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OpenAIがリアルタイム分析データベースを提供するスタートアップRocksetを買収したことが明らかになった。この買収により、OpenAIは自社の製品全体にわたるデータベース検索機能を強化する狙いがあるようだ。買収に伴い、Rocksetの全チームがOpenAIに移行することも発表されている。
OpenAIによるRockset買収の詳細と、この買収がAI業界にどのような影響を与える可能性があるのか。また、OpenAIの今後の戦略について探ってみたい。
買収されたRocksetはデータベース検索技術に長けたスタートアップ
今回、OpenAIに買収された米国発のスタートアップRocksetは、2016年にFacebookの元従業員によって設立された企業だ。
Rocksetは、クラウドベースのリアルタイムデータ検索と分析のデータベース、パーソナライゼーションや自動化などのデータ集約型アプリケーションの大規模な構築を可能にするサービスを提供。2023年には、自社サービスのAIユースケースにおける最適化を目的とした機能強化を行っている。
同社は、これまでに1.05億ドルの資金を調達しているが、今年8月にはさらに4,400万ドルの資金調達を行ったことが報道された。
OpenAIのチャットボットの性能強化が期待される
OpenAIの広報は、今回のRocksetとの取引は、過去の買収とは異なり、2社の技術と従業員を統合するものとなると述べているが、その具体的な詳細は現在のところ、それ以上明らかになっていない。
しかし、RocksetのCEO、ベンカット・ベンカタラマニ氏は「OpenAIに加わって、AIに強力な検索機能をもたらすことで、ユーザー、企業、開発者がデータを最大限に活用できるようにできることを嬉しく思う」と声明で述べており、Rocksetの買収により、OpenAIのチャットボットが、これまでよりも「より正確で文脈を意識した回答」ができるよう、さらに進化することが期待されている。
チャットボットAIによる回答の精度向上への期待高まる
AIの能力に関しては、処理できるデータの種類の豊富さやトークン数が強調されることが多いが、このような「より正確で文脈を意識した回答」も、それと同等に、むしろそれ以上に、ユーザーにとって重要であることは間違いない。
AIを使用する企業は、これまでもすでにこのような「検索拡張生成(RAG)」と呼ばれる手法の活用に取り組んできている。
これは、Meta、ロンドン大学、ニューヨーク大学の研究者らが2020年に発表した論文で考案されたもので、生成AIを外部の追加情報ソースとリンクさせ、特定のクエリの処理能力を向上させ、誤回答のリスクを減らすものだ。追加の情報ソースは、LLMが学習していないインターネット上の新しい情報や企業の内部文書まで様々なものが想定される。例えば、企業の内部文書を参照して、従業員の質問に答えるといったAIの活用が考えられる。
AIは実用性を意識した方向にも進化
実世界での実用性というよりは、処理速度やトークン数といったベンチマークを追い求め、強調しすぎていると非難されがちな昨今のIT業界。
しかし、このような追加情報ソースとのリンク能力の向上のように、ユーザーエクスペリエンスへより焦点をあてた方向にも、AIは確実に進化しているようだ。
OpenAIのライバル企業と言われるAnthropicが提供するAI「Claude」に備えられている機能「Artifacts」は、このユーザーエクスペリエンスの観点から注目されている。
ArtifactsはClaudeのチャットインターフェースの横に設けられた専用のワークスペースで、ユーザーはAIが生成したコンテンツをリアルタイムで直感的に操作および改良できる。その使い勝手の良さは、激化する生成AI企業の競争に、「インターフェース」を新たな戦場として持ち込むのではないかとも言われている。
OpenAIは買収の連続で生成AI戦線に挑む
このRocksetの買収は、OpenAIにとって2番目の大型買収となり、同社がAI領域における競争が激化する中での戦略的な動きを活発化させていることを表している。
昨年、OpenAIは、Instagramのコアエンジニアが在籍する、MMORPG制作米国スタートアップ「Global Illumination, Inc.」を買収。さらに今年は、元Dropboxのプロダクトマネージャーと元Googleのソフトウェアエンジニアによって設立されたMulti(旧Remotion)を買収している。
Multiはニューヨークに拠点を置く5人のスタートアップ企業で、Macを使用する従業員向けの画面共有およびコラボレーション技術を提供する企業だ。
法人向けAIを強化するOpenAI
この一連のOpenAIの取り組みは、ChatGPTの法人向け機能の強化を目的としたものだと考えられる。
昨年8月、OpenAIは「ChatGPTエンタープライズ」を発表した。このエンタープライズグレード版は、セキュリティとプライバシーが強化され、企業向けに設計されている。
データは完全に企業が制御可能で、すべてのやり取りが暗号化されており、新しい管理コンソールではドメイン認証、シングルサインオン(SSO)、使用状況報告などの機能も提供され、最新のGPT-4を搭載、高度なデータ分析ツールやカスタムAIプログラムを作成するための無料クレジットも提供されている、ビジネス利用に特化したものだ。
昨年の発表の段階でも、すでにFortune Global 500企業の80%以上がChatGPTを統合しているという実績があったが、「ChatGPTエンタープライズ」の発表後、その利用数も順調に増加、今年1月の約15万から3カ月後には約60万に増加したと報道されるなど、ビジネスシーンにおいて、もはや欠かせない存在となっているChatGPT。買収の連続によるさらなる機能強化に大きな期待が寄せられている。
文:大津陽子
編集:岡徳之(Livit)