「MBTI診断」がZ世代を中心にブームになっている。最近では著名人やインフルエンサーが自身の性格タイプを公表するために診断を受ける姿がマスメディアでも見受けられ、国内で広く受け入れられつつあるようだ。このような状況を受け、組織のチームビルディングや採用活動、または自身のキャリア決定など、趣味や娯楽の範囲を超えてMBTI診断を活用しようと検討している方も増えているのではないだろうか。

本来、MBTIとは「ユングのタイプ論をもとにした、世界45カ国以上で活用されている国際規格に基づいた性格検査」(※1)のことであり、MBTI有資格者のフィードバックを受けながら自己分析を深めるものである。あくまでも検査結果はきっかけとして、自分についての洞察を深めるプロセスそのものに重点を置いている。一方、日本においてZ世代を中心にブームとなっているのは、「16Personalities」というWebサイトで簡単に受けられる診断であり、正式な「MBTI」とは別物であることは留意しておかなければならない。

この「16Personalities」というサイトでは、約90個の質問に全て答えると、アルファベット4文字の性格タイプが表示される。外向的(E)/内向的(I)、感覚的(N)/直感的(S)、思考的(T)/感情的(F)、規律性(J)/柔軟性(P)で構成され、それらを組み合わせた16タイプのどれかに分類されるというわけだ。しかし、診断結果はあくまで自己申告によるものに過ぎない上、人間の多面的な性格を16タイプに分類し、型に当てはめてしまうことには議論の余地があるといえる。

では、コミュニケーションにおいて特にMBTIが話題に上る機会が多くなっているZ世代は、このツールをどのように受け止め、今後どう活用していきたいと考えているのだろうか。本企画では、若手社会人3人と大学生1人、そしてメンタルケア・コンサルタントの大美賀直子氏を迎え、座談会を実施。Z世代の生の声と、それに対する専門的な見解を交えて、「16Personalities」の可能性について多角的に考察する。

対談メンバー
大美賀直子氏(メンタルケア・コンサルタント)
Oさん(入社3年目/男性/INFP)
Nさん(入社1年目/男性/ENFJ)
Kさん(入社1年目/女性/INFJ)
Hさん(大学4年生/女性/ENTJ)

※本記事では便宜上、「16Personalities」の診断結果を「MBTI」と表現しています。

自分のMBTIを知ってからの変化や気付き

Q:Z世代の皆さんはご自身のMBTIを既にご存じかと思いますが、MBTIを知ってから自分の中での変化や気付きはありましたか?

Hさん:MBTIを知ることで、イライラしたりもやもやしたりした時にその理由が分かるようになったのは良かったなと思います。今までは自分の行動や考え方が極端だなと思うこともあったのですが、同じタイプの人は同じように考えることもあるんだと分かると、自分の行動について落ち込んだり、引け目を感じたりすることが少なくなりました。人間関係においても、「なんでこうなの?」ではなく、「こういう考え方もあるんだな」「性格の違いなんだな」と思えるようになってからストレスが減りました。

Kさん:私も同じような感想ですね。Instagramなどで「MBTIあるある」を見かけるようになって、こういうふうに考えているのは自分だけじゃないんだなという安心感を得られました。

Nさん:僕は元々大人数の会話に入っていくことや人前で話すことに苦手意識があったのですが、最初に診断を受けた時に「外向的(E)」という結果が出ました。今考えると、ありたい姿に寄せて回答していたのかなとも思うのですが、最近は何度やっても同じ結果が出るので、“本当の自分”もありたい姿に近づいているのかもしれません。

Q:皆さん、ご自身の診断結果について納得した上で、ポジティブに捉えているようですね。大美賀さんは自分のMBTIを知ることの効果・影響についてどのように考えていますか?

