昨今、デジタル・トランスフォーメーション(DX)の流れが急加速したことにより、多くの企業でビジネスのIT化が推し進められている。各企業は効率化と生産性向上を求め、システム化競争が激しさを増している。

IT化を行う上でその企業のノウハウを活かす独自のシステム開発が不可欠である。しかし、発注側もシステム開発のノウハウが必要な上、プログラマーを中心としたIT人材の不足が課題として表面化しているのが現状だ。とくに、法人向けシステムに関していえば大規模な開発が必要となるため、膨大なコストと期間がかかることも課題といえるだろう。

そうした課題や現状を解決するには、企業のシステム開発におけるバックエンドの開発工程を大幅に圧縮することが有効な手段となる。実は、その課題解決を可能とするサービスを提供している「Hexabase(以下、ヘキサベース)」という企業がある。

ヘキサベースは日本の従来のシステム開発を改革しようと、挑戦を続ける企業だ。
その事業内容や将来性、さらに同社のシステムを支えるMicrosoft Azure等の活用に、彼らのステークホルダーであるマイクロソフトとともに取り組むことで、実現したいビジョンなど、日本のシステム開発について代表取締役CEOの岩崎英俊氏(以下敬称略)とデベロッパーマーケティングを担当する可知豊氏(以下敬称略)にお話を伺った。

日本の法人向けシステム開発に感じた違和感

──どのような課題意識から、サービスを立ち上げることになったのでしょうか。

岩崎 私は2000年に社会人となり、20代の頃からずっとシステム開発の業界に身を置いてきました。

もともと文系出身で経営・管理などの分野に興味があったため、コンシューマ向けのシステムではなく、エンタープライズ向けのシステムを開発できる会社に入社しました。

しかしいざ入ってみると、企業向けシステムは古臭く、使いにくいわりに高すぎる、という現状に直面しました。実際にそのシステムを自分がつくる側になったわけですが、コンシューマ向けのソフトウェアならユーザーファーストで使い勝手も考慮されているのに数千円で利用できる、そこのギャップに違和感を持ったのが、一番最初のきっかけですね。


代表取締役CEO 岩崎英俊氏

数億円という金額のシステム開発を受託してエンジニアのひとりとしてプログラムを書いていたのですが、デスマーチといった言い方をされるように、開発プロジェクトは基本的に問題が多数あるということが普通でした。2000年頃は、どこの企業もトラブルプロジェクトが頻発する、というくらいシステム開発が難しい時代でした。

──なぜ、企業向けシステムの開発にはトラブルが付きものなのでしょうか。

岩崎 いろいろな理由はあると思うのですが、技術や開発手法の変遷にエンジニアが付いていけなかったり、発注者の要求に応えるには費用対効果が合わなかったり、そういった中で要件が膨らんでいき実際につくるのが難しくなった、というパターンが多いのだと思います。

しかし、コンシューマ向けのシステム開発では、常に最新の技術や開発手法を取り入れてスピード感を持ち、トライアンドエラーを繰り返すことでいいものをつくっている。

この差を何とか埋められないか、と思ったのがヘキサベース創業のきっかけでした。

なので私たちが使うテクノロジーは、コンシューマ向けに培われてきたような技術がふんだんに取り入れられていますが、より安く、より使いやすい法人向けシステムがつくれないか、という考えが根底にあります。

──未だに法人向けシステムの課題が解決されないままなのは、なぜだと思いますか。

岩崎 少しずつ変わりつつあると思いますが、システム開発企業の中で、イノベーションのジレンマが起きているからだと思います。昔は業界のリーダーだった企業が、より開発しやすくすると、自分たちのシステム開発ビジネスが売れなくなってしまう。だから、ずっと同じことを続けるしかない。

一方で外に目を向けてみれば、GAFAを中心とした外資系企業が便利なオープンソースソフトウェアをどんどん開発して、それをみんなが活用している。そういう意味では、いま技術のリーダーは法人システムを開発する企業よりも、Webサービスやコンシューマ向けのサービスを提供するテックカンパニーに移り変わっていると言えるのではないでしょうか。

もう一つ理由があるとすれば、若手エンジニアの育成が十分でない点があると思います。私のイメージですが、法人向けの受託開発を行うような会社は、若手になかなか魅力的に映りづらいと思っています。実際の開発現場では、短い納期に苦しみ、辛い環境のなかで仕事をしている人も多いように思います。

そのため、私は自社やサービスを通して、エンジニア一人ひとりが目を輝かせながら仕事のできるプラットフォームや、開発手法をどんどん提案していくことで、若手エンジニアが日本を変えるような法人システムをつくるプロジェクトに参加できる環境を作っていきたいと思っています。

高度化しすぎたシステム開発を補助する基盤が必要

──近年では、デジタルトランスフォーメーションに注目が集まっていますが、それについてはどう感じていますか?。

岩崎 当然の流れだな、というのと、やっとですか?という感じです(笑)

ビジネスシーンだけでなく、開発手法もデジタルトランスフォーメーションが進んできました。なぜこの数十年間に法人システムの開発シーンは変われなかったのか、についてはもっとみんなで議論するべきだと思います。

