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グーグルが、中核的な部門を中心とした大規模なリストラクチャリングを進めていることが報道された。
同社は、少なくとも200人の従業員をレイオフし、その対象には情報技術、Pythonデベロッパーチーム、技術インフラ、セキュリティ基盤、アプリプラットフォーム、コアデベロッパーなど各種エンジニアリング職が含まれている。
一方でグーグルは、インドとメキシコで削減した職種に対応する役割を新たに雇用する計画を示している。グーグルが進めるリストラクチャリングの詳細と、インドやメキシコなど新興国での雇用拡大の狙いをお伝えする。
中核組織の再編を目的としたレイオフ
GoogleのWebサイトによると、今回のレイオフの対象となっているコア部門は同社の主力製品を支える技術基盤を構築し、ユーザーのオンライン上での安全を保護する責任を負っており、多種多様なエンジニア職が働いている部門だ。
このレイオフで削減されたポジションのうち少なくとも50のポジションは、シリコンバレーのカリフォルニア州サニーベールオフィスのエンジニアリング職だ。解雇対象となった社員は、社内の募集中の職種に応募できる他、再就職支援サービスにもアクセスできるとのことだが、社内には動揺が広がっている。
グーグルは、オンライン広告市場の低迷を受け、昨年初めから大規模な人員削減を実施していたが、今年に入ってからも、複数の部門でレイオフが続いている。
削減された役職の多くは新興国で同様の役職を採用予定
しかし、直近の決算では、売上高が前年同期比15%増と、2022年初め以来の高い伸びを記録し、利益率も改善している。その中でこのようなレイオフを進めている理由は、単なる人員削減ではなく、開発の拠点を他の都市に移すなど、中核組織の再編を進めるところにあると言われている。
今回、シリコンバレーにおけるレイオフの対象となったポジションの多くは、シカゴ、アトランタなど米国内の他拠点の他、アイルランドのダブリンに加え、メキシコのメキシコシティと、インドのバンガロールでも同様の役職を採用する予定だという。
メキシコの拠点、メキシコシティは雇用拡大を歓迎
グーグルがリストラクチャリングにおける新たな中核的拠点として注目しているメキシコシティは、ラテンアメリカにおいてブラジルと並ぶ経済力を持つメキシコの首都であり、約2,000万人の人口を擁する大都市だ。
このメキシコシティにあるグーグルの7階建てのオフィスは、メキシコ市随一の高級住宅街であるロマス・デ・チャプルテペック地区にあり、すでにセールス、クラウドエンジニアリング、マーケティングなど複数のチームのハブとして機能している。
現地紙のメキシコ・ニュース・デイリーは、「Goodbye Silicon Valley, Hello Mexico City(さよならシリコンバレー、ハロー、メキシコシティ)」と、好意的な書き出しで今回のグーグルのレイオフ関連ニュースを報じている。
その報道によると、グーグルは現在、メキシコを拠点とする6つのエンジニアリング・技術職を募集しており、うち4つはメキシコシティオフィスが勤務地、2つはリモート可能なポジションとなっている。
シリコンバレーのオフショア先として発展、インドのバンガロール
一方、インドはグーグルがかねてより開発・生産拠点として重要視している国であり、同社の主力スマートフォン「Pixel 8」は、インドで地元の委託企業によって製造される予定となっている。
インドでグーグルがオフィスを置き、今回のリストラクチャリングで雇用を拡大する予定の都市バンガロールは、シリコンバレーのオフショア投資先として急激に成長、IT企業の拠点として世界に名が知られるようになった街だ。
比較的賃金の安いIT人材が豊富であり、時差の観点からもメリットが大きいことから、各国のIT企業が進出しており、ソニーなどの日本企業から、グーグルやマイクロソフト、インテル、フェイスブックなどの米国ビッグテックまで、数百の外国企業が拠点を置いている。
かつては下請け先として注目されていたバンガロールだが、今では、高度IT人材が豊富な「インドのシリコンバレー」として名が知られるようになっている。
新興国へのシフト、リストラクチャリングを含むグーグルの成長戦略
今回のリストラクチャリングについて、グーグルデベロッパー・エコシステム担当バイスプレジデントのアシム・フセイン氏は、「パートナーやデベロッパーコミュニティにより近い場所で事業を展開するため、現在のグローバルな拠点を維持しつつ、急速に成長するグローバル労働力の拠点も拡大する意向だ」と社内メールで、その方向性について述べている。
グーグルの主力スマートフォンの製造が、委託企業によってインドで行われる予定であることには触れたが、アップルも既存のサプライチェーンの少なくとも半分を中国からインドに移し、直接雇用をインドで拡大しようとしている。
大手IT企業にとって、可処分所得の中間層の割合が増加しており、人口規模も大きいインドのような国において、完成品の輸入にかかる関税を支払わずにすみ、コスト削減可能な国内生産を進めるために製造拠点を置くこと、またそれに伴って、開発事業の拠点もシフトするのは自然な流れだと言えるだろう。
レイオフの嵐の中、社員の間では士気低下も
しかし、当然ながら、この流れにグーグル社員の間には不安と不満が広がっているようだ。
エンジニア部門だけでなく、不動産部門と財務部門の複数のチームにも及ぶレイオフだけでなく、イスラエル軍とのクラウド契約をめぐってニューヨークとカリフォルニアのオフィスで座り込み抗議活動を行った社員約50人の解雇など、グーグルでは、社員が経営陣に不満を募らせるような出来事が続いている。
今年に入ってからは、全員参加の会議で、同社の堅調な収益にもかかわらず、コスト削減と昇給の欠如による「士気の著しい低下」を挙げ、幹部に対する不満を強く示す社員の姿も報じられた。
2023年の初めに1万2,000人の従業員を解雇すると発表した後、継続的に人員削減を行っているグーグル。日本でもトヨタと並び「働きたい企業」のトップに名を連ねるグーグルにとって、どのようにしてこれらの課題を乗り越え、持続的な成長を実現するかが今後の焦点となるだろう。
文:大津陽子
編集:岡徳之(Livit)