大美賀さん:同じタイプの共感し合える人と話すことでより自己理解が深まるということはありますし、「自分だけではない」という安心感を得られるというのも良い効果だなと思います。Nさんのように、「なりたい自分」「見せたい自分」に寄った結果になるというのは、MBTIに限らず性格診断には見られることではありますが、診断をきっかけに理想の自分に近づけていくというのも悪いことではないです。

一方で、該当するタイプの特徴には当てはまらない自分を否定してしまったり、自分を型に当てはめて限界を決めてしまったりするという怖さもあります。「できるはずない」とか「できなくても仕方ない」とか自分を決めつけてしまうのはもったいないですよね。完全に自分のことを理解できるツールというわけではないので、自己決定の軸にするというよりは、あくまで参考情報にとどめておくのが良いと思います。

コミュニケーションツールとしてのMBTI

メンタルケア・コンサルタントの大美賀直子氏

Q:友人同士など、日常生活の会話の中でもMBTIに言及することはありますか?

Oさん:他人に自分の性格を分かってもらいたい時に使えると思っています。例えば、僕は飲み会とか大人数の場が好きではないのですが、「I(内向的)NFPだから」と言えば相手が理解してくれやすくなるんですよね。堂々と言い訳に使えるというか(笑)。

Hさん:確かに、自己紹介などの場面でも簡単に自分を説明できますよね。アイスブレイクで使うには良いツールだなと思います。私は大学のサークルの自己紹介コンテンツで今年からMBTIの項目が加わりました。

Kさん:この前、久しぶりに会う仲間との飲み会でネタが無くなった時に話題に上がりました。お互いのMBTIを知るとその後の会話も盛り上がるし、議論が起きそうな話題でも、「MBTIの違いだね」で丸く収まることもありますね。

Q:MBTIは自己理解のためだけでなく、コミュニケーションツールとしても日常生活に溶け込んでいるようですね。MBTI診断がこれほどまでにZ世代に受け入れられていることについて、大美賀さんはどのように考えていますか?

大美賀さん:Z世代によく見られる、何かを判断する際の“タイパ意識”にMBTI診断がハマったのだと思います。本来であれば、相手を全人的存在(※2)として捉え、いろいろ質問したり一緒に行動したりしながら相手のことを理解していくものです。一方、MBTIは、相手のタイプを聞くだけでなんとなく相手のことを理解した気になれてしまいます。“認知的節約”になるんですよね。しかしMBTIを絶対的な判断材料として、「自分はこのタイプだから」「あの人はこのタイプだから」と決めつけてしまうのはとても危険なことです。人間には「確証バイアス」というものがあり、都合の良い情報だけを信じようとする傾向があります。一度MBTIを知ってしまうと、「やっぱりあの人はMBTIが○○だから」と考えてしまうことがあるため、人間はバイアスがかかりやすいんだという自覚を持って、MBTIと向き合う必要があるのではないでしょうか。

MBTIを公開することへの抵抗感

Q:相手に質問したり対話を重ねたりする機会がないまま、その人のMBTIを知る場合もあります。例えば、SNSのプロフィール欄に記載している人もいれば、組織や団体のメンバー一覧にMBTIを記載するケースもあるようです。相手と関わったことがない状態でMBTIを知る・知られるということに対してどう考えていますか?

Oさん:僕は自分のMBTIを知られることで、役割づけをされたり過度に期待されたりすることがあるので、負担に感じるかもしれません。INFP(仲介者)は人と人の間を取り持つのが得意だなんて思われているようですが、実際はストレスに感じるので……。

Hさん:自分とは違う学部やサークルなど、広く浅く関わっているような人をなんとなく理解するための情報としてMBTIを知っておくのは良いと思います。でも個人的には、これから深く関わろうとしている人のMBTIを初対面で聞いてしまうと、「この人はきっとこうだろう」という先入観を持ってその人に接してしまうことになるので、そういう使い方はあまり納得がいきません。サークルでは、初対面の新入生に「MBTI何?」と聞く場面もありましたが、相手のことをある程度知った段階で、その人の性格や好みを表す材料としての使い方ができると良いのかなと思っています。

Q:あまり親しくない人にMBTIを知られることに対しては抵抗感もあるのですね。大美賀さんは、MBTIを公開することについてどう考えていますか?

