スタートアップに投資した経験のある複数の投資家に焦点を当て、投資判断の裏側にある思考プロセスに迫る「Investor’s eye」。第二回目に登場するのは、コロプラの元副社長で、現在は「千葉道場ファンド」のジェネラルパートナーを務める千葉 功太郎氏だ。日本有数の起業家コミュニティ「千葉道場」を運営し、インターネット領域のスタートアップ60社以上に投資を行う千葉氏の投資決定プロセスに迫る。

【プロフィール】
DRONE FUND 創業者/代表パートナー、千葉道場ファンド ジェネラルパートナー 千葉 功太郎氏

慶應義塾大学環境情報学部卒業後、リクルートに入社。2009年コロプラに参画し、取締役副社長に就任。2012年東証マザーズIPO、2014年東証一部上場後、2016年7月退任。現在はインターネット領域などのスタートアップ60社以上に投資するエンジェル投資家であり、ドローン・エアモビリティ前提社会を目指す分野特化型VC「DRONE FUND」や、「千葉道場ファンド」の代表を務める。

エンジェル投資家から受けた恩を、これからの起業家に返す。スタートアップへの投資を始めた経緯

親が投資を行っていた影響で、大学卒業後から株式投資を始めた千葉氏。その後、コロプラの副社長時代も含む、2013年頃からエンジェル投資家としてスタートアップへの投資を始めた。このとき、まだエンジェル投資家という言葉も一般的ではなかったなか、スタートアップへの投資を始めた経緯について次のように過去を振り返る。

「私が初めて『ギガフロップス』という会社を友人と起業したとき、エンジェル投資家から出資を受けました。当時20代でしたが、自分のつくった会社に大金を出してくれる投資家が素直にカッコいいと思えたんです。若者たちが立ち上げた会社に何百万円も投資してくれる姿勢を見て、自分も将来、同じように起業家を応援したいと思ったわけです」

千葉 功太郎氏

その後、スタートアップへの投資先が次第に増えていくなか、当時の投資先で、現在は千葉道場ファンドの共同パートナーである石井 貴基氏などから「千葉さんの投資先同士で集まりたい」という話を持ちかけられる。

そこで、投資先のスタートアップ同士を集めて行ったのが、第1回千葉道場合宿だ。今では日本有数の起業家コミュニティとして知られる「千葉道場」のメインイベントとなっており、朝から夜まで丸一日使って合宿を行う。

「千葉道場合宿の回数を重ねるごとに、投資先の企業も増えていき、私個人の財布からお金を出すだけではキャッシュフローが不安定であることも痛感しました。安定的に出資を行う仕組みを考えると、さまざまな人からお金を集めるファンドというかたちで運営したほうが良いと判断し、『千葉道場ファンド』を立ち上げました」

そのほか、千葉氏はドローン・エアモビリティ関連のスタートアップ投資に特化した「ドローンファンド」も組成している。

「2015年頃、あまりドローンに投資する投資家はいませんでしたが、私個人としてはドローン系のスタートアップへの出資が増えていきました。そこには、個人的な興味もありましたが、『インターネットがくるぞ』というのと同じくらいドローンは間違いなく巨大市場になると予想していたんです。ただ、個人で投資するにはポートフォリオのバランスも悪くなりますし、かといって投資を止めてしまうとこれから生まれてくるドローンのスタートアップは投資の機会を得られないのではないかという危機感もありました。そこで、ドローン産業の成長も兼ねて『ドローンファンド』をつくったんです」

創業から上場まで見届けられた会社は思い入れ深い。事業ではなく人を見て投資していた時代

これまで千葉道場ファンドやドローンファンドの組成をはじめ、インターネット領域を中心としたスタートアップ60社以上に投資をしてきた千葉氏。数多くのスタートアップを見てきたなか、印象に残っている企業について、資産運用を自動化できるロボアドバイザーを提供する「ウェルスナビ」を挙げる。

「創業の瞬間から上場まで見届けられた会社は、やはり思い入れ深いです。スタートアップへの投資は子育てみたいなもの。生まれたての赤ちゃんのときから成人式までの過程を見るとグッとくるのと同じで、スタートアップも最初に起業したときはまだ何者でもなく、アイデアはあるものの実現性に乏しい状態。そのときに出会って投資をした企業が成長し、東証でカーンと鐘を鳴らす様子を見るとやはり感動するんです。そういった意味で、初期の頃から上場までを見届けた『ウェルスナビ』は印象に残っていますね」

なかでも、創業者の柴山 和久氏、個人に惹かれたと話す。

「現在は投資するとき『人、事業、市場』の3つを見ていますが、個人でエンジェル投資を行っていた時代は、事業というより、“人”を見て投資をしていました。人のどんなところを見るかというと、まずはキャラクターです。私個人の好みになるのですが、着実に事業を進めていけるという観点から、派手さよりもコツコツと実行する方であること。

2つ目が最も重要で、人生のなかでそれをやる理由があるかどうか。例えば柴山さんは財務省出身で、いわば官僚のエリートです。東京大学を卒業後、日英の財務省で合計9年間を過ごし、その後、マッキンゼーではウォール街に本拠地を置く機関投資家を1年半サポートするなど、アメリカで活躍されて日本に戻ってきました。こうした経験のなかで、日本と海外における資産運用の違いを感じ、日本でも安心して資産運用できるサービスを立ち上げようと、『ウェルスナビ』を創業したのです。このような背景があり、その事業をその人がやる理由が明確にあるのかを見ています。さらに、当時のスタートアップ界隈には、柴山さんのようなキャリアを歩んできた方はあまりいませんでした。だからこそ、こういうキャリアの人がスタートアップをやる時代になったのだと感動したんです。柴山さんがスタートアップ業界に来たことが、一つの転換点になる。つまりは、スタートアップ起業家の窓口が広がると思い、より一層応援したいという気持ちで投資をしました」