いろいろな要因はあると思いますが、平たく言ってしまえば、システム開発って基本的に難しいんですよね。トラブルも絶えません。

もう少し開発作業が楽になったり、いわゆるトップレベルのエンジニアが集まったりすれば、高度なシステムを短時間で開発できるかもしれない。でも本当に普通のITをやりたいんだ、というレベルのビギナープログラマーが集まってシステムを完璧につくれるかといえば、難しいでしょう。なので、エンジニアの基盤が成熟していかない限り、業界のスタンダードが劇的に変わるというのは難しいと思います。

──最近話題の”ノーコード”も、その流れでしょうか。

岩崎 ノーコードやローコードは、コンピュータエンジニアリングの高度化に対する一つの解決策だと思いますが、対象領域を限定することが不可欠だと思います。

いま現場で働いているエンジニアが学ばなければいけない技術ノウハウは、20年前と比較して4〜5倍程度になっているのではないかと実感しています。膨大な技術に関する知識を詰め込まなければ、優秀なエンジニアとして認知してもらえません。ただ、それらを全て覚えるというのは実際問題、不可能に近い。

優秀なエンジニア一人をつくるのが難しければ、分業体制となるわけですが、今度はコミュニケーションの難しさが発生する。フロントエンジニアとバックエンドエンジニアが共通の一つのゴールを持ち、いいシステムを開発するためにはチームとしての経験が必須です。近年の高度なシステム開発においては、よりその難しさが増しています。

そこに対してプログラミングを省く、つまりノーコードは革命的とも言えますが、あらゆる分野に適用できるか、現時点では疑問です。対象領域を限定して、その部分だけを自分たちでつくっていくことはできるのではないでしょうか。

私たちのサービスは、システムのバックエンド全般を請け負うサービスなので、フロントエンドを担当するエンジニアがいれば開発することが可能です。エンジニアが能力を発揮できる領域をフォーカスしながら、お客様にとって最適なシステム環境を短納期・低コストで開発したい。そんなビジョンがあります。

──そうした課題意識がサービスに繋がるのですね。ではヘキサベースについて詳しく教えてください。

岩崎 私たちはヘキサベースという、企業名と同じ名前のサービスを提供しています。これは、企業システムの開発に利用できるエンタープライズBaaS(Backend as a Service)です。ヘキサベースを活用することで、バックエンドのコーディングなしで本格的なWebシステムを開発することが可能です。

データベースやワークフロー・ユーザー管理などシステムの裏側の機能を私たちのプロダクトで全てカバーすることが出来るので、ユーザー企業様は、自分たちの業務の特性に合わせた開発を、システム利用企業や開発パートナー企業と共に自由に行うことが可能となります。


Hexabaseサービスイメージ

──ヘキサベースには、どのような特徴や強みがあるのでしょうか。

岩崎 ヘキサベースの主な強みは4つあります。

1つ目は、最新のWebテクノロジーを採用してUIを実装できるようにしたことで、高い表現力と優れた応答性を備えたアプリケーションを開発することができます。

2つ目は、クラウドネイティブな点。導入した瞬間からその後のスケールを視野に入れた開発を可能にします。

3つ目は、開発・運用コストの最適化です。通常、システム開発にはフロント・バックエンドそれぞれ多大な開発コストが発生します。しかし、ヘキサベースを活用すれば、システム開発・運用にかかる多大なコストをおよそ1/2程度に最適化することが可能です。

4つ目は、SaaSフレンドリーな点。ヘキサベースはクラウドサービスですので、既にある優れたサービスを組み合わせて、できるだけ独自に「つくらない開発」を推進します。

──ヘキサベースを利用するメリットはどういったものなのでしょうか。

岩崎 システム利用企業様にとっては、スモールスタートで柔軟なUI/UXを持ったアプリケーションを開発できる点です。継続的な改善ができるので、業務にフィットするシステムをつくることができます。

またシステム開発企業様にとっては、上記特徴でも述べたように開発コストの削減と開発期間の圧縮、エンジニアの最適配置で、競争力を強化することができます。

そしてエンジニアにとっては、高い開発生産性でクラウドネイティブかつAPIフレンドリーなWebシステムの開発が実現可能です。

このような特徴を活かして、町工場の在庫管理システムから大企業の予算管理システムまで、これまでのシステム開発では予算や期間が合わなかったいろいろな企業システムの開発に使われ始めています。まさにDX時代にふさわしいツールだと思っているので、ぜひ皆さんにも使っていただけたら嬉しいですね。

マイクロソフトと組むビジネスのアドバンテージ

──マイクロソフトとの出会いについて教えてください。

岩崎 サービス開始当初は、他社が提供するプラットフォーム上で開発を行っていたのですが、サービスが大きくなるにつれ、自分たちでプラットフォームを構築したいと思うようになりました。そのタイミングで弊社の技術担当者から Microsoft Azure を活用してそれが実現できないか、という話が出たことがきっかけです。