大美賀さん:社会人の場合は、職業的アイデンティティーと合っているかどうかでMBTIを公開するメリットも変わってくると思います。例えば、私は心理カウンセラーとして相手と向き合う仕事をしているので、もしそのイメージに合わないMBTIだったら公開するメリットはありません。学生の場合も、先入観を持って見られるということは念頭に置いて、見せたい自分とマッチしているかどうかは考えておく必要があるかもしれません。ただ、MBTIを公開することで、その人のことを知った気になれるという側面だけでなく、同じMBTIの人にとって成功プロセスの参考になったり、「自分も同じことができるかもしれない」という希望につながったりするポジティブな面もあるのではないかなと考えています。

MBTIのキャリアへの介入

Q:では、社会人の皆さんにお聞きしますが、皆さんの職場でMBTIが活用されていく可能性について、どのように考えますか?

Kさん:皆さんのMBTIを知ることができたら話のネタにはなりますよね。実際に私は社内報の新入社員紹介でMBTIを公開しているのですが、社内で同じMBTIの人が話しかけてくれたこともありました。雲の上の存在だと思っていたような上司や先輩のMBTIを知ることで親近感を覚えるし、目標にもなりやすいんじゃないかなと思います。

Nさん:僕も自分の組織にどんなMBTIが多いかを知ることで、やっぱり自分はこの会社に向いているのかも、という安心材料になっています。職業や組織によってMBTI割合の傾向はあるのではないでしょうか。

Oさん:上司とうまくいかない時などMBTIを知ることができたら、もっと相手を理解できるようになったり対処法が分かったりするのかなと思うことはあります。ただ、得意・不得意を決めつけられたり、役割を勝手に期待されてしまったりする可能性があるので、MBTIの公開には賛成できないです。僕は「INFP」で、いわゆる「感情的(F)」に分類されますが、ロジカルに考えることももちろんあります。MBTIにとらわれ過ぎていると、実態とのギャップが生じた時に自分自身も周りも混乱してしまう可能性があるんじゃないかなと思います。

Q:大学生のHさんは就職活動を経験されたばかりだと思いますが、採用コンテンツ等でMBTIを活用している会社があったらどんな印象を受けますか?

Hさん:おちゃめな印象は受けますが、それを理由に評価が変わるかもしれないと思うと不安になってしまいます。もしその企業に「向いているMBTI」や「多いMBTI」が明記されていたら、企業分析の一環としては便利だと思います。ただ、性格タイプは寄せようと思えば寄せることはできるし、逆に本来の自分を出せなくなってしまうのではという懸念もありますね。

Q:キャリアにおけるMBTIの介入には賛否あるようですね。大美賀さんにお伺いしますが、 MBTI診断にかかわらずこうした性格診断ものは、採用や配属の指標としての有用性はあるのでしょうか?

大美賀さん:私が企業や組織においてカウンセリングを担当する際、信頼性と妥当性が保証された性格検査の質問紙を使うことはありますね。検査結果から自分の強みや弱みを客観視し、個性の生かし方を考えるツールとして活用しています。人間の性格や行動傾向は変わるものですから、カウンセリングでは、強みを伸ばし、弱みを克服していこうという考え方の下、自己変容に向けたフィードバックを行います。

一方、Webサイトで誰でも気軽に受けられる「MBTI診断」は、「自己理解」にとどまっていて、「自己変容」という視点が抜けていると感じます。例えば、内向型と外向型、思考型と感情型などのバランスや偏りを把握するツールとして活用し、プロの助言の下で、過剰な要素と足りない要素をどのように補完し合っていくかを考える使い方ができるのであれば、組織での活用にも発展の余地があると思います。