5年後に100億円の売上を上げる方法は?投資先を見極めるために出す宿題

さらに、投資するスタートアップを見極めるために、ある宿題を出すのも千葉氏ならではの特徴だ。

「投資判断を行う際、最低でも2回か3回直接お会いし、必ず宿題を出すようにしていました。例えば『5年後に100億円の売上を起こすことはできますか?できるとしたらどうやりますか?』という質問を投げかけます。当然パッと答えられないんですね。そこで思考を切り替えてもらい、『5年で100億円の売上を達成する』という目標から逆算し、どれだけ解像度高く、その道筋を真剣に考えることができるのかを見るのです。そして、ここが重要なところで『次の面談は、あなたからご連絡ください』と伝えます。つまり、宿題は出すものの私から期限を区切らないのです。それによって2日後には『だいたい見えてきたのでアポください』と言う方もいれば、1カ月後に連絡がきて『やっとまとまりました』という方もいます。ただ、実をいうと半分以上の方からは連絡が来ないんです。これを私のなかで、一次審査に設けているところもあります。この宿題を受けてから考えるプロセスが重要で、早ければ良いというものではなく、速さと質の部分、つまりどれだけ解像度高く100億円の売上を起こすための道筋を描いているのかを見ます」

この宿題に打ち返せるかどうかは、起業後の成長において重要な要素だとも話す。

「100億円の売上を起こすためには、絶対無理と思っていたことを、実現できるストーリーに変えなくてはならないので発想の転換が必要です。とくに起業経験のない人は、自分の個人資産を起点に戦略を考えてしまうところがあるのですが、仮に10億円のキャッシュがあるとしたらどんな戦い方ができるのか、自分が持っているお金の上限を取っ払うことで大きなスケールで物事を考えられるんです。その結果、ビジネスの規模感も大きくすることにつながります。こうしたスケール感で考えるのに慣れているのが、シリアルアントレプレナーと呼ばれる、2週目、3週目の起業家です。例えば『株式会社 令和トラベル』の篠塚 孝哉さんはまさに2週目で、最初のシードラウンドから22.5億円の資金上達に成功しています。私自身も、最初に取締役を経験した『KLab(クラブ)』を上場するまでに10年かかりましたが、コロプラは4年で上場しており、時価総額も4,000億円の規模に育てることができました」

これまでスタートアップへの投資を行い、成長過程を見るなかで、千葉氏自身が学んだ教訓もあるという。

「起業家の成長スピードは速いということです。例えば最初に会ったときは、ピッチ資料には抽象的なことが書いてあり、実現性も乏しいアイデアも、私の宿題に打ち返すなかで、一年後には目を見張る成長をする若い人を数多く見てきました。やはり、ビジネスを真剣に考える過程で、思ってもみない成長を遂げるのが起業家であり、良い起業家は、第一印象と未来の印象が激変するぐらい成長スピードが速いんです。その成長速度に私自身も遅れないようにしたいという思いが、新たな挑戦のエネルギーになるのです」

今後注目するのは「AIとロボティクスの掛け合わせ」

テクノロジー領域を中心にスタートアップへの投資を行ってきた千葉氏だが、現在注目しているのは、AIとロボティクスの掛け合わせで社会課題を解決していく領域であると話す。

「現在はAI単体ではなく、他の技術と掛け合わせることで、新たに価値が生まれるフェーズになってきています。例えば「農業×ロボティクス×AI」は、主戦場の1つだと思っています。農業は、食糧問題や人手不足など解決すべき課題を抱えている一方、テクノロジーの導入が遅れている領域です。こうした課題を解決するのがアグリテックの使命で、千葉道場フォンドでも『ファームノート』という牛向けウェアラブルデバイスを開発する会社に投資を行っています。また、日本には老朽化したインフラがたくさんありますよね。例えばトンネルや橋、排水管、水道管などです。このような老朽化したインフラの点検は、人手不足や危険性などの課題があり、効率的に行うことは困難です。そこで、ロボットが自動撮影を行い、AIが亀裂を判断してアラートを上げるようなソリューションが、今後普及していくと考えています」

最後に、千葉氏の今後の目標も聞いた。

「日本のスタートアップ市場をアップデートし続けたいと思っております。そのための手段として、千葉道場コミュニティを通じて起業のエコシステムをつくりたいと考えています。なかでも、シリアルアントレプレナーを増やすことが重要だと思っており、コミュニティ内に起業2周目や3周目のシリアルアントレプレナーが増えていくことで、その方々が1週目の起業家にとっての手本になり、ノウハウも共有できる。それが結果的にスタートアップ全体の底上げになると信じています」

千葉氏の話を聞くなかでとくに印象的だったのが、投資先を見極める際に「5年後に100億円の売上を起こすことはできますか?できるとしたらどうやりますか?」という宿題を出す点だ。あえて、自分が想像している目標よりも飛躍した目標を設定することで、大きなスケールで物事を考えられるようになるのはうなずける。もちろん高い目標を達成するための道筋を、解像度高く描くことが大前提であるが、スタートアップが成長していくために意識したい問いではないだろうか。

文:吉田 祐基
写真:小笠原 大介