また昨年ベンチャーキャピタルからシードステージの出資を受けました。Microsoft for Startupsのことはもともと知っていたのですが、その出資を受けることが加入の条件だったので、それが叶ってそこからお付き合いさせていただくようになりました。

本格的にパートナーとして取り組み始めたのは、去年の春からですね。

──協業しようと思われた大きな理由は何でしょうか。

可知 マイクロソフト製品は、日本のエンタープライズシステムとの親和性が高く、企業からの評価が高いため、そこが私たちのビジネスにとって外せないポイントでした。

企業に様々なシステム提案をする際、やはり圧倒的に評価の高いマイクロソフトのAzureを活用していることは、かなりのアドバンテージになっていると感じています。


デベロッパーマーケティングを担当する 可知豊氏

コンシューマ向けのシステムならば、他社プラットフォームを使用していても問題ありませんが、toB向けとなった場合は話が変わってきます。サービスのセキュリティや堅牢性、サービスを担保する開発環境への信頼度が、そのままビジネスに直結します。なので、マイクロソフトと組んでいるという安心感があってはじめて、私たちのサービス内容や価値をお客様にご理解いただけるという場面も少なくありません。

岩崎 何か相談ごとやメッセージを送るとすぐに返ってきますし、ビジネスに繋がる人を紹介してくれたり、ディスカッションに参加していただいたり、こうした積極的なコミュニケーションとコミット力はとても助かっている部分で、そこもマイクロソフトと協業していきたいと思える要素の一つですね。

──マイクロソフトに対するイメージは変わりましたか。

可知 大きく変わりましたね。システム開発ではアジャイル開発という手法があります。開発現場ですぐに試して、良さそうならリリースしてしまってそこから継続的に改善するという考え方なのですが、そうした発想がマイクロソフトさんのビジネス面でも定着しているんだな、という感覚を覚えています。

いろいろな企業で、「あの部署は優秀だよね」とか「あの人はすごいよね」といった場合、一部の個人にフォーカスが当たる場面が多かったと個人的には思います。ですがマイクロソフトさんは、メンバー全員がアジャイル的発想でスピーディに私たちに情報共有やビジネス連携を積極的に行ってくださっており、非常に助かっています。特定の誰かではなく、マイクロソフト全体の働き方や価値観そのものが大きく変化してきているな、という印象が強くあります。

それはきっと、技術のスピード感とビジネスの変化のスピード感がしっかりと連動している、ということを理解しているからではないでしょうか。技術だけで答えを出すわけでも、ビジネスサイドだけで答えが出るわけでもない。両輪が共に変化、進化していく必要があるよね、という価値観を持ちながら仕事をされているんだろうな、というのが協業していて感じることです。

さまざまな企業のCTO的存在になりたい

──今後、マイクロソフトのリソースをどのように活用していきたいと考えていますか。

岩崎 お客様が私たちのサービスを使っていただければいただくだけ、Azureの利用が増えるということでもあるので、まずはプラットフォーム活用をより活性化させていきたいですね。

可知 あとはマイクロソフトは世界最高峰の技術を持っている会社なので、当然アクセス制御やセキュリティといった分野もAzureのほうが進んでいるわけです。それらと私たちのサービスがどのように連携してくのか、という点は議論している最中です。そうでないと、ただAzureに乗っかっているだけの存在になってしまうので、そこをしっかりやらないといけない。

もちろんAzureありきではなく、ヘキサベースは独立したサービスなので、独立性の中でどのように特徴を出していくのか、ということは、ぜひマイクロソフトの方々のご協力を得ながら発展・ブラッシュアップさせていきたいですね。

──この先、取り組んでいきたいことについて教えてください。
可知 私は自分たちのサービスを、ヘキサベースを若手企業のバックエンドエンジニアやCTO的な存在として活用してもらえたら嬉しいですね。

今スタートアップでビジネスを始めるときに、インフラからバックエンド・フロントエンドまでできるフルスタックエンジニアやCTOが見つからない、という問題がよく話題に上がります。

技術はイノベーションの核なので、ビジネスを成功させるには、ビジネスサイドだけでなく技術サイドの人間も必要です。でも、なんでもできるすごいエンジニアは簡単には見つかりません。そこに、ヘキサベースはお役に立てるのではないかなと。

ゼロから人を集めてクラウドの技術を研究して、サービスの開発を始めて品質を担保しながら運営して、といったプロセスをヘキサベースで圧縮することができれば、サービスを開発するスピードも上がるのではないかと思っています。

岩崎 ヘキサベースのゴールとしては先程も申し上げた通り、企業システムをコンシューマレベルまで使いやすくし、その開発にたくさんの若手エンジニアが目を輝かせて参画している、という世界観を実現していくことです。

特に私たちのサービスはバックエンドを共通化して、サービスとして提供するので、それを自由に活用して開発できるような未来になったら嬉しいですね。

それが積年のシステム開発の文化を変えるきっかけとなればと考えています。

20〜30代の若手層が、開発技術に対してどれだけ興味を持って、夢中になって楽しく仕事できるかが、今後の日本の生産性の向上を左右していくのだと思っています。

※この記事は日本マイクロソフトからの寄稿記事です