しかし、性格検査の活用についての十分な教育を受けていない人間が、MBTIという分類された情報だけで人の向き・不向き、優劣を判断し、採用や配属の判断材料にするのは推奨できません。そもそも、「健全な組織」とはいろいろな個性を持つ人が集まる組織であり、違ったタイプの人と関わり合える環境で意見を出し合ってこそ、新たな発見も得られますよね。

改めて考えたい、MBTI診断ブームの行方

Q:ありがとうございます。最後に、本日の座談会を通じて、Z世代の皆さんは今後MBTI診断とどのように向き合っていきたいと感じましたか?

Hさん:大美賀さんのお話を聞いて、MBTIが自分の個性の使い道を理解するきっかけになるのであればいいのかなと思いましたが、私は心理のプロではないですし、自分一人だけでは十分な思考・分析は進まないなと思います。Webサイトで気軽に受けられるものである以上、大事な決断の軸とするのではなく、趣味や娯楽の範囲で楽しむのがいいと感じました。また、自分よりもっと下のデジタルネイティブ世代がこうしたリスクを理解しないままMBTIに触れてしまっていると思うと、教育機関をはじめ、世の中全体でもっと慎重になる必要があるのかなと思います。

Oさん:僕は仲の良い友人ともMBTIを話題にすることが多かったのですが、今日の座談会に参加して、MBTIのリスク面にも改めて目を向けることができました。正式なMBTIとの違いや、どんなロジックをベースに開発されたツールなのかを今まで理解していなかったので、改めて勉強した上で活用していきたいと思います。

Kさん:私は普段おみくじなどでも都合の良い部分だけを信じるというところがあるので、MBTIに関しても同じ現象があるかもしれないなと座談会に参加して思いました。使う側もあくまで参考情報であるという自覚を持って向き合っていくのが良いかなと思います。

Nさん:僕はそこまでMBTIについて深く考えたことはなかったですが、良い面も悪い面もあるなと改めて考えるきっかけになりました。 MBTIが自分の背中を押してくれるような結果だったら良いかもしれませんが、もし何か大事な決定をする時に足を引っ張るような作用が働いてしまったらと思うと、やはり僕は“遊び”のツールとして向き合っていきたいです。

「16Personalities」は、誰でも気軽にMBTIを診断することができ、共通の話題としてコミュニケーションを盛り上げる有用なコンテンツの一つとなっている。しかし現状は、診断結果のアルファベット4文字が独り歩きしており、ルーツやロジックを考える機会はあまりなかったのではないだろうか。

「16Personalities」のような性格診断は、環境やメンタルの状態によっても結果が変わるものであり、その人のパーソナリティを決定づける情報としては不十分である。自分においても他人においても、あくまで回答した時点の思考・行動パターンを表したものに過ぎないということを理解した上で、向き合う必要がありそうだ。

時間をかけずとも自分や他人のパーソナリティの大枠を知ることができるのは確かに忙しい現代社会には合っているのかもしれない。しかしその利便性にとらわれて、自分や相手の人生に関わる重大な決定の判断材料として介入させることができるほど、人間は単純な存在ではない。教育、環境、社会、文化などさまざま側面から影響を受けてその人の今があり、そしてそれはいつでも変わり得るものであるという意識を持った上で、MBTIというコンテンツと向き合っていきたい。

大美賀 直子(おおみか・なおこ)
メンタルケア・コンサルタント
公認心理師、精神保健福祉士、産業カウンセラーの資格を持ち、「こころと人生と人間関係」のベストバランスを提案するカウンセラー、作家、セミナー講師として活動する。

(※1)一般社団法人日本MBTI協会より(https://www.mbti.or.jp/what/
(※2)全人的:人を一つの側面から見るのではなく、生物的、心理的、社会的、文化的、スピリチュアルといったさまざま側面から見ること。