を生み出せるよう支援する非営利組織、アメリカキャンプアソシエーション(ACA)によると、米国のサマーキャンプの平均費用は1日あたり約87米ドル(約1万2,600円)で、泊まり込みキャンプの場合は1日あたり約173米ドル(約2万5,000円)に上る。

米国の子どもたちの夏の過ごし方の定番がキャンプだ。1870~1880年代に生まれたキャンプは、当時は少年のためのもので、都会化する現代生活を離れ、アウトドアで生活し、人格形成を行うことを目的としていた。現代のキャンプも、そのモットーを受け次いでおり、子どもが社会的、感情的、知的、道徳的、身体的に成熟するのに、キャンプ体験が役立つと専門家が認めていると、ACAはいう。

現在トレンドのプログラムは、ジップラインやマウンテンバイクに挑戦するアドベンチャープログラムや大自然と触れ合うプログラム、ガーデニングなど、自然関連のものが目立つ。

夏のキャンプ数は1万2,000を超え、学校が夏休み期間中、9~12週間運営される。そのうち、子どもは3~5週間参加する。参加者数は米国の子どもの約2分の1にもなる。

泊まり込みのキャンプは特に人気で、親は子どもにテクノロジーから距離を置くいい機会だと考えている。新しいスキルを身につけたり、新しい友達を作ったり、自然を体験したりするのに良いと考える。自立心を育むのにも有効だと親は考えている。

休み中、子どもが楽しみながら学ぶことができ、自分の手から離れるということもあって、子どもだけでなく、親からも大きな支持を得ている。

夏のプログラムに、月に30万円近くを費やす親も

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米国の、18歳未満の子どもを持つ親たちの40%が一番ストレスに感じている季節は夏だという。2024年4月に発表になった、企業や組織向けアンケート調査のプラットフォームを影響しているクアルトリクス社が、米国の会計ソフト最大手のインテュイット社傘下のクレジットカルマ社の依頼で実施した調査の結果だ。主な理由に、61%の親が保育料の高さを挙げている。夏休みなので、子どもを特別なプログラムやアクティビティに参加させなくてはならない。

夏のプログラムに子どもを登録した親のうち、費用支払いのために借金をする人は28%。夏のプログラムにお金を出すという58%の親のうち、ほぼ23%が子ども1人あたり月1,000米ドル(約14万5,000円)以上、6%が2,000米ドル(約29万円)を超えるコストがかかると言っているそうだ。40%の親は夏のプログラムが高いので、子どもを参加させたくても、させられない状態だという。

子どもが夏休みの間、自分の勤務時間の調整が必要な親が35%。中には片方の親がキャリアを犠牲にして、子どもの面倒を見ざるを得ないケースも出ている。

また、300万以上の家族を代表する非営利の親と家族の擁護団体、ペアレンツ・トゥゲザー・アクションが2024年6月に発表した調査報告によれば、親の54%が、子どものために夏のプログラムを探すのに苦労した、またその費用を捻出するのが大変だったと言っているそうだ。夏のプログラムの支払いを行うために、節約をしたり、借金をしたり、貯金を断念したりした人、仕事を辞めた人は38%だった。

大統領選の切り札にもなり得る、育児コストの問題

米国保健福祉省(HHS)は、育児にかかる費用が世帯収入の7%以下であれば、その料金は手頃とみなしている。ところが、17カ国以上の家庭や職場で何百万もの家族を支援するCareが毎年行っている、両親への聞き取り調査をまとめた「2024 コスト・オブ・ケア・レポート」によれば、その割合は24%に上るそうだ。米国における郡レベルの保育コストに関する最も包括的な情報源、米国労働省女性局による「ナショナル・データベース・オブ・チャイルドケア・プライス(NDCP)」によれば、2022年には世帯収入の中央値の8~19.3%が保育コストにあてられているという。

NDCPは2022年、子ども1人に対する保育コストは、5,357米ドル(約77万6,000円)から1万7,171米ドル(約250万円)と発表している。これは、子どもが1人以上いる世帯では、負担はさらに重くなっていく。保育サービス提供者の種類、提供される保育の質、サービスを受ける子どもの年齢、および場所によって大きく変わってくる。

保育コスト高騰にあたり、政府は、チャイルド・アンド・ディペンデント・ケア・クレジット(子女養育費税額控除)を行っている。これは、13歳未満の子どもの保育コストを対象とした税額控除だ。それにも関わらず、貯金から保育コストを捻出せざるを得ない親は35%に上る。

また、保育コストを上げる原因の1つになっていると考えられているのが、保育サービス提供施設の減少だ。全国の育児プログラムを支えてきたコロナパンデミック時代の資金が2023年9月で終わってしまったのだ。240億米ドル(約3兆4,800億円)が、施設を支援していた。おかげで、2020~2021年にかけて施設、スタッフの数とも減少。生き残った施設は、インフレも手伝って、コストを上げた。

貯金から保育コストを捻出している親のうち、貯金のほぼ半分が保育に消えていっている親が42%おり、さらに3分の2以上を費やしている親も25%を占めた。

施設が少なくなったことで、施設のキャンセル待ちリストに、子どもを入れて待つ中、親は金策を練り、職場に融通を利かせてもらえるよう交渉する。ベビーシッターや放課後のプログラムなどをあちこち併用することで何とかしのいでいるという。

もうすぐ米国では大統領選挙が行われる。「2024 コスト・オブ・ケア・レポート」では、候補者の育児政策に対する立場が投票に影響を与えると回答した親は88%、大統領選討論会で大統領候補者の口から育児についての意見を聞くことが大切とした親は91%にも上った。討論会で取り上げてほしい最優先のテーマを尋ねられた際、親たちは経済に続いて育児を選んだ。Careは親たちが解決策を求めている育児コストと、それが親に与えるストレスが大統領選挙の勝敗を決める重要な要素となり得るとしている。

文:クローディアー真理
編集:岡徳之(Livit